生命保険料控除とは?年末調整・確定申告・e-Taxで税負担を軽減できる
生命保険料控除とは、1年間に支払った生命保険料のうち、一定の金額が保険契約者(保険料負担者)のその年の所得から差し引かれる制度です。所得が下がることで、所得税と住民税の負担を軽減できるというメリットがあります。
今回は、その生命保険料控除について詳しく見ていきましょう。
生命保険料控除は所得控除の1つ
所得から一定額を差し引いて税負担を軽減する所得控除は、全部で15種類あり、大きく2つに区分されています。
表1 所得控除の種類
資料:財務省ホームページ「所得控除に関する資料」[1]をもとに執筆者作成
生命保険料控除は「特別な出費」に該当しますが、なぜ生命保険料が所得控除の対象になるのでしょうか?
その理由は、公的医療保険や年金などの社会保障だけに頼らず、民間の生命保険に加入し、自分で保険料を支払う自助努力に対する税制優遇を国が行いたいから、であるといえます。
所得税はどのように計算されるのか
所得控除によって所得金額から保険料などを控除した残額を課税所得金額といい、これをもとに所得税額が算出されます。
図1 所得税額の算出
※一部を省略し、概要を記載しています。
資料:国税庁ホームページ「所得税のしくみ」[2]をもとに執筆者作成
所得税の税率は超過累進税率といい、課税所得金額に比例して税率も上がっていきます。つまり、所得控除によって課税所得金額が下がれば、結果的に所得税の額を抑えられるということです。
図2 課税所得に対する累進課税率
資料:国税庁ホームページ「所得税のしくみ」[2]をもとに執筆者作成
契約日によって控除額が違う?旧契約と新契約の違い
生命保険契約は、一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料のそれぞれ別枠で生命保険料控除が受けられます。また、それぞれの枠ごとに適用限度額があります。
生命保険は、契約締結日が2012年より前か後かによって新契約と旧契約に分けられ、旧契約には「介護医療保険料控除」の枠はありません。
図3 生命保険料控除の旧契約・新契約の違い
資料:国税庁ホームページ「No.1140 生命保険料控除」[3]をもとに執筆者作成
新契約と旧契約では次の表2・表3の通り、控除額の計算式と限度額が異なります。
表2 新契約控除額(2012年1月1日以降に締結した保険契約)
※スクロールで表がスライドします。
資料:執筆者作成
表3 旧契約控除額(2011年12月31日以前に締結した保険契約)
※スクロールで表がスライドします。
資料:執筆者作成
生命保険料控除は新旧両制度を併用することができます。ただし、新旧両制度全体の適用限度額は所得税12万円・住民税70,000円です。
表4 控除限度額
※スクロールで表がスライドします。
資料:執筆者作成
生命保険料控除の主な注意点
控除額の他に、各保険の注意点も確認しておきましょう。
- 旧契約について、2012年1月以降に契約の更新、転換、特約の中途付加などをした場合、その契約自体が新契約とみなされます。
- 医療保険について、旧契約では介護医療保険料控除の枠がないため、一般生命保険料控除の対象です。
- 損害保険会社の介護医療保険についても生命保険料控除の対象となります。
- 個人年金保険料控除の対象となる個人年金保険契約については、保険料払込期間が10年以上であること、被保険者と年金受取人が同一人物であること、かつ、個人年金保険料税制適格特約が付加されていることが要件です。
- 変額個人年金保険については、個人年金保険料控除ではなく、一般生命保険料控除の対象となります。
- 配当金のある保険について、配当金を受け取った場合、払い込んだ保険料の合計額から受け取った配当金を差し引きます。
生命保険料控除の手続き
生命保険料控除の手続きに当たっては、生命保険会社から発行される「生命保険料控除証明書」(以下「証明書」)を使用します。ちなみに、共済の場合は「共済掛金証明書」が発行されます。加入している保険契約が新旧どちらの契約に該当するかは、この証明書に記載されています。
証明書が発行されるのは毎年10月ごろですが、この時点ではまだ、1月~12月までの1年間分の支払いを完了していません。そのため、証明書には次の2つの金額が記載されています。
- 証明額……証明書が発行された時点で支払済みの金額
- 申告額……実際に今年支払うであろう見込みの金額
年末調整や確定申告の手続き書類に記載するのは申告額の方ですから注意しましょう。
図4 生命保険料控除証明書
※証明書の様式は保険会社によって異なります。
資料:執筆者作成
証明書は、万一紛失しても再発行が可能ですので、その際は加入先の保険会社へ問い合わせてください。なお、最近は証明書をオンラインで発行しているところもあります。
年末調整における手続き
会社員や派遣社員、パート・アルバイトの人は、勤務先を通じて年末調整により手続きを行います。その際に証明書を勤務先に提出することになりますが、保険料を給与天引きで払い込んでいる場合、証明書の提出は必要ありません。
また、年末調整手続きの電子化が2020年から始まったこともあり、勤務先によっては証明書を電子データで提出する場合もあります。証明書の電子データの取得については、各保険会社のホームページなどを確認してください。
確定申告における手続き
自営業者やフリーランスの人は確定申告で手続きを行います。この際、e-Taxで確定申告を行う場合は、証明書の添付を省略することが可能です。ただし、証明書本紙は5年間の保存義務がありますので、大切に保管しておきましょう。証明書の添付を省略せず、電子データで提出しても差し支えありません。
住民税について
住民税については特段、自分で手続きする必要はありません。年末調整、または確定申告によって所得税の手続きを行うことにより、自分が住んでいる市区町村から減額計算された税額が請求されます。
積極的に役立てたい、自助努力に対する税制優遇「生命保険料控除」
生命保険は人生のさまざまな場面において活躍します。もしものときに備えながら税金の控除を受けられる税制優遇は、生命保険加入者ならばぜひ知っておきたい知識です。
とはいえ税金の話は難しいものです。「自分の加入している保険は対象になるのか」など、生命保険料控除について分からない点のある人は、保険の専門家に相談してみるのが確実な方法でしょう。
電子データを利用することで控除手続きも簡素化できます。制度や専門家を正しく利用して、家計改善に役立てましょう。
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監修者プロフィール
佐藤 益弘サトウ ヨシヒロ
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー
株式会社優益FPオフィス 代表取締役。
Yahoo!Japanなど主要Webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供、ライフプラン相談&実行サポートをするライフプランFP®として活動している。NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などテレビ番組への出演も行い、産業能率大学兼任講師(主査)、日本FP協会評議員も務める。
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- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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- ※ 掲載日は2021年11月11日です。
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