2019.11.14
会社員・公務員の年金制度 厚生年金の基礎を学ぼう
厚生年金は、会社員・公務員が加入する年金制度です。
会社員・公務員になると、20歳未満であっても働き始めたときから退職するときまで、あるいは在職70歳まで厚生年金に加入する場合があります。
厚生年金保険料は給与から天引きされるので、支払っていることをあまり意識していない方や、給与明細に記載された厚生年金保険料の額に驚いた方もいるかもしれません。
厚生年金は、受給要件を満たせば、老齢・障害・遺族の3つの年金を国民年金に上乗せして受給することができる制度です。
ここでは厚生年金の基礎について説明します。
厚生年金加入の就労要件
厚生年金加入の就労要件は、「厚生年金の適用事業所になっている勤務先で常時使用されること」です。
「常時使用される」とは、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、報酬を受けるという使用関係が常用的であることをいいます。
そのため、正社員・正規職員だけでなく、パートタイマーやアルバイト・臨時職員などの非正規職員も、就労要件を満たすと厚生年金に加入することになります。
パートタイマーやアルバイト・非正規職員の厚生年金加入の就労要件は、表1のとおりです。
表1 パートタイマーやアルバイト・非正規職員の厚生年金加入の就労要件
- (1)1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上であること。
- (2)一般社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3未満であっても、以下の5つの要件をすべて満たすこと。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 1カ月の給与が88,000円以上であること
- 学生ではないこと
- 従業員数が常時501人以上の企業や事業所に勤めていること
資料:日本年金機構ホームページ「適用事業所と被保険者」をもとに執筆者作成
なお(2)の最後の要件については、従業員数が常時500人以下の企業や事業所に勤めている場合であっても、それ以外の4要件を満たし、また労使での合意があれば、加入が可能です。
会社員・公務員の厚生年金保険料の特徴
(1)厚生年金保険料は定額ではなく、給与の額によって違う
厚生年金保険料は、給与の額をもとに決定された標準報酬月額に対して、保険料率18.3%(2019年11月現在)を掛けた額です。
このことから、給与の額によって厚生年金保険料は違うといえます。給与の額が高くなれば、基本的に厚生年金保険料も上がりますが、将来受け取る老齢年金の受給額も増えるという仕組みです。
(2)給与の額による厚生年金保険料の決まり方
具体的にどのように厚生年金保険料が決まっているのかを、4月に会社員になって1カ月経った時点のAさんの給与を例にして説明していきます。
Aさんの給与明細には、4月分の給与(総支給額)は178,000円で、厚生年金の項目には16,470円と記載されています。
これまでも少し触れましたが、厚生年金保険料の計算では給与の額がそのまま用いられるのではなく、「標準報酬月額」が用いられます。
表2 標準報酬月額とは
- 厚生年金保険など、社会保険の保険料計算をするために設定される金額。
- 基本的には毎年1回、4月~6月の3カ月に支払われた給与(報酬月額)の平均額を「厚生年金保険料額表」の等級区分に当てはめて、標準報酬月額が決定される。
- 給与は、基本給のほか、残業・通勤手当てや、事業所が提供する宿舎費や食事代などの現物給与を含めた税引き前の額が用いられる。
- 現在の標準報酬月額は、1等級(88,000円)から31等級(62万円)までの31等級に分かれている。
資料:執筆者作成
標準報酬月額は原則として上記のように、4月~6月の給与の平均額をもとに決定されますが、この時点ではAさんは4月に就職してまだ1カ月です。
このような新たに雇用された従業員の場合、その年の8月までの標準報酬月額は、就業規則や労働契約の内容に基づいて算出した報酬月額を用いて決定します。
Aさんの就業規則や労働契約の内容に基づく報酬月額は、4月分の実際の給与の額と同じ178,000円でした。この報酬月額を、厚生年金保険料額表に当てはめてみます。
