先進医療とはどのようなもの?

がん保険や医療保険など治療費に備えるための保険のなかに「先進医療」に対する保障があります。
では先進医療とは具体的にどのようなものでしょうか?先進医療について知ったうえで、がん保険ではどのような備えができるかみていきましょう。
先進医療は厚生労働省が認めた医療技術
先進医療とは、最新の医療技術のなかで安全性と治療効果が確保されたものとして厚生労働省が認めた技術のことです。
通常、公的医療保険(健康保険や国民健康保険など)の対象とならない最新の治療法と、公的医療保険で認められる治療法を併せて使う場合は、いずれも自由診療とされ全体的に公的医療保険を利用できなくなってしまいます。
しかし、先進医療として認められた治療法であれば公的医療保険の対象となる治療法との併用が認められており、公的医療保険で認められる治療については公的医療保険における自己負担割合(70歳未満は3割)ですみ、先進医療の部分だけが全額自己負担となります。
図1 自由診療のイメージ

資料:執筆者作成
つまり、先進医療は最新の医療を受けやすくしてくれるための制度です。具体的な費用負担例について下図でみてみましょう。
図2 先進医療を受けた場合の自己負担

資料:厚生労働省「先進医療の概要について」をもとに執筆者作成
がん治療における先進医療
先進医療はがん治療においても活用されています。代表的なものとして陽子線治療や重粒子線治療があります。
これらは粒子線を用いた放射線治療で、身体を切らずに治療を行えるため身体的な負担が少なくてすみ、早い社会復帰を目指すことができます。
先進医療にかかる費用は受ける技術内容と医療機関によっても異なりますが、陽子線治療・重粒子線治療は比較的高く約300万円かかります。
表 先進医療にかかる費用(例)
技術名 | 費用1件あたりの平均額 |
---|---|
重粒子線治療 | 約315万円 |
陽子線治療 | 約277万円 |
ペメトレキセド静脈内投与及びシスプラチン静脈内投与の併用療法(肺がん) | 約100万円 |
経皮的乳がんラジオ波焼灼療法(早期乳がん) | 約15万円 |
資料:厚生労働省「平成29年度先進医療技術の実施報告等について」をもとに執筆者作成
また先進医療の対象と認められるには、その実施医療機関も厚生労働省から承認を得ていなければなりません。
陽子線治療を行う医療機関は千葉県・静岡県・兵庫県などの全国で13機関、重粒子線治療を行う医療機関は群馬県・神奈川県・佐賀県などの全国5機関しかありません(平成30年1月1日現在)。
先進医療を受けるには、治療費だけでなく治療を受けに行くための交通費や宿泊費もかかると考えておいた方がよいでしょう。
がん先進医療特約の保障内容と注意点
重粒子線治療や陽子線治療のように、がん治療の先進医療では特に費用が高額になることがあるため、がん保険においては「がん先進医療特約」を付加できるものが主流です。
がん先進医療特約では、保険金額を上限に、がんの治療を目的とした先進医療の技術料と同額の給付金を受け取れます。保険金額の設定は保険会社によって異なりますが通算2千万円とするがん保険が多くあります。
また、技術料以外に、給付金の10%や一律15万円など別途一時金を同時に受け取れるがん保険もあります。これらは、先進医療を受けるための交通費や宿泊費等に活用できます。
注意したいのは、先進医療は厚生労働省に認められた技術である点です。
先にも述べましたが、先進医療は高度な医療技術のなかでも厚生労働省によって認められたもので、医療技術ごとに適応症(対象となる症状など)や医療機関まで特定されています。
またこれらは定期的に見直しもされているため、契約時に先進医療とされていても治療を受けるときには先進医療でなくなっていた場合は保障の対象外になる場合もあります。
治療を行う前に、保険会社に問い合わせて「がん先進医療特約」の対象になるか確認しておくと安心です。
また「がん先進医療特約」では、保障の対象となるのががん治療を目的とした先進医療である点も注意が必要です。
がんだけでなく、広く一般のケガや病気を保障する医療保険においても「先進医療特約」があります。
医療保険の先進医療特約はがんに限定されず先進医療であれば保障の対象となりますが「がん先進医療特約」の場合の保障の対象はがん治療を目的とする場合のみです。
その分「がん先進医療特約」の保険料は比較的低くなりますが、どのような先進医療も保障したいと考えるのであれば医療保険で先進医療特約に入るのがよいでしょう。
まとめ
先進医療とは、最新の医療技術のなかでも厚生労働省が認めたもので、公的医療保険制度と併用して利用できるために費用負担を比較的少なくして最新医療を受けられる制度です。
先進医療にかかわる費用は全額自己負担であるため、技術内容によっては高額になってしまいますが、先進医療特約によってその技術料等に備えることができます。
がん先進医療特約では支払いの対象かどうかに注意が必要ですが、治療の選択肢を増やすことができる保障といえるでしょう。

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コラム執筆者プロフィール
松原 季恵 (マツバラ キエ) - CFP®
銀行、損害保険会社での勤務経験から、多くのお客さまの相談に乗ってきました。
ファイナンシャルプランナーとして独立した際は、ライフプランを軸に「お金で楽しい毎日を」を心がけて情報発信しています。
ファイナンシャルプランナー 松原 季恵
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
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掲載日:2020年03月17日
医療保険にがん治療の先進医療特約は必要?
先進医療の保障を、医療保険の特約として付加できる場合もありますが、この特約は必要なのでしょうか。
先進医療の保障を特約として付加する場合、保険料は高くても月に数百円程度と、お手頃なのが特長です。
お手頃な保険料で、がん治療も含めた先進医療を受けやすくなるという大きな保障が得られるのはメリットだといえます。
ただし、特にがんに関して、先進医療を受ける可能性は高くないという点には、注意が必要です。
厚生労働省「令和元年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」によると、2018年7月1日~2019年6月30日の間に先進医療を受けた全患者数は39,178人となっています。
日本の人口は約1億2,600万人(2020年2月1日時点)であることを考えると、それほど高い確率ではないと考えることもできます。
また、特にがん治療に関するものでいうと、厚生労働省「令和元年6月30日時点における先進医療Aに係る費用」によると、陽子線治療の実施件数は1年間で1,295件、重粒子線治療の実施件数は720件と、いずれも数は多くないことが分かります。
さらに、陽子線治療や重粒子線治療は、一部のがんについて、2016年度や2018年度の診療報酬改定時に保険適用されており、先進医療ではなくなっています。
このように、保険加入時には先進医療と認められる技術だったとしても、治療を受けたときには変わっている可能性もあります。
上記を理解した上で、自分にとってメリットが大きいと判断できた場合に、特約を付加するのが良い選択ではないでしょうか。