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伊藤 洋一の視点

伊藤 洋一さんコラム - 第15回

ペースチェンジが必要?……離島から見た日本

少し離れたところから日本を見直してみようと、「行き帰りに一番時間がかかる日本の島」で年末年始を過ごした。なにせ行くのに24時間、帰りもほぼ同じ時間かかる。飛行機便はなく、1万1,000トンの貨客船でしか行けない。つまり7日間の休暇のうち2日は移動に費やす。しかも移動の間はほとんどスマホも「(海上)圏外」で通じない。同じ北緯26~27度にありながら飛行機で簡単に行ける沖縄とは大違い。

小笠原諸島である。いつも年末年始は暖かい海外に行くのだが、海好きの家族が賛成してくれた。私には特異な歴史、豊かな自然遺産などが魅力的で、島の人々がどうやって生活しているのか興味があった。なにせ人口3,000人前後の小さな島々(人が住むのは父島、母島のみ)。しかし行政区分的には東京都下。そこには「少し違う日本」があるだろうと思ったからだ。

あった。なにせ一番驚いたのは「島では赤ちゃんが産めない。しかし島は子沢山」という一見相反する現実。20年くらい前までは島でも出産ができたそうだ。産婆さんがいたから。もっとも危険度が高い第一子は駄目で、第二子以降。しかし今は島には病院はなく、診療所のみ。妊婦さんは妊娠8ヶ月になる前に全員が“内地”(日本の島嶼の人々は日本本土をこう呼ぶ)に行かねばならない。長い航海時間がかかる「おがさわら丸」(東京竹芝桟橋-小笠原父島二見港の定期船 通称「おがまる」)に乗れなくなるため。

なので、小笠原では一人の子供を持つためには一家はほぼ半年別々の生活になる。移住組(内地生まれで実家が日本本土にある人達)は大部分が奥さんを日本国内の実家に預け、そこを亭主が時々小笠原から時間をかけて訪れるという生活になる。問題なのは小笠原の昔からの住民の方。内地にはあまり縁もないので「病院の近くなどにアパートなどを借りる」そうだ。島の人々にとってもっとも縁のある都内の病院は広尾病院らしい。ヘリポートもある。出産は島の人々にとって大変なコストだ。

しかし島のご家族は総じて「子沢山」だ。泊まったペンションの経営者のご夫妻も小一、年長と女子が二人いるが、「あと二人ほど」と言っていた。二見港のお祭り広場での島の年越しパーティーでも、元旦の太鼓、餅まきなどの儀式でも子供の姿が多かった。世界で知られた国で人口構造が綺麗なピラミッドになっているのはインド。しかしある人が、「日本では小笠原村がその綺麗な人口ピラミッド」だと言っていた。なぜか。それはひとえに「小笠原が子供を育てやすい環境」だからだ。見た印象では、島全体で子供を育てている。

母島には小中学校があって、父島には小中高等学校がある。高校より上はないので、本土に行くか、一気にアメリカなどの海外に雄飛するらしい。小笠原に住んだのは欧米系の2家族が最初だといわれている。今も明らかに日本人とは異なる顔つきの人が多い。アメリカは日本本土からよりは距離的にも、心理的にも近い。

小笠原の成人式は1月1日。午前中に海開きや青ウミガメ放流をしたあとの午後にやる。今年は15人程度が式に参列したと聞いた。今の小笠原の小学校の一学年は30人くらいらしいので、戦前のピークの7,400人(父と母の合計)になるのは相当先だが、徐々に島の人口は増える可能性が大だ。島に憧れて移住してくる人も多い。沖縄石垣島の移住組は若い人、小笠原の移住組は子供連れと誰か言っていた。

日本が抱える大きな問題の一つは「人口の減少」。今は生まれる子供の数は年間100万人を切ったが、死亡は120万人を超える。急激な人口減少は保険を含めて社会のシステムを崩しかねない。政府も様々な手を打つが、大きな成果は出ていない。しかし小笠原はそれが自然にできている。「ゆったり流れる時間、豊かな自然」、それに「人々の暖かいつながり」など。

「小笠原には病人はいない。みんな元気だ」と島の人達が言う。島で本当に危険な病人が出た場合には硫黄島の自衛隊にヘリを出してもらって基地に運び、そこから自衛隊の飛行機で本土の病院に入院させるのだそうだ。病人搬送も半端ない手順と作業。そんな手間暇を掛けて病人を搬送する必要が出てこないように、基本は「島では皆が健康」だというのだ。“内地”で病気自慢の人が増えている現実を見ると、これも参考になる。病気自慢のご老人が増え続けている今の日本。それをどう乗り越えることができるのか。学ぶことが多いと思う。

それにしても旅のエンディングは劇的だった。二見港を出航する「おがまる」。港での見送りは盛大だが、船が港を出て直ぐに10数隻の船が併走(併航)していることに気が付いた。併走船に乗っている人達は皆手を振っている。一隻、また一隻と船速を落として併走をやめるのだが、同時に何人かが船の上から海にダイビングする。その度に小笠原丸からは歓声が上がる。今も私の中では「小笠原は素晴らしい」の印象が強く残る。その理由の一端はこのエンディングにある。また行って日本を改めて考えたい。

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PROFILE

伊藤 洋一

伊藤 洋一(イトウ ヨウイチ)

経済評論家

1950年長野県生まれ。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。著書に『ほんとうはすごい!日本の産業力』(PHP研究所)、『日本力』(講談社)、『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)、『カウンターから日本が見える―板前文化論の冒険―』(新潮社)など。「金融そもそも講座」などに書評、エッセイ、評論などを定期寄稿。

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