表3 厚生年金保険料額表の一部
※スクロールで表がスライドします。
(単位:円)
資料:日本年金機構「厚生年金保険料額表(平成29年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)」をもとに執筆者作成
Aさんの報酬月額178,000円は、厚生年金保険料額表では「報酬月額175,000円以上185,000円未満」の範囲内になるので、標準報酬月額は12等級の18万円に決定されます。その標準報酬月額18万円に、保険料率18.3%を掛けて求めた32,940円が、Aさんの厚生年金保険料となります。
(3)事業主が厚生年金保険料の半分を負担
Aさんの給与明細の厚生年金の項目に記載された保険料は16,470円です。
しかし、厚生年金保険料額表では、Aさんの厚生年金保険料(全額)は32,940円となっています。
なぜ差があるのかというと、被保険者である従業員のために、勤務先の事業主も厚生年金保険料の半額を負担しているからです(労使折半)。
Aさんの勤務先の事業主は、Aさんの給与より天引きした16,470円と、事業主負担分の16,470円を合計した32,940円の厚生年金保険料を日本年金機構に支払っているということになります。
(4)厚生年金保険料には国民年金保険料も含まれている
厚生年金に加入している方は、厚生年金の被保険者であると同時に「第2号被保険者」として国民年金の被保険者でもあります。
国民年金保険料は厚生年金保険料に含まれます。
2019年度(2019年4月~2020年3月)の国民年金保険料は月額16,410円です。Aさんの場合は厚生年金保険料の自己負担額が16,470円と、国民年金保険料とほぼ同じ額ですが、国民年金と厚生年金の両方の保障があります。
(5)賞与からも厚生年金保険料の天引きあり
毎月の給与だけでなく、ボーナスや期末手当などの年3回以下で支給される賞与からも、天引きで厚生年金保険料を支払います。
毎月の給与とは保険料の計算方法が異なり、標準賞与額(税引き前の賞与の額から1,000円未満の端数を切り捨てた額)に保険料率18.3%(2019年11月現在)を掛けて計算します。
賞与からも厚生年金保険料の天引きがあることを覚えておきましょう。
厚生年金の加入状況はまずは給与明細で確認!
自分の勤務先の企業(会社)や事業所が厚生年金に加入し、保険料を支払っているか確認したことはありますか?
もし支払っていなければ、老齢年金の受給額の減少や、場合によっては老齢年金が受給できない事態もあり得ます。
そのため、1度自分の目で確認してみましょう。
簡単にできる確認方法は、給与明細の内訳のチェックです。
控除の内訳に厚生年金の保険料の記載はされているでしょうか。
保険料の記載がされていれば、ひとまず保険料は支払われていると考えて良いでしょう。
もし保険料の記載がなかった場合、Webの「厚生年金保険・健康保険適用事業所検索システム」で検索すれば、勤務先の厚生年金の加入状況を調べることが可能です。
ねんきんネットで支払保険料の確認もおすすめ
前回のコラムでも少し触れましたが、ねんきんネットでは、年金保険料の支払記録や将来受給できる老齢年金見込額などを確認することができます。
支払記録がきちんと合っているか、昇給や転職、出産などの機会に応じて確認しておくことをおすすめします。
また、就職前に国民年金に加入していた場合は、国民年金保険料の支払記録も確認しておきましょう。
過去に国民年金保険料の未払いがあると、いざというときに困ること、例えば事故で障害を負っても障害年金を受給できないことや、または万一のときに家族に遺族年金が支給されないといったようなことも起こり得ます。
年金保険料の未払期間がないようにしておきましょう。
なお、国民年金保険料を支払うことが可能な期間は、保険料の納付期限(納付対象月の翌月末)から2年間となっており、この2年間を過ぎてしまうと支払うことはできなくなります。
また、支払記録に漏れや誤りがある場合は、年金事務所に照会を申し出ることも忘れないでくださいね。
厚生年金を理解し、将来のためのマネープランに役立てましょう。
- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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