60歳からの保険
60歳を過ぎると、子どもの独立や、住宅ローンの完済などがみえてくる方も多いことでしょう。また、退職を迎え、ライフスタイルがそれまでとは変化することもあるでしょう。
家族の生活スタイルの変化により、必要となる保障内容も変わってきます。
医療保険の契約には保障が一生ある終身型のほかに、保障期間がある一定の年齢で終了する更新型があります。
第二の人生に入る前に、医療保険の契約内容と保障の過不足について再確認してみてはいかがでしょうか。
60代70代…で入院したらいくらかかるの?
60歳を過ぎても充実した毎日を送りたいと願う反面、「自分に介護が必要になったらどうしたらいいだろう?」「身体の衰えや事故などで、これまでのように動けなくなったら?」といった不安もでてくるでしょう。
いつまでも元気で毎日を楽しむためには、健康を維持することが大切な要素になっています。
年齢によって変わる医療費負担
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
高額療養費制度は69歳以下と70歳以上で医療費の自己負担限度額が所得区分によって決まっています。また、毎月の上限額は加入者が70歳以上かどうかや、加入者の所得水準によって分けられます。
また、70歳以上の方には、外来だけの上限額も設けられています。
(1)69歳以下の高額療養費制度
資料:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
(2)70歳以上の高額療養費制度
資料:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
平成30年8月1日から、70歳以上で目安となる年収が370万円を超える方は「現役並み所得者」として、上限額が引き上げられることに注意しましょう。
(3)100万円の治療費がかかり高額療養費制度を利用した場合の計算例
例えば、69歳以下の方で年収約370万~約770万円、70歳以上の方で年収約370万円を超える方の場合、100万円の治療費で窓口の負担(3割)が30万円かかるとすると、上記表の計算式にあてはめると以下のようになります。
図1 100万円の治療費がかかり高額療養費制度を利用した場合の計算例
- 自己負担の上限額
- 80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円
- 高額療養費として支給
- 30万円(3割負担)-87,430円=212,570円
資料:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
このように、100万円の治療費だと自己負担3割の30万円となるところを、高額療養費制度を利用することで87,430円になります。
(4)食事代
入院時食事療養費の標準負担額は、平成30年3月31日までは住民税非課税世帯を除き1食あたり360円、1日1,080円であったのが、平成30年4月1日から1食あたり460円、1日1,380円に引き上げられます。
仮に1カ月(30日間)入院して3食の食事をすると、従来の負担額は32,400円だったのが41,400円となり、改定前後の価格を比べると9,000円の負担増になります。
(5)医療費の他に気をつけたい費用はあるの?
公的医療保険制度の対象とならない費用として、先進医療にかかる費用、差額ベッド代、入院中の雑費(備え付けテレビの視聴、パジャマ、タオル、洗面用具など)、入院生活などの費用や病院によっては入院の際に保証金が必要な場合もあります。入院にかかる全体の費用についても考えておく必要があります。
どの年代が一番入院しているの?
(1)年齢階級別の平均入院日数
60歳以降、どのくらいの方が入院をしているのかについて、厚生労働省「平成26年(2014)患者調査の概況」からみてみます。
図2 年齢階級別にみた推計入院患者数
資料:厚生労働省「平成26年(2014)患者調査の概況」をもとに執筆者作成
80~84歳のときの入院患者数は60~64歳と比べて約2倍になっています。85歳以上からは入院患者数は徐々に下降しています。
(2)傷病別の平均入院日数
どのような病気で何日くらい入院しているのか、年齢階級別に傷病別の平均入院日数をみてみましょう。
表3 傷病別の平均入院日数
在院期間の総数 | 在院期間(日) | |||
---|---|---|---|---|
35~64歳 | 65歳以上 | 75歳以上 | ||
総数 | 31.9 | 24.4 | 41.7 | 47.6 |
感染症及び寄生虫症 | 20.9 | 18.3 | 31.5 | 37.1 |
悪性新生物 | 19.9 | 15.4 | 21.7 | 26.1 |
糖尿病 | 35.5 | 20.0 | 47.4 | 65.2 |
高脂血症 | 29.4 | 7.4 | 62.3 | 83.8 |
精神及び行動の障害 | 291.9 | 204.4 | 523.0 | 473.0 |
アルツハイマー病 | 266.3 | 217.8 | 267.4 | 257.6 |
眼及び付属器の疾患 | 4.1 | 4.6 | 3.9 | 4.1 |
