新生活で自転車を利用するなら知っておきたい自転車事故と自転車保険のこと
入学シーズンも近くなってきました。通学に自転車を利用する学生やその保護者の方は、自転車保険を検討しているころでしょう。また、近年は環境面や健康面などの観点から自転車のニーズは高まっています。
今回は、自転車を利用するなら、知っておきたい自転車事故や自転車保険について解説していきます。
自転車を取り巻く現状と自転車事故の現状
国土交通省「令和2年度第1回自転車の活用推進に向けた有識者会議(資料2)」[1]によると、わが国の自転車の保有台数は約6,870万台です。これは日本人の約2人に1台という割合で、自転車が移動に欠かせないものになっていることがうかがえます。
自転車の利用人数が多いとなると、気になるのは、自転車事故の現状ではないでしょうか。ここでは、自転車事故の件数と「自転車対歩行者」「自転車単独」事故の、件数の推移をみていきます。
図1 自転車関連事故件数および「自転車対歩行者」「自転車単独」事故件数の推移
資料:警察庁「道路の交通に関する統計/交通事故の発生状況(2021年)」[2]をもとに執筆者作成
上記のグラフをみると、自転車関連事故件数は減少傾向です。しかし、特に「自転車単独」事故は、近年大きく増加しています。
さらに、自転車対歩行者事故の自転車の年齢別歩行中死者・重傷者数をみてみると、15歳~19歳の件数が他の年齢層と比べて多くなっています。これは、高校生になると自転車通学をする学生が増えることが原因と予想できます。
図2 自転車対歩行者事故における自転車の年齢層別歩行中死者・重傷者数
資料:警察庁交通局「令和2年における交通事故の発生状況等について」[3]をもとに執筆者作成
事故の責任
ここで、事故の責任割合について確認しておきましょう。
自転車事故の当事者と相手の組み合せによって、責任割合が異なります。例えば、信号機のない交差点での交通事故の場合、基本的な責任割合は「自転車」と「自転車」が同程度、「自転車」と「歩行者」では自転車の方が多く認定される傾向にあります。
自転車を日常的に使用する人は、歩行者との事故には特に注意する必要があるといえるでしょう。
自転車と歩行者の事故で高額の賠償金を払わなくてはいけなくなったニュースを耳にすることがあります。過失割合や事故の大きさによって、賠償請求の金額には差がありますが、高額な賠償金支払いを命じる判決が出た事例は以下のようなものがあります。
表 自転車での加害事故
※スクロールで表がスライドします。
判決認容額(※) | 事故の概要 |
---|---|
9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。(神戸地方裁判所、2013(平成25)年7月4日判決) |
9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折等で約2カ月後に死亡した。(高松高等裁判所、2020(令和2)年7月22日判決) |
9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。(東京地方裁判所、2008(平成20)年6月5日判決) |
6,779万円 | 男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突。女性は脳挫傷等で3日後に死亡した。(東京地方裁判所、2003(平成15)年9月30日判決) |
5,438万円 | 男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡した。(東京地方裁判所、2007(平成19)年4月11日判決) |
※判決認容額とは、上記裁判における判決文で加害者が支払いを命じられた金額です(金額は概算額)。上記裁判後の上訴等により、加害者が実際に支払う金額とは異なる可能性があります。
資料:一般社団法人 日本損害保険協会ホームページ[4]をもとに執筆者作成
自転車保険の義務化
前項のように、自転車事故によって高額な治療費や賠償金が必要になる可能性もあります。このようなことを踏まえて、全国で自転車保険の義務化が進んでいます。
国土交通省ホームページ[5]によると、2021年10月1日時点での、自転車保険に関する地方自治体の義務化状況は、23の都府県が自転車保険の義務条例を制定しており、11の都道府県では自転車保険の加入の努力義務条例が制定されています。
なお、「自転車保険」という保険に限らず、賠償責任が補償される保険であれば問題ありません。
自転車事故の補償にはどのような保険があるのか
自転車事故の賠償責任を補償する保険には、いくつかの種類があります。
- 自転車保険
自転車を運転する人のケガの補償と相手にケガをさせてしまったときの賠償責任保険 - 自動車保険や火災保険、傷害保険などに付帯する自転車特約(個人賠償責任補償特約)
損害保険に付帯する自転車の事故に対する補償特約 - 団体やPTAで加入する自転車保険
学校や団体経由で加入し、団体割引がある - 共済
県民共済や国民共済などが扱っている自転車保険 - TSマーク付帯保険
自転車安全整備士が点検した自転車の車体にTSマークが貼付され、このTSマークに付帯された自転車保険
自転車保険に加入するときには、事故の加害者になったときだけを補償するのか、自転車を運転する人のケガも補償するのか、賠償保険金はどのくらいにするのかをよく検討しましょう。
また、賠償責任保険に重複して加入していても、一般的には、当該する事故に対しそれぞれの保険からは保険金が支払われません。どちらか一方からのみ、保険金が支払われます。重複している場合は、保険料を余分に支払ってしまうことになりかねませんので、十分確認しましょう。
なお、新型コロナウイルス感染症の流行したころから特に自転車での宅配サービスの配達員をよく目にする気がします。この配達員などの自転車事故については、個人賠償保険では補償できません。
業務で自転車を利用する場合は、業務用の自転車保険があります。勤務先の法人が加入している業務用の自転車保険を確認したり、個人事業主として加入したりして自転車事故の補償に備えておきましょう。
出典 |
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執筆者プロフィール
髙杉 雅紀子タカスギ マキコ
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP
生命保険会社にて約8年勤務後、住宅建築の建設会社に16年勤務。現在も建設会社で住宅取得資金や住宅ローンアドバイスを行う。さらに、主婦・母・自営業の嫁・親の介護の経験を生かし、教育資金や自営業者の老後資金、保険見直しなどのアドバイスにも力を注ぐ。
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- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
- ※ 掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
- ※ 掲載日は2022年3月24日です。
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