高額療養費制度とは
日本の医療保障制度は、諸外国に比べ充実した制度になっています。例えば、今回ご紹介する「高額療養費制度」は、入院や手術で多くの治療費が必要になった場合、非常に頼りになる制度ですので、医療保険選択の前にまずはこの制度の概略を把握するようにしましょう。
1.高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、病院等医療機関や薬局の窓口で1カ月に支払った自己負担額が、収入に応じて決められた一定額を超えた場合、その超えた分が高額療養費として還付される制度です。一般的な所得(年収約370万~約770万円)の場合は、以下で計算した額が自己負担限度額になります。
1カ月の自己負担限度額=『80,100円+(医療費総額-267,000円)×1%』
例えば、医療費総額が100万円で、窓口の負担が30万円かかる場合(自己負担割合が3割の人の場合)、上記の式にあてはめて計算すると、自己負担限度額は87,430円となり、医療費の支払いが大きな負担になることは少ないことがわかります。ただし、個室に入った場合の差額ベッド代や、食事代および先進医療等、健康保険適用外の治療にかかる費用は高額療養費の対象外になりますので注意しましょう。
2.高額療養費制度改正
平成27年1月1日から70歳未満の方の高額療養費制度が見直され、従来は上位所得者・一般所得者・住民税非課税者の3段階に区分されていましたが、今回の見直しで5段階に細分化されました。所得によっては、負担が増加または減少するケースが考えられます。
例:最上位所得層(年収約1,160万円以上の場合)で医療費総額が100万円の場合
- 改正前:『150,000円+(医療費総額-500,000)×1%』→ 自己負担限度額155,000円
- 改正後:『252,600円+(医療費総額-842,000)×1%』→ 自己負担限度額254,180円
改正前と改正後で比較すると、改正後の方が99,180円の負担増となります。現在は改正前と改正後で負担額に変更がない方でも、今後の収入アップで段階が上がると大きな負担増に直面することも十分考えられます。
3.公的な医療保障制度
現在は、健康保険証を提示すれば医療費の1~3割負担で済みますし、高額療養費制度もありますので、万一のときのセーフティネットが用意されています。しかし、日本は少子高齢化が加速的に進んでおり、現在の医療保障制度を維持できるかどうか疑問を持たざるを得ない現状です。財政状況が悪化すれば負担割合が増し、再度高額療養費制度が変更される可能性もゼロではありませんので、今から自助努力で何らかの対策を講じる必要があるかもしれません。
4.付加給付制度
付加給付制度とは、従業員が700人を超えるような大手企業の健康保険組合等が、上記の高額療養費の自己負担額をさらに軽減するため基準額を設け、基準額を超えた費用を払い戻す制度です。1カ月間にかかった医療費の自己負担限度額の基準額を2万円等と決めている場合が多く、自己負担額がこの金額を超えた部分は、後で払い戻しされます。会社から支給される福利厚生ハンドブックに掲載されていることが多いので、確認するようにしましょう。
なお、国民健康保険に加入する自営業の方はこの制度の適用がありませんし、仕事を休めば収入が下がりますので、自分自身で対策を講じる必要があります。
5.まとめ
民間の医療保険の保障は、高額療養費制度等の公的な医療保障制度の上乗せという位置づけになります。ただし、差額ベッド代や食事代および先進医療は高額療養費制度の対象外ですし、治療中の生活費も必要ですので、負担軽減のために医療保険加入を検討するのも良いでしょう。また、日本の現状から公的な医療保障が今後縮小される可能性もありますので、安心感を得るために医療保険へ加入するのも一つのリスク対策ではないでしょうか。
まずは、医療保険選択の前に医療保障制度の理解から始めるようにしましょう。もちろん、預貯金等家計の状況や、お勤め先の制度を把握するのが大前提になります。
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コラム執筆者プロフィール
長谷 剛史 (ハセ タケシ) マイアドバイザー.jp®登録 - 学校法人・会計事務所勤務を経て2007年1月、大阪府堺市に独立系FP事務所を開業。
ファイナンシャルプランナーはお金の専門家ではありますが、幸せな家庭を作る専門家でありたいと常々思っています。
住宅・資産運用・保険の3つの分野に強いファイナンシャルプランナーとして、ライフプランを基本とした個別相談・講演・執筆等の活動を行っています。
ファイナンシャルプランナー 長谷 剛史
- ※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
- ※本記事は、2015年8月21日に掲載された記事です。そのため、記事内容は掲載日のものであり、現在と情報内容が異なっている場合がございますので、本記事の閲覧・利用等に際しては、ご注意ください。