2020.12.25
専業主婦や専業主夫の立場から繰上げ受給を考える
60歳を超えて「生活費が足りない」となったときに役立つのが老齢年金の「繰上げ受給」です。
ただし、繰上げ受給をすると老齢年金額は下がるため、慎重に判断をする必要があります。
ここでは、専業主婦や専業主夫の立場から、繰上げ受給をする前に知っておきたい注意点などを紹介します。
老齢年金の繰上げ受給とは
一定要件を満たした方が受給できる「老齢基礎年金」や「老齢厚生年金」の受給開始年齢は、原則65歳です。
ただし、希望をすれば、本来の受給開始年齢より前に請求することで、60歳~65歳になるまでの間で老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給をすることができます。そのことを一般的に繰上げ受給といいます。
しかし、繰上げ受給の請求をすれば、繰上げ受給の請求時点に応じて老齢年金額の減額率が決定され、その減額率は一生涯変わりません。
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金はどちらか一方だけを繰上げることができなかったり、一度受給権が発生すると、その後は取り消しや変更をすることができなかったりなどの注意点もあります。
そのため、繰上げ受給をするときには十分に検討した上で判断する必要があるのです。
図1 老齢厚生年金を65歳から受給可能な方が、60歳から繰上げ受給をする場合の例
資料:日本年金機構「老齢年金ガイド(令和2年度版)」をもとに執筆者作成
繰上げ受給で最大3割の減額
繰上げ受給による減額率は、「ひと月0.5%」です。
本来の受給開始年齢が65歳の方が、60歳から繰上げ受給をする場合、減額率は「0.5%×5年(60カ月)=30%」となります。
繰上げ受給は早くから老齢年金を受給できる点が魅力です。
しかし、繰上げ受給をすると一生涯減額された老齢年金額となるため、「受給総額」が本来の受給開始年齢で請求した65歳受給者に追いつかれることがあります。
例えば下表を見ると、減額率が30%の60歳から繰上げ受給をした場合、受給総額が本来請求の65歳受給者に追いつかれる年齢は76歳8カ月となります。
表 繰上げ受給の減額率等の例
※スクロールで表がスライドします。
受給開始年齢 | 繰上げ期間 | 減額率 | 受給総額が本来請求の65歳 受給者に追いつかれる年齢 |
---|---|---|---|
60歳 | 5年(60カ月) | 30% | 76歳8カ月 |
61歳 | 4年(48カ月) | 24% | 77歳8カ月 |
62歳 | 3年(36カ月) | 18% | 78歳8カ月 |
63歳 | 2年(24カ月) | 12% | 79歳8カ月 |
64歳 | 1年(12カ月) | 6% | 80歳8カ月 |
65歳 | 0年(0カ月) | 0% | - |
資料:日本年金機構ホームページをもとに執筆者作成
なお、2020年5月29日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(年金制度改正法)」が成立したことにより、2022年4月から、繰上げ受給による減額率は「ひと月0.4%」となります。
特別支給の老齢厚生年金の繰上げ受給
男性は1953年、女性は1958年の4月2日以降に生まれた方の特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は、原則として、受給開始年齢を迎えたときから受給できますが、希望すれば60歳から受給開始年齢の前月になるまでの間でも繰上げ受給をすることができます。
例えば、特別支給の老齢厚生年金を61歳から受給できる方が、60歳から繰上げ受給をする場合「0.5%×1年(12カ月)=6%」減額されますが、老齢基礎年金も同時に繰上げる必要があるため、老齢基礎年金は「0.5%×5年(60カ月)=30%」減額されます。
図2 特別支給の老齢厚生年金を61歳から受給可能な方が、60歳から繰上げ受給をする場合の例
※長期加入の方や障がいのある方、船員または坑内員であった期間が15年以上の方が、繰上げ受給の老齢厚生年金の受給をする場合は、上図の老齢年金額に加えて繰上げ調整額(本来の受給開始年齢から受給できる定額部分の年金額を、請求日に応じて按分した年金額)の受給をすることができます。
資料:日本年金機構「老齢年金ガイド(令和2年度版)」をもとに執筆者作成
配偶者がいる専業主婦や専業主夫が繰上げ受給をする場合の注意点
もし、老齢基礎年金の繰上げ受給をしている専業主婦や専業主夫が65歳になる前に、配偶者が亡くなった場合は注意が必要です。
(1)「寡婦年金」の支給停止
寡婦年金とは、第1号被保険者として保険料を支払っていた期間(免除期間を含む10年以上、ただし2017年8月1日より前の場合は25年以上)のある夫が亡くなったときに、妻が60歳~65歳になるまでの間に支給される年金です。その他にも支給されるためには一定の要件があります。
もしも妻が老齢基礎年金の繰上げ受給をしていた場合、この寡婦年金は受給できません。
(2)65歳まで「遺族厚生年金」の支給停止
第2号被保険者だった配偶者が亡くなった場合、亡くなった方によって生計を維持されていていた専業主婦や専業主夫が支給要件を満たしていると、遺族厚生年金(遺族共済年金)の受給権が発生することがあります。
受給権が発生したときに、専業主婦や専業主夫が65歳を過ぎていれば、配偶者の遺族厚生年金(遺族共済年金)と自身の老齢基礎年金という組み合わせで、年金の受給をすることができます。
しかし、老齢基礎年金の繰上げ受給をしていると、65歳になるまでは両方の受給をすることができません。
そのため、老齢基礎年金の繰上げ受給をした場合、遺族厚生年金(遺族共済年金)は65歳まで支給停止となります。
図3 遺族厚生年金の支給停止のイメージ
資料:日本年金機構ホームページをもとに執筆者作成
繰上げ受給の注意点のまとめ
ここまで紹介してきたとおり、老齢年金の繰上げ受給をする場合は、受給開始年齢を早められる代わりに、いくつかの注意点があります。
図4 繰上げ受給の注意点
- 老齢年金の減額率は請求時点で決定し、一生涯変わらない
- 老齢年金の受給権が発生すると、取り消しや変更することはできない
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金はどちらか一方だけを繰上げることはできない
- 寡婦年金の受給をすることはできない
- 65歳になるまで老齢基礎年金と遺族厚生年金の併給をすることはできない
資料:執筆者作成
この他、「国民年金に任意加入できない」「事後重症等による障害基礎年金を請求することができない」といった注意点などもあります。そのため、配偶者がいる専業主婦や専業主夫が繰上げ受給をする際には慎重に判断をしましょう。
まずは繰上げ受給以外の方法を考えよう
自身の寿命を知ることは誰にもできませんが、昔に比べると100歳まで生きる方は増えています。
厚生労働省「令和元年 簡易生命表の概況」によると、男性・女性共に平均寿命は長くなっていますが、特に女性は男性に比べて平均寿命が長く、長生きする可能性が高くなっています。
このような状況のなか、一生涯受給できる老齢年金の金額を減らすことはあまり得策には見えません。
60歳になった後も労働収入や退職金などの貯蓄で生活費を賄うことができるのであれば、老齢年金は本来の受給開始年齢から受給をするのが無難ではないでしょうか。
さらには、長生きした場合に備えて、老齢年金額が増える「繰下げ受給」を検討するのもひとつの手といえるでしょう。
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