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伊藤 洋一の視点

伊藤 洋一さんコラム - 第28回

動き出した日本株

世界の他市場の新値更新を長く見せつけられてきた日本の株価が、ようやく動き出した。その背景や今後の展望を試みたい。

「乗り越えられない壁」のように立ち塞がっていたのが1989年12月29日につけた終値としての史上最高値(3万8,915円87銭)。今年は2024年だから、その壁は30年以上の長きにわたって聳え立っていたことになる。筆者がまだ銀行のディーリングルームで為替を担当していた時期で、その数日前に日本株担当の先輩が、「今の日本株は明らかに割高。来年からは危ない。」と言いに来たことを今でも鮮明に覚えている。

筆者に言わせれば、当時の日本経済は「圧力釜経済」の状態だった。アメリカから景気刺激を迫られ、日銀は金融緩和を進めて土地価格も株価も大きく上昇。好きではなかったが「バブル」という単語がメディアでもよく使われた。六本木(特に深夜)でタクシーを止めるためにあの幅広の一万円札(聖徳太子)を振る輩がいた時期だ。実は筆者も一回だけやらざるを得なかったことがある。本当にタクシーが捕まらなかったのだ。

実感として、日本で再びタクシーが拾いにくくなったのは2023年の後半になってからだ。三つ要因がある。一つはインバウンドが多くなったこと、二つは運転手不足で実車数が減ったこと。三番目はデバイス(スマホなど)経由の予約が増えて、タクシーが走ってきても「迎車」が増えたことで、街角ではなかなか拾えなくなった。

その30年余りの間に、日本の株は一番安いところで7,054円98銭を記録している。2009年3月10日だった。引き金はその前年9月のリーマン・ブラザーズの倒産。円高も進行していて、ドル・円相場は今では想像できない90円台だった。日本人が気楽に海外旅行できた時代だが、株の上昇益で潤った人は少なかった。今は株で潤った人が多いが、逆に円が安い。1ドルにつき60円も当時より多く支払わないと1ドルが買えない。

その30年余りの間に、例えばアメリカのS&P500は約400から今年2月には5,000前後まで上がっている。つまり12倍以上に上がったのだ。当然その間は「高値更新」の連続で、私の少額の対米投資は動かさないが故にとても効率的だった。

日本が90年代に産業国家としてピークを迎えたころの勢いではないものの、最近の日本株は過去30年以上失われていた力強さを取り戻しているように思う。相場だから上げ下げはあるが、2024年2月22日には「もう越えられないかもしれない」と思われていた89年の高値を抜いた。まだ疑心暗鬼の更新だったが、その背景には、以下の五つの要因が大きいと筆者は考えている。

  1. 1.日本取引所グループ(JPX)が一連の改革に取り組み、企業もそれに呼応して株価やPBRに配慮した財務戦略を採用し始めた。今後も東証株価指数(TOPIX)の見直しを進め、企業に一段の改革を迫る方針。
  2. 2.政府も国民の資産積み上げを一つの政策目標とし、新型NISAなどの新制度が発足して日本の普通の人々も内外を問わない“株式投資”への志向を高めた。
  3. 3.生成AIを中心に世界で新産業台頭への期待が高まる中、人材とマネーが集まり、それを核にニューヨーク市場が動意を見せている。
  4. 4.コロナ収束後に消費需要の高まりの中で世界的に上昇したインフレ圧力も弱まった。また世界的な自由貿易体制を揺るがして物価上昇圧力を生んだ「世界経済の分断」も、物流システムの見直しの中で日常化し、落ち着きを取り戻している。
  5. 5.今では既に欧州で始まった「金利の引き下げ」がアメリカなどにも波及する勢いで、世界的に見れば「ソフトランディング」(軟着陸)「ゴールディロックス経済」(熱すぎず、冷めすぎずの理想型)の兆候もある。

ウクライナやガザでの戦争継続、米共和党の次期大統領候補であるドナルド・トランプ氏に対する殺人未遂、フランスの政局混乱、長引く中国の景気悪化、何よりも権威主義国と民主主議国の抜きがたい対立とその激化。世界は不安に満ちている。それは間違いない。

しかし筆者が挙げた五つの背景を見ると、それはそれで簡単に中断のない息の長い趨勢のように思える。基本的に株価は、我々の日常生活・活動に関連する企業とその将来への評価だ。戦争など非日常的出来事は、それが大きな「世界を震撼させるニュースとしての価値」を失ったりすれば、その出来事はマーケットに織り込まれ、市場の材料であることをほぼ終える。

マーケットはいつでもターン(方向転換)する。安易な予想はできないが、筆者は今の世界の置かれた状況、そして長く世界に遅れてきた日本の株式市場の活性化具合から見て、我が国の株式市場には十分な将来性があると考える。何よりも、世界を駆け巡る大規模なマネーの落ち着き場が、実は少ないという現実がある。ロシアや中国に大切なお金を置こうと思う投資家は少ないだろう。

実は欧州も政治的には不安定な時期に入っている。フランスの国民議会選挙の第二回投票で示されたように、全体としてはEUという枠組みそのものを壊すような動きにはブレーキがかかるだろう。しかし何よりも「安全」を大切に思う世界の資金はまずアメリカであり、次に日本やインドを目指すだろう。株価調整の局面は当然あるだろうが、当時の割高感はまだない。筆者は日本株の先行きに強気である。

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PROFILE

伊藤 洋一

伊藤 洋一(イトウ ヨウイチ)

経済評論家

1950年長野県生まれ。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『ほんとうはすごい!日本の産業力』(PHP研究所)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える―板前文化論の冒険―』(新潮社)など。「金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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