国民年金保険料の学生納付特例制度の活用
私は大学生向けにFP(ファイナンシャルプランナー)や簿記、証券外務員等の講義を行うことがよくあります。
あるとき、学生から「国民年金保険料を今納めるのと、社会人になってから追納するのとではどちらがいいですか?」という質問を受けました。
現時点で年金保険料を払う余裕があるが、どちらがいいかという質問でした。
国民年金保険料には、その所得等に応じて年金保険料の免除や納付を猶予できる制度があります。
その制度を利用した場合、後から年金を納めること(追納)によって将来受け取れる年金額を回復させることができます。
またこの制度を利用した場合、年金保険料を納めなくても、受給権には影響はありません。
ちなみに年金保険料の追納は10年に遡ってできますが、滞納・未納の場合は2年しか遡ることができません。
年金保険料の「学生納付猶予制度」について、少し解説しましょう。
年金保険料の学生納付猶予制度は、20歳以上の大学生等の国民年金保険法で定められている学校の学生で、一定の所得基準以下の所得であれば対象者になります。
この学校には定時制や通信制も含まれます。また所得の対象者は学生本人であり、親の所得は所得基準の計算対象外です。
年金保険料には学生納付猶予制度のほか、本人のほかの世帯主・配偶者の所得が一定以下の場合、一部または全部が免除される保険料免除制度があります。
保険料免除制度も学生納付猶予制度と同様に、年金保険料を10年に遡って追納ができます。
ちなみに、追納しない場合には、老齢基礎年金の年金額が追納しなかった分だけ減額(※1)されてしまいます。
なお、どちらの制度も、免除や猶予を受けた期間は、障害基礎年金(※2)の受給権や老齢基礎年金(※3)の受給資格期間の計算にはカウントされます。
さて、冒頭の学生の質問に答えましょう。
追納する場合、10年に遡って追納はできるのですが、3年目以降からは利息相当分が加算されます。
例えば平成14年分を平成24年に追納する場合、当時の年金保険料は13,300円でしたが、追納する年金保険料は14,940円になります。
この点からすると、学生納付特例制度を使うことは得策でないと言えます。
一方でこんな考え方もあります。
学生納付特例制度を使うが、年金保険料は追納もしない。
年金額はその分減額されますが、60歳以降に国民年金に任意加入して年金保険料を納め、年金額を増やすやり方です。
学生時代に年金保険料を学生生活に投入したいときや、年金額が満額を必要としない場合は、この方法も考えられると思います。
それぞれの方法にメリット・デメリットがありますが、少なくとも滞納・未納だけは避けるべきだと思います。
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コラム執筆者プロフィール
松山 智彦 (マツヤマ トモヒコ) マイアドバイザー.jp®登録 - CFP®、講師業、ITコンサルタント、俳優。
1964年大阪生まれ。
証券会社・生損保のSEとして、また証券ネット取引システム立ち上げに参画。
2003年にファイナンシャルプランナーとして独立、各種資格・セミナー講師などで活躍。
また俳優ドナルド松山として、舞台、ドラマ、映画等に出演。
ファイナンシャルプランナー 松山 智彦
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
掲載日:2019年9月12日
学生納付特例制度のメリット・デメリット
ここでは、学生納付特例制度を利用するメリット・デメリットをご紹介します。
図1 学生納付特例制度のメリット
- 年金保険料の納付が猶予される
- 猶予期間も老齢基礎年金の受給資格期間に含まれる
- 障害基礎年金や遺族基礎年金が受給可能
所得が一定以下の学生は、この制度を利用すれば年金保険料の納付が猶予されます。
納付のために経済的に無理をしなくて済む可能性があります。
次に受給資格期間についてです。
将来老齢基礎年金を受給するには、原則として10年以上の受給資格期間(年金保険料を納付した期間)が必要です。
しかし学生納付特例制度を利用することによって保険料納付が猶予されている期間も、その受給資格期間に含むことができます。
さらに、利用期間によっては障害基礎年金や遺族基礎年金の受給も可能です。
もしもケガや病気により障がいを負ってしまった際や、万一のことがあった際にも経済的な負担が軽くなるでしょう。
以上がメリットとなりますが、学生納付特例制度にはデメリットもあります。
図2 学生納付特例制度のデメリット
- 将来受給できる老齢基礎年金が少なくなる
- 追納する年金保険料が高くなることがある
上記はデメリットと表されていますが、いずれも回避可能であるため、その回避方法もご紹介します。
学生納付特例制度を利用しているからといって年金保険料を納付しないままでは、納付した場合と比べて、将来受給できる老齢基礎年金が少なくなってしまいます。
しかし10年以内に追納(年金保険料をさかのぼって納付すること)を行えば、将来の老齢基礎年金を増額することが可能です。
また、追納までに時間が経ってしまった場合(学生納付特例期間の承認を受けた期間の翌年度から起算し3年度目以降)、納付する年金保険料が高くなるというデメリットがあります。
しかし3年度目までに追納をすれば、このデメリットも回避可能です。
このように学生納付特例制度は、早めに追納を行えるのであれば、デメリットを回避しつつ年金保険料納付の猶予などのメリットを得ることが可能です。
そのため、上記の追納の期間を意識しながら利用することをおすすめします。
掲載日:2019年11月27日
学生納付特例制度の所得制限と納付猶予・追納について
学生納付特例制度の対象者
学生納付特例制度は、20歳以上の学生で本人の前年所得が基準以下の方が対象となります。
学生とは、夜間・定時制課程や通信課程を含む、大学(大学院)、短期大学、高等学校、高等専門学校、特別支援学校、専修学校、各種学校(修業年限が1年以上の課程)に在学している方です。
前年所得の目安は、「118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等」で計算した額以下です。
前年所得が基準以下であれば、働きながら学校に行っている場合でも学生納付特例制度を利用することができます。
ただし、所得が多いなど、審査の結果申請が却下され、学生納付特例制度を利用できない場合があります。
申請が却下された場合、保険料を納付する必要があります。
保険料を追納する
学生納付特例制度は、あくまでも保険料の納付が猶予されるだけであり、免除されるわけではありません。納付猶予を受けた期間は、老齢基礎年金の受給資格期間への算入はされますが、年金額への反映はされません。
そのため、学生納付特例制度を利用し、保険料納付の猶予を受けた期間がある場合は、全額納付した場合と比べて、将来受け取る年金額が減ってしまいます。
将来の老齢基礎年金の年金額を増やしたい場合は、保険料を追納することで満額に近づけることができます。
ただし、追納ができるのは10年以内で、3年度目以降は当時の保険料に一定の金額が加算される点に注意が必要です。
年数が経つほど加算額は増えるため、追納するのであればできるだけ早めに行うことをおすすめします。
学生納付特例制度のメリットやデメリットについて理解したうえでどういった方法をとるのか、それぞれのご家庭でよく話し合っておくとよいでしょう。
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