自動車保険料の値上げはなぜ起こる?(2)
どうして収支が崩れるのか?
前回は値上がりする理由として、収支が崩れるからということに触れましたが、ではなぜ収支が崩れるのでしょうか?
その理由は至ってシンプルです。
「収入が減ってしまった=保険料収入が減ってしまったから」
「支出が増えてしまった=保険金支払いが増えてしまったから」
のどちらかです。
保険料収入が減る理由
まず、「収入が減ってしまった=保険料収入が減ってしまった」理由を考えてみましょう。この理由として考えられるのは、「自動車に乗らなくなっている人が増えている=保険に入る人が減っているから」ということです。
例えば……
- ・“人口減少”により、自動車に乗る人が減ってきている
- ・“収入の減少”により、若年層の自動車保有者が減少している
- ・“都市部への人口流入の増加”により、コストやスペースの関係で自動車保有が難しい
ということが考えられます。
その他にも、経済的な理由から、燃費の良い軽自動車などの排気量の比較的少ないコンパクトカーを保有する方が増えていることもあるでしょう。保険料が車種や排気量に連動する仕組みの自動車保険に関しては、必然的に保険料が減ってしまうことになるのです。
保険金支払いが増える理由
「支出が増えてしまった=保険金支払いが増えてしまった」理由として考えられるのは、事故の増加でしょう。
ただ、統計をみると、実は、交通事故の件数自体は年々減っています。
図1 交通事故の発生件数
資料:一般社団法人 日本損害保険協会「日本の損害保険 ファクトブック2014」をもとに執筆者作成
では、保険金支払いが増えているのはなぜなのでしょうか?
実は、交通事故の内容(質)が変化していて、次に挙げるような事故が最近増えており、今後も増えていきそうだと考えているからです。
以前であれば、現役世代、特に未熟な経験しかない若年ドライバーによる交通事故が多かったのですが、最近は60歳以上のベテランドライバーによる事故が多く、特に70歳以上の高齢者の方の事故による経済損失額は、2005年度と2009年度を比較すると、1割以上も増えています。
図2
出典:一般社団法人 日本損害保険協会「自動車保険データにみる交通事故の実態-提言と主な対策-」(2009年4月~2010年3月)
また、60歳以上のベテランドライバーの誤操作&誤作動による物損事故のニュースが時折流れるように、2005年度と2009年度の「構築物衝突」のデータを比較した場合、60歳以上のベテランドライバーによる事故(損害物指数)は5割も増えています。
図3
出典:一般社団法人 日本損害保険協会「自動車保険データにみる交通事故の実態-提言と主な対策-」(2009年4月~2010年3月)
ベテランドライバー(高齢者ドライバー)へのサポート
最近はこのような事故を防止する対策として、ハード面&ソフト面双方から対応策が講じられています。
ハード面では、テレビCMなどをみても分かるように、各自動車メーカーがブレーキ機能を向上させた自動車を開発し、販売するようになりました。
また、ソフト面では、道路交通法の改正により、70歳以上の方には自動車免許の更新時に高齢者向けの研修「高齢者講習制度」の受講が義務化されました。
この高齢者講習制度は、高齢者の方の死亡事故件数の増加率等が他の年齢層の方と比較して極めて高くなっていたことから導入されたもので、「自動車等の運転や器材による検査を通じて、加齢に伴う身体機能の低下とその運転への影響を受講者一人ひとりに自覚していただき、個々の特性に応じた安全運転の方法を個別・具体的に指導することにより、高齢者による交通事故を防止したい」という意図があります。
ただ、急速に進む我が国の超高齢社会では、このようなサポートにより、高齢者ドライバーの事故件数減少が実現するかは予測できないため、保険会社の支払保険金が減ることも期待できず、人口減少社会下では自動車保有台数が大幅に改善され、保険料収入が増えるとは考えづらいでしょう。保険料の値上げに関して、保険会社のホームページをみてみると、「全国の保険金のお支払状況などをもとに、全体的な保険料水準の見直し」としています。消費税増税による修理費等のアップや、事故の内容の変化が主な要因とされていますが、日本の構造的問題も大きな要因となっていると考えられます。
保険料の値上げをきっかけに、自動車の維持コストが家計を圧迫するようなら、都市部では自動車を持たないという選択もあり得ますが、地方部では自動車は生活のための必需品ですから、負担増を覚悟することになるでしょう。
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コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 佐藤 益弘
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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