介護保険制度の改正
平成26年6月、「医療介護総合確保推進法」が成立し、平成27年度から介護保険制度が改正されることになりました。介護保険サービス利用者にとって主にどのような点が変わるのか、とりあげてみましょう。
1.一定以上の所得のある利用者の自己負担割合の引き上げ(平成27年8月から)
介護保険制度では、要介護度によって毎月利用できるサービスの限度額が定められていて、その限度内であれば、利用者の自己負担は1割ですが、平成27年8月から、一定以上の所得のある利用者の自己負担が2割に引き上げられます。
今回の改正で、合計所得が160万円以上(年金収入だけの単身者の場合280万円以上、夫婦合計所得346万円以上)の人が2割負担の対象になる予定です。
2割負担になっても負担は2倍にならないことも
現在、要介護1の方が、毎月1割の自己負担額として15,000円を支払っていた場合、2割負担の対象者になると、負担額は2倍の30,000円になります。しかし、要介護3の方で1割の自己負担が25,000円の方の場合、2割負担の対象者になっても、実質負担額は50,000円にはなりません(※)。それは、「高額介護サービス費」制度で「表1」の自己負担上限額を超えた部分が還付されるからです。
※所得段階が第4段階の住民税課税世帯の場合の計算。自己負担上限額が37,200円なので、12,800円還付となります。
表1 「高額介護サービス費」自己負担の上限額(現行)
所得段階 | 所得区分 | 自己負担上限額 |
---|---|---|
第1段階 | (ア)生活保護受給者 (イ)世帯全員が住民税非課税で、老齢福祉年金受給者 |
(ア)15,000円(個人) (イ)24,600円(世帯)/15,000円(個人) |
第2段階 | 世帯全員が住民税非課税で、合計所得金額と年金収入合計が80万円以下 | 24,600円(世帯) 15,000円(個人) |
第3段階 | 世帯全員が住民税非課税で、第1段階、第2段階に該当しない | 24,600円(世帯) |
第4段階 | 住民税課税世帯 | 37,200円(世帯) |
資料:公的介護保険制度の現状と今後の役割(厚生労働省 平成25年)をもとに執筆者作成
高額介護サービス費制度とは、同じ月に負担した1割の自己負担額の合計が上限額を超えた場合、超えた金額が申請によって還付される制度です。
2.高額介護サービス費の自己負担上限額の引き上げ
一方、高額介護サービス費の自己負担上限額も、現行では、37,200円が最高ですが、平成27年8月から、「現役並みの所得」(課税所得が145万円以上)がある場合、自己負担上限額が44,400円に引き上げられることになりました。
3.介護保険施設の食費・居住費について、一定額超の預貯金のある入居者に制限
現在、「特別養護老人ホーム」、「老人保健施設」、「介護療養型医療施設」の3つの施設の入所者が、所得段階で利用者負担第1~第3段階に該当する場合は、食費と居住費について軽減措置がとられています。
利用者負担第1~第3段階とは、表1の所得段階の第1段階=①生活保護受給者、老齢福祉年金受給者、第2段階=②住民税が非課税世帯で、本人の合計所得金額と課税年金収入額の合計が80万円以下、 第3段階=③住民税が非課税世帯で、利用者負担第1、第2段階に該当しない方、となります。
表2 介護保険施設の居住費と食費についての負担限度額と基準額
( )内は老人保健施設・介護療養型医療施設等の場合
居住費(日額) | 食費 (日額) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|
多床室 | 従来型個室・特養等 | ユニット型準個室 | ユニット型個室 | |||
負担限度額(日額) | ① | 0円 | 320円(490円) | 490円 | 820円 | 300円 |
② | 320円 | 420円(490円) | 490円 | 820円 | 390円 | |
③ | 320円 | 820円(1,310円) | 1,310円 | 1,310円 | 650円 | |
基準費用額(日額) | 320円 | 1,150円(1,640円) | 1,640円 | 1,970円 | 1,380円 |
資料:公的介護保険制度の現状と今後の役割(厚生労働省 平成25年)をもとに執筆者作成
介護保険施設の居住費と食費は、表2の基準費用額ですが、①から③に該当する方は、表2内の「負担限度額」が自己負担となっています。
しかし、今回の制度改正で、①から③の方も一定の貯蓄等(単身で1,000万円超、夫婦で2,000万円超)がある場合や、世帯分離している場合でも配偶者の所得に住民税が課税されている場合は、軽減の対象外となります。さらに、本人に、非課税(遺族年金・障害年金)の収入がある場合は、収入とみなして所得の判断を行うこと等が予定されています。
4.特別養護老人ホームの入所基準の変更~原則要介護3以上に
現在、特別養護老人ホーム(特養)の入所基準は、要介護1以上となっていますが、2015年4月以降の入所については、特別な理由がない限り、原則要介護3以上でないと入所できなくなり、特養は在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設という位置づけなります。
5.低所得者に対する介護保険料の引き下げ
今回の制度改正では、社会保障費増大の抑制という面から、利用者の負担増になるものが目立っていますが、所得の低い方に対しては負担減となるものもあります。それは、介護保険料の引き下げです。世帯全員が住民税非課税の場合は、現在の介護保険料の水準より軽減される予定です。
6.その他
要支援者向けサービスの市区町村への事業移管や、サービス付高齢者向け住宅の一部につき住所地特例の適用(施設入居後も例外的に、入居前の住所地の介護保険被保険者になること)等も改正されています。
今後、介護費用の負担増になる利用者は、現在受けているサービスの見直しや、地域による支援サービスの活用等の検討も必要になってくるかもしれません。また、その負担増に備えて、一定の介護状態になった時にまとまった保険金を受け取れる民間介護保険の活用も検討するとよいでしょう。
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コラム執筆者プロフィール
浅川 陽子 (アサカワ ヨウコ) マイアドバイザー.jp®登録 - 大学卒業後、銀行に勤務。専業主婦を経て、2000年にCFPを取得。
相談業務・執筆の他、FP養成講座、市民講座、DC講習会、小学校・高校での金銭教育授業等、講師としての活動も多い。
得意分野は、ライフプラン、リタイアメントプラン、介護、確定拠出年金、金銭教育。
現在、日本FP協会神奈川支部副支部長。
ファイナンシャルプランナー 浅川 陽子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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