耳及び乳様突起の疾患 | 7.8 | 8.3 | 8.1 | 8.1 |
高血圧性疾患 | 60.5 | 13.8 | 68.4 | 83.3 |
心疾患(高血圧性のものを除く) | 20.3 | 9.0 | 23.7 | 30.5 |
脳血管疾患 | 89.5 | 46.9 | 100.7 | 116.0 |
呼吸器系の疾患 | 27.3 | 15.2 | 39.0 | 41.7 |
消化器系の疾患 | 13.0 | 9.7 | 16.0 | 19.3 |
皮膚及び皮下組織の疾患 | 22.7 | 16.2 | 29.6 | 32.8 |
筋骨格系及び結合組織の疾患 | 31.1 | 20.9 | 38.1 | 45.2 |
慢性腎不全 | 62.9 | 35.0 | 72.0 | 88.1 |
骨折 | 37.9 | 21.9 | 47.7 | 51.9 |
資料:厚生労働省「平成26年(2014)患者調査の概況」をもとに執筆者作成
傷病別にみても、年齢を重ねるとともに入院日数が伸びることが共通しています。
しかし、悪性新生物(がん)は入院日数が比較的短く、他方で、認知症や精神及び行動の障害、アルツハイマー病は際立って入院日数が長くなっています。ご自身が不安に思われる病気の傾向をつかんでおきましょう。
入院の自己負担額の増加によって老後の資金に不安があるときは、早めに医療保険やがん保険などで入院費用を備えておくことも検討しましょう。
既に加入中の方は、60代以降は入院している方が増加し、また入院も長期化していることを踏まえて、何歳までいくらくらいの保障が受けられるのか注意をしながら、保険を確認しておくといいですね。
また、目立った病気がなくても自身が介護を受ける身になることが現実味を帯びてきますので、介護費用に不安を感じる場合は民間の介護保険などの活用も検討しましょう。
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コラム執筆者プロフィール
小山 智子 (コヤマ トモコ) - 宅地建物取引士/AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 専業主婦時代に、夫の借金を1,000万円肩代わりする。離婚後「お金を守る知識」の重要性を痛感。現在は、シングルマザーと独身女性の相談業務とマネー講座を中心に活動中。著書「誰にも頼れない女のお金の守り方」(秀和システム)。
鎌倉ウーマンライフプランニングオフィス 代表
ファイナンシャルプランナー 小山 智子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
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掲載日:2019年9月27日
民間医療保険の平均年間払込保険料は60歳~64歳がピーク
民間医療保険 平均年間払込保険料(かんぽ生命含む)
資料:(公財)生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」をもとに作成
上図をみてみると、50歳~64歳にかけて民間医療保険の平均年間払込保険料が高くなっていき、最も高くなるのは60歳~64歳の44.5万円となっています。
一般的に60歳代以降は、年金生活に入る年齢であるとともに、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、全てのがんで、罹患率が増加する年齢でもあります。
年金生活中に高額医療費の負担を抱えないために民間医療保険の加入を検討したり、年齢や生活環境の変化から保険会社やプランの見直しをしたりする方が多いのではないかと推測されます。
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掲載日:2020年5月25日
60歳からの保険、持病がある場合でも加入できる?
60歳になると、既に持病があるという方もいるかもしれません。
そういった方は、医療保険に新たに加入することはできるのでしょうか?
結論からいうと、60歳以上で持病がある方も加入できる医療保険は存在しています。
持病がある方でも加入を検討できる医療保険には、主に以下のようなタイプがあります。
- 引受基準緩和型保険
- 「限定告知型保険」「選択緩和型保険」とも呼ばれ、一般の医療保険よりも契約時の告知項目が少ない保険です。
各社所定の3~5個程度の告知項目に該当しなければ、契約が可能です。
通常、一般の医療保険よりも保険料は高めになります。 - 無選択型療保険
- 告知も医師の診査もなしで加入できる医療保険で、引受基準緩和型よりさらにハードルが低いのが特徴です。
しかし、保険料はその分高くなるので、保障内容と保険料のバランスをはかりながら加入を検討しましょう。
厚生労働省「平成29年度 医療給付実態調査」によると、60代の1人当たりの平均医療費は約38万円となっています。医療費は年齢に比例して増加する傾向があるので、その後も医療費の負担は増加していくと予想されます。
持病がある場合は、さらに医療費が高額になる可能性もあります。
そのため、自身の預貯金と将来のことを考慮に入れながら、医療保険に加入するか検討するのが良いでしょう。