2020.03.11
公的年金制度は専業主婦や専業主夫にやさしい?
公的年金制度には、高齢になったときに受給する老齢年金のほかに、重度の障害を負ってしまったときや一家の大黒柱が亡くなってしまったときに残された家族が受給できる年金があります。
では、専業主婦や専業主夫からみた年金制度にはどんなものがあるのでしょうか?
主婦や主夫のための第3号被保険者制度
1985年の改正前までは共働きよりも専業主婦が多く、その頃の年金制度は、会社員や公務員などの夫に扶養される専業主婦は国民年金に任意加入ができる制度でした。
しかし、任意加入をしていなかった場合、離婚したときや障害を負ったときに、年金保障が受けられないといった問題がありました。
年金制度の改正で、「第3号被保険者制度」が導入されたことにより、会社員・公務員などの第2号被保険者に扶養される主婦や主夫も国民年金の強制適用対象となりました。
そのため、会社員・公務員などに扶養される所得要件を満たした主婦や主夫の保険料は、第2号被保険者全体でその費用を負担することとなり現在に至っています。
万一の場合の年金制度
一家の大黒柱である国民年金または厚生年金保険の被保険者が亡くなってしまったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受給できる制度として「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。
この制度は専業主婦や専業主夫にとってどんな制度なのでしょうか。
(1)遺族基礎年金と遺族厚生年金
2014年3月末まで、遺族基礎年金の受給は「子どものいる妻」か「子ども」に限られ、子どものいる夫には受給資格がありませんでした。
この男女差を解消するために、対象が「子どものいる妻」から「子どものいる配偶者」に変更され、2014年4月から要件を満たした父子家庭も遺族基礎年金を受給できるようになりました。
一方、遺族厚生年金の受給は、子どものいる妻に年齢要件はありませんが、子どものいる夫には妻の死亡時に55歳以上という年齢要件があります。
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(2)妻には中高齢寡婦加算がある
中高齢寡婦加算は遺族厚生年金の加算給付の一つで、「夫が死亡したときの妻」が40歳以上で子がいない場合(夫の死亡後40歳に達した当時、子がいた場合も含む)、遺族厚生年金に中高齢の寡婦加算(定額)が加算されて受給できます。
対象は妻のみで、「妻が死亡したときの夫」には中高齢寡婦加算の給付はありません。
ライフステージに合わせた年金制度
暮らし方や働き方に変化の出る子どもの誕生や、仕事、離婚などの面から見た場合、専業主婦や専業主夫の年金制度にはどんなものがあるのでしょうか。
(1)出産と育児休業中の年金免除制度
育児支援の観点から、育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等期間について、父母ともに育児休業を取得することができ、健康保険・厚生年金保険の保険料は免除されます。
それに加え女性については、2014年4月30日以降に産前産後休業が終了となる場合には、産前産後休業期間とされる産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間についても健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されるようになりました。
(2)仕事に関する年金制度
2016年10月から従業員数が常時501人以上の法人・個人・地方公共団体に属する適用事業所で、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者の方、および国に属する全ての適用事業所で働く方に対して厚生年金保険の適用範囲が拡大されました。
さらに2017年4月からは、常時500人以下の労使合意に基づき申出をする法人・個人の事業所や地方公共団体に属する事業所で働く短時間労働者も、厚生年金保険に加入できるようになりました。
これにより、パートタイマーやアルバイトなどをしている主婦や主夫自身の将来受給できる年金が増えるなどのメリットがあります。
しかし、配偶者の扶養範囲内で働くと年金保険料の自己負担がないことから、扶養の範囲内で収入を調整しながら働いている方もいます。
(3)離婚に関する年金制度
離婚による年金分割の面から見ると、2007年から「合意分割」(当事者の一方からの請求)、2008年5月以後は「3号分割」(第3号被保険者だった方からの請求)ができるようになり、婚姻期間中の厚生年金部分を分割することができるようになりました。
このように、さまざまな制度で専業主婦や専業主夫が守られていることから、年金制度は専業主婦や専業主夫にやさしい年金制度といえそうです。
一方で、専業主婦や専業主夫にやさしい年金制度は、収入が130万円以内の短時間労働の主婦や主夫も第3号被保険者となるため、共働き世帯や単身世帯と比べて負担と給付の関係が不公平ではないかという声もあります。
配偶者に扶養される専業主婦や専業主夫、パートタイマーで働く主婦や主夫、正規雇用、非正規雇用、また離婚した場合など、ライフスタイルによってかかわる年金制度は変わります。
国民年金納付期間にカウントされる第3号被保険者はメリットだけではない
「専業主婦や専業主夫は第3号被保険者に該当し、ご自身で保険料の納付をすることなく保険料納付期間として認められる」と聞くとメリットばかりのように聞こえますが、一方で注意すべき点として以下のような点が挙げられます。
第2号被保険者よりも年金総額が少なくなる
第3号被保険者の年金は、第2号被保険者よりも年金総額が少なくなります。
第3号被保険者は老齢基礎年金のみですが、第2号被保険者である配偶者の年金には、老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされるからです。
また、1986年3月以前には第3号被保険者の制度が無く、国民年金保険の加入義務も無かったため、例えば、それ以前に結婚しサラリーマンの妻になった方のなかには、納付期間として認められるものの国民年金を納めていない「合算対象期間(カラ期間)」が生じている方がいます。
カラ期間は年金額に反映されないため、さらに老齢基礎年金の受給額が減ってしまうことになります。
将来もらえる年金の上乗せのための制度が利用できない
第1号被保険者には、老齢基礎年金の受給額を増やすために利用することができる「国民年金付加年金制度」や「国民年金基金」などの制度があります。
しかし、国民年金付加年金制度や国民年金基金について、第3号被保険者は利用することができないことを覚えておきましょう。
専業主婦や専業主夫にとってやさしい年金制度について、注意点を含めこのシリーズコラムでお話していきたいと思います。
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