自動車保険料の値上げはなぜ起こる?(1)
2011年(平成23年)に自動車損害賠償責任(自賠責)保険審議会が「自賠責保険」の保険料の値上げを決定したころ、任意保険の「自動車保険」においても、保険料を算出する仕組みが変わりました。
そして、2014年秋、大手保険会社が保険料改定(実質値上げ)を相次ぎ発表しましたが、そもそも自動車保険の値上げはなぜ起こるのでしょうか?
これから、2回に分けて確認していきましょう。
民間自動車保険の保険料の変化
自動車保険は最近まで、契約期間中に事故などがなく保険を使わなければ等級が上がり、保険料は最高等級の20等級まで安くなっていく仕組みでした。
ところが、自賠責保険が値上げされたころに、料率の改定やノンフリート等級別料率制度(「損害保険料率算出機構」の“参考純率”)の改定が行われました。無事故契約者と事故有契約者との不公平をなくすための改定ですが、今まで等級が下がらなかった「車両盗難、飛石、落書き等」の偶発的な事故でも保険を利用すれば等級が下がる仕組みに変わり、保険料が下がる要件が厳しくなりました。
また、事故率の高い車種は保険料が値上げされ、2013年4月以降の契約からは、26歳以上を補償する条件での契約の記名被保険者(本人)の年齢区分が細分化され、30歳以上からは10歳刻みで保険料が変わり、60歳以上の契約者の保険料が上がるように設計変更されました。
自動車保険は損害保険会社にとって収益の柱
そもそも、自動車保険は損害保険会社にとっては稼ぎ頭であり、主力商品です。戦後間もないときには火災保険が主力商品の時期があったのですが、日本国内の乗用車保有台数が増えるに伴い、自動車保険は損害保険会社の収益の柱になっていきました。
例えば、以下の表の通り、乗用車の保有台数は1966年の約250万台にも満たない台数から2014年の約6,000万台へと、約50年で24倍以上に増えています。
図1 自動車保有台数の推移
資料:一般財団法人 自動車検査登録情報協会「自動車保有台数の推移」をもとに執筆者作成
また、物価の高騰により、交通事故による物損損害額も高騰し、任意の自動車保険のニーズも増加していきました。
現在は、損害保険会社の収入の約55%が自動車関連の保険(自賠責保険+任意の自動車保険)になっています。
図2 損害保険会社の元受正味保険料(収入)の保険種目別構成比の推移
資料: 一般社団法人 日本損害保険協会「日本の損害保険 ファクトブック2014」をもとに執筆者作成
つまり、自動車保険の収益が、損害保険会社の収益に大きく影響する形になっているのです。
どうして値上げをするのか?その構造を知る!
「どうして値上げをするのか?」、その答えは至ってシンプルです。それは、保険会社の収支バランスが崩れ始めてきたからです。
そもそも保険は「助け合い=相互扶助」の原則に基づいて成り立っている制度ですから、「収支相当の原則」というルールに基づいて運営されているため、“収支をトントンにしなければいけない仕組み”になっています。
大きな損失が出てしまうと、助け合いの仕組み、つまり保険制度自体が立ち行かなくなってしまい、結果として加入者に大きな迷惑が掛かるので、保険業はバランス感覚がとても大切なビジネスだといえます。
特にネット社会になってからは、自動車保険等の損害保険商品や医療保険商品を中心に、インターネットを通じて比較購入されることが社会に浸透してきました。
また、同時に営業コストも下げられる要素が生じたため、保険料の値下げ競争が激化しました。
その結果として、収支が崩れる危険性が高まってきたといえます。そのために、保険料の値上げをせざるを得なくなってきたわけです。
自動車保険の場合、損害保険料率算出機構が自動車保険の参考純率を公開し、各保険会社は保険料決定の目安として、この参考純率を活用しています。
つまり、この数値を引き上げた場合、その数値を損害保険会社は保険料算出の参考としているので、保険料が値上げになるケースが多くなります。2009年にも、5%超もこの率を上げたため、連動して保険料が上がったという経緯がありました。
次回は、「収支バランスが崩れ始めてきた理由」について触れていきます。
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コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 佐藤 益弘
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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