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伊藤 洋一の視点

伊藤 洋一さんコラム - 第30回

「強い日本」の足場作りを

人口減少のプロセスにある日本だが、逆に強さを十二分に発揮している分野がある。スポーツだ。パリのオリンピックやパラリンピックでの日本選手の活躍は素晴らしかったし、ワールドカップ2026(北中米三カ国開催)の最終予選でも対中国、対バーレーンでの日本チームの強さは無類だった。日本はスポーツでは底上げがかなり成功した。

我々の生活に直結する経済やマーケットはどうだろうか。一番肝心な点だが、なんとも心許ない状態だ。株式市場は円高が良いのか円安が良いのか分からなくなって乱高下している。円相場は当局の介入を受けた後は、新たな日銀利上げ観測とアメリカ経済の鈍化の兆しの中で落ち着き所を見付けられないでいる。実に不安定だ。株安故に今年の初めに新型NISAで盛り上がった「貯蓄から投資」への熱意はすっかり萎んでしまった。

再確認しておこう。今の日本はどういう国か。間違いなく人口的には縮みモードだ。戦争が終わった1945年の日本の人口は約7,200万人。それが1億2,800万人以上に増えた。その間の日本の経済成長は力強く足早だった。世界は戦後復興もあってモノを必要とした。日本は強みのあった製造分野中心に大きく伸び、「Japan as No.1」と言われる時期もあった。

しかしモノ(製品)作り中心の成長時代は、日本にとってもはや過去の話だ。今や世界の経済は日本があまり得意としていないソフトウエア、その組み合わせが成長の中心だ。日本には製造技術のパワーは残っているが、「大きく外貨を稼げる産業」として存続しているのは自動車産業くらい。それも認証問題などで満身創痍だ。外貨獲得の二番手は観光(インバウンド)。それでは寂しい。なによりも抜本的な産業構造の転換が必要だ。

日本の政治はずっと「時代は変わった」という真実を語らずに過去の実績に慢心し、「やらねばならないこと」を先送りにして財政赤字を膨らませてきた。バラマキ政策が多かったから当然だ。日銀の失敗については前回に書いた。そろそろ改革に本気で取り組まないと日本は「ゆでガエル」になってしまう。既に国民所得のレベルで、日本は多くのアジア諸国の下だ。

では何をすれば良いのか。まずは人口増加時代に作り上げた時代遅れのシステムを大幅に作り替えることだ。現役世代の負担で支えられている医療保険制度、時代遅れの年金システムなどはその代表格だ。一つの会社に長く勤めた方が有利な各種制度(退職金割増制度)なども変更する必要がある。

日本では人材の流動化の一段の進展が必要だ。生成AIなどで著しい技術革新が進む時代においては、成長産業分野は足早に入れ替わる。優秀な社会人が機敏に企業社会の中で活躍の場を選べる環境になっていた方が良い。その方が日本全体の競争力が上がる。雇用の流動化とリスキリング(社会人の新たなスキル習得・学び直し)は必須だ。

貯蓄から投資への動きは始まったばかり。金利の低い貯蓄として保持されている日本人の資産が、新たな産業・企業のスタートアップに投資される仕組みができたら、それは大いに日本経済の活性化に役立つだろう。「雇用の流動化」と「資本の可動化」が同時に起きることが必要だ。

最近の自由民主党と立憲民主党の党首選びの過程では、合計13人もがトップに名乗り出た。特に自民党の総裁(次期総理大臣)選びには9人もの立候補があり、その論戦の中で雇用の流動化促進の議論が進んでいたのは心強く思う。また全国民一律給付などコロナ禍で実施された放漫財政施策に対する反省も語られた。良き事だ。もっと議論を深めて、日本経済を強くする処方箋に到達して欲しいと思う。

冒頭で「日本のスポーツの隆盛」を取り上げたが、それは「目標を設定し、たゆまぬ努力をした結果」として存在している。「日本の企業活動を活発化する」という目標を国として設定し、起業の活発化、株式市場の活性化、新しい企業に資金が回る仕組みなどの課題をクリアしていけば、スポーツと同様に日本は経済の分野で再び有力国となるだろう。

企業活動と経済が活性化すれば日本人の所得も増え、家計にも余裕ができて消費支出に繋がり、好ましい物価上昇圧力が生まれる。消費が増えて雇用の需要が高まれば、無理矢理に非効率な「超金融緩和」などをしなくても物価下落懸念はなくなる。そうすれば、極端な円安も起きない。極端な円安がなければ、時期尚早な利上げをする必要などなくなる。

今の日本政府に、「円安が是正できたので、日本人の資産である株価が大きく落ちたことはやむを得ない」という考え方があるとすれば、それは間違いだ。そもそも日本政府の大きな政策は「貯蓄から投資」のはずで、その投資の魅力を今は円安是正で著しく毀損している。それは「チグハグすぎる政策」と言わざるを得ない。

日本の新たな指導者が、惰性的なバラマキ経済政策に終止符を打ち、日本経済を本当に強くする方針を策定し、それを実行できる政治家が現れることを期待したい。

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PROFILE

伊藤 洋一

伊藤 洋一(イトウ ヨウイチ)

経済評論家

1950年長野県生まれ。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『ほんとうはすごい!日本の産業力』(PHP研究所)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える―板前文化論の冒険―』(新潮社)など。「金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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