平均入院日数から考える 20代~30代前半の医療保険
はじめに
こちらのコラムでは、20代~30代前半の世代に適した医療保障について、いくつかの医療保険を参考にみていきます。こちらではネット専用の医療保険以外を取り上げていきます。
入院給付金がベースになる医療保険
医療保険のベースとなる保障は、入院給付金になります。
入院給付金の日額をいくらにするか、1回の入院あたりの支払限度日数を何日にするかによって、保険料は変わります。
新聞、雑誌等の広告では、入院日額5,000円、1回の入院あたりの支払限度日数60日という設定で保険料を計算している例をよくみます。これは、入院給付金として、1回の入院で最大30万円(5,000円×60日)受け取れるということです。
多くの医療保険は、日額が5,000円または1万円、1回の入院あたりの支払限度日数が60日または120日という設定になっています。それ以上の日額や1回あたりの支払限度日数が180日、360日等長い日数を保障される医療保険もあります。
入院給付金を受け取れる条件として、5日以上の継続入院で5日目から支給する(最初の4日は給付の対象にならない)ものと、入院初日から給付の対象になる2つのタイプに大別されます。最近では、5日未満の入院に対して、一律5日分の入院給付金を支払うタイプの保険も発売されています。
また、病気の種類によって1回の入院あたりの支払限度日数が変わる保険もあります。 例えば、三大疾病(がん、心疾患、脳血管疾患)の場合に支払限度日数が無制限になるタイプ、七大生活習慣病(上記三大疾病、糖尿病、高血圧性疾患、肝硬変、慢性腎不全)の場合は、支払限度日数が60日追加されるタイプもあります。入院日額については、がんと他の傷病によって日額を分けている保険会社もあります。
実際の平均入院日数は
厚生労働省が発表しています「患者調査(平成23年)」によると、病院と一般診療所を合わせた平均入院日数は、32.8日になっています。
これを3つの世代別でみますと、
表1 世代別でみた平均入院日数
世代 | 15~34歳 | 35~64歳 | 65歳以上 |
---|---|---|---|
平均入院日数 | 12.1日 | 26.2日 | 44.0日 |
資料:厚生労働省「患者調査(平成23年)」を参考に執筆者作成
になり、65歳以上の世代が全体の平均入院日数を押し上げていることがわかります。
また、平均入院日数が長い傷病分類をみた場合には、
表2 世代別でみた平均入院日数が長い傷病
15~34歳 | 傷病分類 | 精神及び 行動の障害 |
神経系の疾患 | 内分泌、栄養及び 代謝疾患 |
---|---|---|---|---|
平均入院日数 | 60.3日 | 31.6日 | 22.8日 | |
35~64歳 | 傷病分類 | 精神及び 行動の障害 |
神経系の疾患 | 循環器系の疾患 |
平均入院日数 | 236.2日 | 55.8日 | 23.3日 | |
65歳以上 | 傷病分類 | 精神及び 行動の障害 |
神経系の疾患 | 循環器系の疾患 |
平均入院日数 | 501.6日 | 105.4日 | 53.5日 |
資料:厚生労働省「患者調査(平成23年)」を参考に執筆者作成
となり、3つの世代とも「精神及び行動の障害」や「神経系の疾患」が全体の入院日数を押し上げています。
20代~30代前半の医療保障について
上記の<表1>の15歳~34歳の平均入院日数(12.1日)及び<表2>の傷病別の平均入院日数を参考にして、「1回の入院あたりの支払限度」を考えますと、20代~30代前半の平均入院日数及び、教育費や住宅ローン等の費用が最もかかる40代~50代に該当する35歳~64歳の平均入院日数から判断して、1回の入院あたりの支払限度日数60日をベースに検討するのが、よろしいかと思います。
また、極端に入院日数の長い「精神及び行動の障害」の「1回の入院あたりの支払限度」を超えた部分については、預貯金等でカバーすることも併せて考えて、保険料を抑える工夫をしてみましょう。
入院時の自己負担費用については、生命保険文化センター「生活保障に関する調査(平成25年度)」が参考になります。この調査によると、入院時の自己負担費用の平均は22.7万円、費用の分布では10万~20万円未満が35.3%と最も多くなっています。また、1日あたりでの平均は2.1万円、費用の分布では、1万~1.5万円未満が26.2%と最も多くなっています。
自己負担費用の主なものは、治療費、食事代、差額ベッド代、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)になります。ただし、上記の患者調査のように年齢別での集計ではない点を考慮しましょう。
入院日額を決める際には、日額の平均2.1万円や費用分布の1万~1.5万円をベースに考えるより、入院時の自己負担費用平均の22.7万円または費用分布の10万~20万円未満をベースにして考えるほうが、保険料を低く抑えることができるかと思います。
