対人賠償保険とは?
任意の自動車保険の基本となる契約
任意の自動車保険における補償の種類のうち、最も代表的なものが「対人賠償保険」です。これは、事故を起こしたことによって他人を死傷させた場合の補償で、自賠責保険で支払われる金額を超える部分を補償します。したがって、自賠責保険の補償(傷害で120万円、死亡で3,000万円、後遺障害で最高4,000万円)の範囲内であれば、対人賠償保険からの保険金は支払われません。あくまでも、超えた部分のみを補償するのが対人賠償保険です。
任意の自動車保険の場合、車両保険などは、契約する際に補償をつけるかどうかを選択できるようになっているものが多いですが、対人賠償保険は対物賠償保険とともに、基本となる契約として必ず加入するようになっています。契約する保険金額も、「無制限」を上限に、次が「2億円」などとなっている商品が一般的です。保険金額を「無制限」として契約した場合が最も高い保険料となりますが、5億円を超えるような高額判決の例をみてしまうと、いくらそのような事故を起こす確率が低かったとしても、万一の際の安心を買うという意味では、「無制限」を選んでおいたほうが無難だといえるでしょう。ちなみに、対人賠償保険は、無免許運転や飲酒運転の場合も補償対象となります。ただし、被害者が配偶者、父母、子の場合は補償対象となりません。
そもそも、警察庁交通局「平成25年中の交通事故の発生状況」によれば、平成25年1年間の交通事故の件数は約63万件。そして、交通事故による死傷者数は約78万人と、1事故あたりの平均でいえば、約1.2人の死傷者が出ていることになります。ちなみに、平成25年1年間の交通事故死者数は4,373人でした。この数字は、死者数が多かった昭和45年の16,765人と比較すると、約4分の1の水準です。この数字から、交通事故による死者数は確実に減少してきていることがわかります。
しかし一方で、負傷者数でみると、昭和45年当時の約98万人から一旦は減少したものの、昭和50年代後半あたりから増加に転じ、平成13年、15年、16年に記録した年間約118万人をピークに少しずつ減少して、約78万人まで減ってきたという状況です。これにより、死者数に比べて、負傷者数の減少はそれほど進んでいないことがわかります。交通事故の件数自体も、平成16年の約95万件をピークに約63万件まで減ってきましたが、単純計算でも約50秒に1件の割合で起きていることを考えると、いつ交通事故の加害者や被害者になってもおかしくないことがわかると思います。
賠償金額に影響のある過失相殺とは?
なお、交通事故に関する賠償金額を決める際の重要な要素が、「過失相殺」です。これは、交通事故の被害者にも不注意等の過失があった場合に、その過失責任の割合(過失割合)に応じて損害賠償の金額を減額することをいいます。
例えば、事故による損害額の合計が300万円だった場合、加害者の過失割合が7割で、被害者の過失割合が3割(過失割合7:3)だったとすると、加害者が210万円(=300万円×7割)、被害者が90万円(=300万円×3割)の負担になるということです。特に、車対車の事故の場合、加害者対被害者の過失割合が10:0になることはあまりありません。多少なりとも被害者の過失があれば、その分だけ損害賠償の金額が減額されるわけです。
ただし、自賠責保険の場合は、例外的に被害者に重大な過失がない限り、減額されないようになっています(重過失減額)。重過失減額とは、自賠責保険の支払いの際、被害者保護の観点から、被害者に重大な過失がある場合のみ総損害額から減額することです(総損害額が支払限度額以上のときは、支払限度額から減額されます)。具体的にいうと、被害者の過失割合が7割未満の場合は減額されません。
このように、加害者または被害者が負担しなければならない賠償金額は、その事故の状況に応じた過失割合によって決められるわけですが、交通事故の状況そのものは事前にコントロールできるものではありません。誰もが加害者になりたくてなるわけではないでしょう。だからこそ、貯蓄ではカバーしきれないと思われる賠償責任に備えるためにも、自賠責保険を補完する位置づけの対人賠償保険の重要性が一般に語られるわけです。
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コラム執筆者プロフィール
菱田 雅生 (ヒシダ マサオ) マイアドバイザー.jp®登録 - 早稲田大学法学部卒業後、大手証券会社を経て独立系ファイナンシャルプランナーに。平成20年、ライフアセットコンサルティング株式会社を設立。
資産運用や住宅ローンなどを中心に、相談業務や原稿執筆、セミナー講師等に従事している。
ファイナンシャルプランナー 菱田 雅生
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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