医療保険でがん治療はまかなえる?
がん患者さんから「がんはお金がかかるから大変です」とご相談をお受けしていると、最初に「がん保険に入っていれば良かった」とか「がん保険に入ってなかったのが失敗だった」と、がん保険に入っていればお金の困りごとはなかっただろうと言わんばかりにおっしゃる方がいらっしゃいます。
しかし、よくお話を伺ってみると、何らかの医療保険には加入されているというケースがほとんど。
医療保険から保険金の給付が受けられることをお伝えすると、がんでも医療保険を使えることに改めて気付かれる方もいらっしゃれば、「医療保険では役に立たないでしょう」と医療保険には期待されていない方もいらっしゃり、反応は様々です。
がんになった時、医療保険はどのくらい役立つのでしょうか?
濃沼信夫氏(主任研究者 東北大学大学院医学系研究科医療管理学分野=当時)らが行った「がん医療経済と患者負担最小化に関する研究」(2006年)で発表されているアンケート調査によると、がん患者さんの1年間の通院回数は全体平均が11.8日と月に1回程度。
1年間の入院期間は、全体平均が39.4日というアンケート結果が得られています。
また、がん治療で患者さんが医療機関の窓口に支払った平均金額は、入院で年間50.6万円、外来で年間12.9万円となっております。
もし仮に、入院日額5,000円、通院日額3,000円、手術給付金10万円という比較的スタンダードな保障だと思われる医療保険に加入していたとしましょう。
このアンケート結果の平均データの日数の入院と通院をし、手術を受けたとすると、この医療保険で受け取れる給付金はいくらになるでしょうか。
- 入院給付金:5,000円×39.4日=197,000円
- 通院給付金:3,000円×11.8日=35,400円
- 手術給付金:100,000円
- 合計:197,000円+35,400円+100,000円=332,400円
受け取れる保険金は、合計で332,400円。
濃沼氏のアンケート結果によるがん患者さんが、医療機関の窓口で支払った平均金額63.5万円の半分弱にしかなりません。
かつ、これは全ての入院日・通院日に対して、給付金が出るとみなした試算ですが、医療保険によっては全ての入院日・通院日に給付金が出るわけではありません。
医療保険の通院給付金の支給は、退院した後の180日以内の通院に限られているものが多く、1年間の通院のうちで通院給付金が出る日と、出ない日が出てくる可能性があります。
例えば、抗がん剤治療を受けるにあたり、1クール目(初回の抗がん剤治療)だけ入院したものの、2クール目以降は毎月1回通院で治療を受けるというケースであれば、退院から180日以内、つまり6回目までは通院給付金が出るが、7回目以降の通院に対しては出ないという形です。
また、医療保険の中には、入院給付金の支払日数が1入院30日までという「30日型」などといった、支払日数に制限があるものもあります。
一定の期間内に入退院を繰り返していると、その入院をまとめて1入院とみなされてしまい、その1入院の合計入院日数のうち、契約で定められている日数を超えてしまう分の入院給付金は出ないことになります。
このような理由から、がんに対して医療保険では不十分だと思われる一方で、最近では、医療保険は国民病とも言えるがんへのカバーを意識した商品が発売されています。
例えば、がんを含めた特定疾病に対する入院給付金は、入院日数無制限とする保障を基本とするものが出てきています。
また、医療保険に付加するオプションとして、がんと診断されたら一括で給付金が受け取れる特約や、退院後に限らず抗がん剤治療のために通院した場合にも給付される抗がん剤治療特約など、治療費が膨らみそうながんであるからこそ、考慮された特約も考案されてきています。
最近の医療保険は、がん保険でなくても、がんになった時の治療に役立つものも増えてきていると言えるでしょう。
ただ、がんになった時を想定すると、高額であろう治療費のことばかりが頭をよぎるかもしれませんが、治療にまつわる費用以外に必要になってくる費用も決して少なくありません。
濃沼氏のアンケート結果によると、健康食品や民間療法への平均支出が年間20.8万円、ウイッグや贈答費などに対しても年間12.6万円というデータが出ています。
実際、私がご相談をお受けしたがん患者さんの中にも、がんが小さくなることや再発しないことを願い、思い思いのものにお金をかけていらっしゃる方がいました。
がんと上手く付き合っていくために必要になるお金は、治療費だけではないことも、頭に入れておくといいのではないでしょうか。
そう考えたならば、医療保険ではがんになった時にはまかないきれない部分をカバーするために、がん診断給付金などの大きなお金が受け取れる特約保障などを付けた方が有益だと考えます。
がんになった時、頼れるところは医療保険やがん保険だけではありません。
高額療養費制度などの公的制度の利用、加入している健康保険組合による付加保険、それに預貯金も大きな助けとなります。
保険だけで何とかしなければいけないと思うのではなく、自分が置かれている状況で足りない部分を補うものとして捉え、必要な保障を考えていきましょう。
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コラム執筆者プロフィール
川崎 由華 (カワサキ ユカ) マイアドバイザー.jp®登録 - CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、平成24年度日本FP協会「くらしとお金の相談室」相談員。
前職ではがん領域の薬を扱う製薬会社に勤務。
現在は2児の母をしながら、主婦向けのマネー講座や個人相談、執筆等ファイナンシャルプランナーとして活動中。
お金の数字だけの問題でなく、気持ちも汲み取れる身近で気さくな存在のファイナンシャルプランナーをモットーにしている。
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コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 川崎 由華
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
掲載日:2019年9月19日
医療保険かがん保険、 加入する前に知っておきたいがん罹患リスク
医療保険とがん保険、結局自分がどちらの保険を選ぶべきか迷っている方の参考のために、がん罹患リスクのデータをご紹介します。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」2014年データによると、生涯でがんに罹患する(がんと診断される)確率は、男性が62%、女性が47%ですが、現在の年齢別でみるとどうでしょうか。
下記は、現在の年齢から将来のある時点までに、どの程度の確率でがんに罹患するのかを示した表になります。
表1 現在年齢別がん罹患リスク(男性)※スクロールで表がスライドします。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
表2 現在年齢別がん罹患リスク(女性)※スクロールで表がスライドします。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
例えばこの表から、現在20歳の人が40年後(60歳)までにがん診断される可能性は、男性の場合は7%、女性の場合は10%と読み取ることができます。
がんは年齢を重ねるにつれて罹患するリスクが高まる病気です。
そのため、ご自身の現在の年齢から将来のリスクを考えて、医療保険・がん保険を検討することがおすすめです。
あくまで上記の表は確率論であることも考慮しながら、慎重に最終決定を行いましょう。