2019.05.24
個人事業主・自営業の方のための老後資金対策~老齢基礎年金を繰下げる~
個人事業主・自営業の方の国民年金の第1号被保険者には、老後資金対策の一つとして、老齢基礎年金の繰上げ・繰下げ受給があります。前回は、60歳~65歳になるまでの間でも繰上げて老齢基礎年金を受給できる繰上げ受給についてご説明しました。今回は、老齢基礎年金の繰下げ受給について、詳しくご説明します。
老齢基礎年金の繰下げ受給とは
国民年金の第1号被保険者は、原則として65歳から老齢基礎年金を受給できますが、受給開始を遅らせる繰下げ受給の制度も利用できます。老齢基礎年金の繰下げ受給とは、65歳で老齢基礎年金を請求せず、66歳以降から70歳までの間で申し出たときから、繰り下げて老齢基礎年金を受給することができる制度です。繰下げ受給の制度を利用すると、老齢基礎年金を遅れて受給する分、受給額が増額されます。増額率は、「65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数×0.7%」です。
例えば、老齢基礎年金を満額受給できる方が繰下げ請求して70歳から受給する場合、受給額はどれくらいになるのでしょうか。1カ月あたりの増額率0.7%に60カ月(5年間)分を乗じると、増額率は42%となります。よって、老齢基礎年金の受給率は142%となります。2019年度の老齢基礎年金の満額は780,100円なので、この場合、1,107,742円です。受給開始年齢を繰下げた場合の老齢基礎年金の受給額は下表のようになります。
表 受給開始年齢を繰下げた場合の老齢基礎年金の受給額(満額受給の方の場合)
受給開始 年齢 |
受給率 | 受給額 (年額) |
---|---|---|
65歳 | 100.0% | 780,100円 |
66歳 | 108.4% | 845,628円 |
67歳 | 116.8% | 911,156円 |
68歳 | 125.2% | 976,685円 |
69歳 | 133.6% | 1,042,213円 |
70歳 | 142.0% | 1,107,742円 |
資料:厚生労働省ホームページをもとに執筆者作成
老齢基礎年金の繰下げ請求の注意点
老齢基礎年金は繰下げるほど受給率が上がりますが、増額になるのは70歳までです。70歳以降は、たとえ年数が経過していても70歳到達時点の受給額より増額しません。
図 70歳から繰下げ受給をした場合
資料:日本年金機構ホームページをもとに執筆者作成
また、繰下げ請求をする場合、「繰下げによる増額請求」または「増額のない年金をさかのぼって受給」のどちらか一方を選択できます。ただし、70歳到達月より後に65歳時にさかのぼった請求が行われると、時効により年金が支払われない部分が発生します。公的年金の請求のタイミングにも注意が必要です。
なお、老齢基礎年金を繰下げできるのは、他の年金の権利が発生するまでの間です。65歳に達した日から66歳に達した日までの間に遺族基礎年金または障害基礎年金などを受給する権利がある方は、繰下げ請求をすることはできません。もし、66歳に達した日より後に他の年金を受給する権利が発生した場合は、その時点で増額率が固定されます。その場合も、繰下げによる増額請求にするか増額のない年金をさかのぼって受給するかを選択できます。
その他にも注意点があるため、日本年金機構のホームページなどでよく確認しましょう。
老齢基礎年金を満額受給できる方が、70歳到達時点で繰下げ請求したとして試算すると、81歳ごろで、本来の65歳から受給開始した場合より受給総額が多くなります。厚生労働省「平成29年簡易生命表」によると、男性の平均寿命は81.09年、女性は87.26年ですが、平均寿命は年々延びています。公的年金は、生涯にわたって受給できる制度なので、受給額が増額されることは安心感につながるのではないでしょうか。損得だけでなく、いつまで働くか、ご自身の事業の状態を含めた総合的な視点で判断されることをおすすめします。
- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
- ※ 掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。