また、全額を保険でカバーするというよりも、自己負担費用の内の何割を預貯金等の自己負担でカバーし、残りの部分を医療保険でカバーするという考え方で検討すると、入院給付金日額の幅が広がり、医療保険の選択の幅も広げることが可能になります。
20代~30代前半の世代は、結婚や子どもの誕生等、様々なライフイベントにお金がかかる時期でもあります。初めて医療保険に加入する場合は、基本の保障のみを備えることで保険料を抑えるのも一案です。併せて、その後の生活の変化や家族構成の変化に応じて、期間ごとに保障を厚くしたり減らしたりすることも、ライフイベント表等を活用して考えておきましょう。
また、医療保険とがん保険に別々に加入する場合は、がん保険の最近の傾向を押さえておきましょう。がん保険は、「入院給付金」から「がん診断給付金」や「がん治療給付金」等の一時金の給付を重視する方向に動いています。がんによる入院日数は、表3のように年々短くなっていますので、入院給付金は医療保険の範囲でカバーすると考えて、医療保険とがん保険のトータルの保険料を抑えることも検討してみましょう。
表3 がんの平均入院日数の推移
年 | 平成17年 | 平成20年 | 平成23年 |
---|---|---|---|
平均入院日数 | 24.6日 | 22.4日 | 19.5日 |
資料:厚生労働省「患者調査(平成17~23年)」を参考に執筆者作成
最後に
今回は、医療保険の保障のベースになる入院給付金について、厚生労働省「患者調査」を参考に平均入院日数等をみてきました。次回は、入院給付金以外の保障や特約等についてみていきます。
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コラム執筆者プロフィール
恩田 雅之 (オンダ マサユキ) マイアドバイザー.jp®登録 - 1959年東京生まれ。
2004年3月にCFP®資格を取得。
同年6月、札幌にて「オンダFP事務所」を開業。
資産運用をテーマとした個人向けのセミナー講師や3級、2級ファイナンシャル・プランニング技能士取得の講師やライフプラン、金融保険関連のコラムやブログの執筆など中心に活動中。
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コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 恩田 雅之
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
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掲載日:2019年1月20日
20代~30代前半の民間医療保険の考え方
病気やケガでの入院時には、大きく分けて2つ「医療費」と「働けないことでの収入減」という負担がかかります。
そのため、公的医療保険や高額療養費、傷病手当金などの制度を利用しつつ、経済的な負担を民間の医療保険で補う方も多いのではないでしょうか。ライフスタイル別に民間医療保険の考え方をみていきましょう。
独身の場合
万一の病気やケガでの入院時のリスクに備えるために、民間の医療保険に加入するというのが主な目的でしょう。
無理に手厚い保障内容の保険に加入する必要性はありませんが、働けないことで収支のバランスが崩れてしまうことを不安に思う方は、負担を補うために民間医療保険に加入するのが理想的です。
結婚後、夫婦共働きの場合
どちらか一方が病気やケガで入院することになった際に、世帯として得られる収入減のリスクに備えて、民間の医療保険に加入するというのが主な目的でしょう。
夫婦共働きのため、同時に入院することを除いて、世帯として収入が途切れることがないので大きな経済的ダメージは少ないといえます。
まずは保険の加入の前に「毎月の世帯収入」と「預貯金を考慮してどの程度の余裕があるか」を知っておくことが必要でしょう。
また、考え方の1つとして、夫婦どちらかが入院することで毎月の収支のバランスが崩れてしまう場合は、特約を付加することも考えながら、手厚い保障内容の保険に加入することを検討してみるのもおすすめです。
一方で毎月の収支に余裕があるという場合は、シンプルな保障内容の保険に加入しておいても良いでしょう。
結婚後、子どもがいる場合
毎月の生活費に加え、子どもの養育費と教育費もかかってくる家庭では、病気やケガでの入院時のリスクに備えることは大切です。
中学校・高等学校・大学と学費がかかってくる家庭は、子どもの教育費の負担が落ち着くまでは、不測の事態に備えて手厚い保障内容の保険に加入しておくということもリスク回避の考え方の1つでしょう。
「毎月の貯蓄が十分できている」という場合を除いて、収支のバランスが大きく崩れることが想定される家庭は、手厚い保障内容の民間医療保険に加入する検討をおすすめします。
なお、保険に加入する際には、保険契約者または被保険者は、保険会社に対して健康状態の告知をする必要があることを忘れないでおきましょう。
今後、病気やケガなどが理由で、加入ができなくなる可能性のある保険もありますので、「健康なうちに保険への加入の検討を始める」という考え方も必要です。