がんの治療費
「がんになるとお金がかかる」とよく言われますが、実際に自分や家族ががんになったらどれくらい治療費がかかるのか気になっている方は多いのではないでしょうか。
今回はがんにかかる治療費とその治療費を賄う公的な保障制度を確認してみましょう。
1.がんの治療費
がん=悪性新生物で入院した場合の1件当たり治療費は、約67万円になります(厚生労働省「医療給付実態調査」平成24年度報告書より)。
脳血管疾患の約71万円と並び、治療費が相当程度かかります。「がんになるとお金がかかる」というのは、このようなデータの裏付けがありますので、正しい認識であるといえるでしょう。
ただし、多くの方の治療費は公的医療保険により、自己負担は1~3割(年齢・所得による)ですので、この金額をそのまま支払うわけではありません。
2.がんでの入院日数
「がん=長期入院」というイメージがあるかもしれませんが、実際のがんでの平均入院日数は19.5日です。
詳細をみると、部位別では胃がんが22.6日と長く、乳がんは11.8日と比較的短くなっており、また年齢別では、75歳以上が26.5日と他の世代に比べ長めになっています(厚生労働省「平成23年(2011)患者調査の概況」より)。
このデータから、思ったほど長期入院ではないことがわかりますし、最近の傾向として以前より入院日数が短期化しているのが現状です。
ただし、がんは再発により複数回入院することもありますので、総入院日数が長くなることも考えられます。
3.高額療養費制度
高額療養費制度とは、1カ月に支払った治療費が一定額を超えた場合、その超えた分が支給される制度です。
平成27年1月以降の診療分から、70歳未満の方の高額療養費制度が変更され、所得によってこれまで3段階に分かれていたものが、5段階に分かれることになりました。
5段階のうち、真ん中の階層(年収約370万~約770万円)の方の自己負担限度額の計算式は「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」になり、例えば医療費が、月の初めから終わりまでの間に100万円かかったとしても、87,430円が実際に支払う治療費になります。
4.高額療養費制度のポイント
以前は病院の窓口で自己負担限度額を超える分もいったん支払い、後で超えた分が還付される仕組みでしたが、現在は協会けんぽや市区町村等の加入する医療保険へ事前に申請し、「所得区分」の認定証を準備しておけば、窓口での支払いは自己負担限度額ですみます。
また、高額療養費の該当回数が1年で4回以上となった場合は、4回目からさらに自己負担限度額が引き下げられます。
さらに、医療費と介護費の合算で計算される「高額医療・高額介護合算療養費制度」も設けられています。
5.保険適用外の治療費
高額療養費制度が適用されると実際の負担額はそれほど大きくなりませんが、入院時の食事療養費や差額ベッド代は高額療養費制度の対象外になりますので、これらの支払いが膨らむと負担感は増すことになります。
また、先進医療で用いられる抗がん剤治療については、高額療養費制度は適用されないため、先進医療による抗がん剤治療を受けると自己負担の総額が数百万円にのぼる可能性もあります。
6.まとめ
私自身、がんで亡くなった親族が多く、がんになった場合のリスク対策を考えています。
その対策は、「がん保険への加入」と「預貯金の準備」の2つになります。
保険料を支払いすぎて現在の生活に影響がでるのも問題ですが、高額療養費制度が適用されない治療への備えとしては、やはりがん保険への加入が必要だと思います。
ただし、全てのリスク対策を保険に頼るのではなく、預貯金は万能ですので、万一のときに使えるよう少しずつでも増やし、保険と預貯金とのバランスは考える必要があります。
また、がんにならない対策も必要です。適度な運動・バランスのとれた食事・がん検診受診等を挙げることができます。
喫煙者は、まず禁煙を考えましょう。仕事や家事等忙しく、これらのことに意識が向かないという方も多いかもしれませんが、ぜひ意識改革をしてがんにならない生活習慣を身につけるようにしましょう。
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コラム執筆者プロフィール
長谷 剛史 (ハセ タケシ) マイアドバイザー.jp®登録 - 学校法人・会計事務所勤務を経て2007年1月、大阪府堺市に独立系FP事務所を開業。
ファイナンシャルプランナーはお金の専門家ではありますが、幸せな家庭を作る専門家でありたいと常々思っています。
住宅・資産運用・保険の3つの分野に強いファイナンシャルプランナーとして、ライフプランを基本とした個別相談・講演・執筆等の活動を行っています。
ファイナンシャルプランナー 長谷 剛史
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
掲載日:2020年3月4日
がんの治療費を賄うためのがん保険
がん保険の加入を検討する場合のポイントと気をつけたい点をみていきましょう。
がんの治療費を考えると、がん保険って必要?不要?
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、生涯でがんに罹患する確率は「男性62%・女性47%」となっており、いずれも「2人に1人が、がんに罹患する」といわれています。
表 公的医療保険の自己負担割合
年齢 | 一般・低所得者 | 現役並み所得者 |
---|---|---|
75歳以上 | 1割負担 | 3割負担 |
70歳~74歳 | 2割負担 ※平成26年4月以降70歳になる者から |
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義務教育就学後~69歳 | 3割負担 | |
義務教育就学前 | 2割負担 |
資料:厚生労働省ホームページをもとに作成
医療費の自己負担割合は表の通りとなります。しかし、先進医療費は全額自己負担(※)であることや、がんの罹患率の高さを考えると、貯蓄などで賄えない部分には、がん保険が必要だという考え方もできるでしょう。
(※)一般の保険診療と共通する部分(診察料・検査料・投薬料・入院料など)の費用は、公的医療保険が適用されるため、各健康保険制度における一部負担金を支払います。
しかし、がん治療に備えるために保険に加入しても、保険料を支払うことが家計の負担になるのであれば、保険に加入することは必ずしも得策ではありません。
生活習慣病であるがんにならないような予防をした上で、がんに罹患した場合の治療費や、利用できる公的制度などを理解し、自分にとってがん保険が必要かどうかよく検討しましょう。
がん保険を選ぶポイント
がん保険の保障内容には、「診断給付金・入院給付金・手術給付金・通院給付金」などがあります。
図 悪性新生物の入院患者数と外来患者数
※平成23年は、宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏および福島県を除いた数値です。
資料:厚生労働省「平成29年(2017)患者調査の概況」をもとに作成
図をみると、悪性新生物の入院患者数は年々減少傾向となっているのに対し、外来患者数は増加傾向となっています。
このことから、がんの治療は入院治療よりも通院治療が中心となる可能性があるため、保険を選ぶ際には、通院治療に対する保障が手厚い保険商品を検討することも選択肢の一つです。
また、全額自己負担となる先進医療費に対して不安に思われる方は、保険商品の主契約または特約で保障できるか確認してみましょう。なお、保険会社によっては数百円程度でがん先進医療特約が付加できる、保険商品があります。
がん保険を選ぶ場合に気をつける点
一般的にがん保険には、「待ち期間」と呼ばれる契約日から90日、または3カ月などの保障対象とならない期間があり、待ち期間中にがんと診断されても保障が開始されていないため、給付金を受け取ることができません。
また、「上皮内新生物」については保障対象外になっている場合がありますので、契約する前にしっかり確認しておきましょう。
その他にも、責任開始期以後の保険期間中に、初めてがんと診断されたときに受け取れる「がん診断給付金」には、保険会社によって1回のみの受け取りと、複数回受け取れるものがあります。
がん診断給付金が1回しか受け取れない場合、がんの再発・転移などの際に自己負担となってしまいますので、併せて確認しておくと良いでしょう。
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