2021.06.18
個人事業主自身が厚生年金保険に加入する場合とは?
これまで、個人事業主・自営業の方が従業員を雇ったとき、主に従業員の年金がどうなるのかを見てきました。
今回は、個人事業主・自営業の方自身の年金にどのような影響があるのかを見ていきましょう。
個人事業から法人化した場合
法人化した場合は、従業員も事業主も、厚生年金保険への加入が義務付けられます。これまで国民年金の被保険者(第1号被保険者)だった個人事業主・自営業の方が、厚生年金保険の被保険者(第2号被保険者)に変わることになります。
図1 法人化した場合の公的年金制度
※一定基準を満たさないパートタイマー・アルバイト等、従業員が厚生年金保険の被保険者とならない場合もあります。
※事業主ひとりのみの法人の場合も同じく、厚生年金保険に加入します。
法人化して自分(事業主)が厚生年金保険の被保険者となった場合、厚生年金保険料の半分は自分、半分は法人が負担します。
これだけを聞くと「結局、自分の保険料は、全額自分が払っているのと同じなのでは?」と、保険料の負担が心配になるかもしれません。
確かに保険料を比較してみると、国民年金では定額の月16,610円(2021年度の金額)ですが、厚生年金保険では月36,600円となり、負担は大きく感じられます(厚生年金保険料は給与額によって異なり、今回の金額は平均月収を20万円とした場合です)。
しかし、個人が負担した厚生年金保険の保険料は社会保険料控除の対象になり、法人が負担した保険料も損金として処理できるため、どちらにも税負担を抑える効果があります。
図2 厚生年金保険の被保険者になることによる保険料への影響
- 保険料負担が増す
- ただし、保険料は控除の対象や損金扱いとなり、税負担を抑える効果がある
また、厚生年金保険の被保険者となることで、将来の老齢年金額が殖えることになります。
厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の老齢年金平均受給額は月56,049円ですが、一方で厚生年金保険の老齢年金平均受給額は月146,162円(民間事業所勤務の方の場合)と、平均受給額に差があることが分かります。
さらに、配偶者の保険料を抑えられる可能性もあります。
もし年収130万円未満の配偶者がいる場合、一定の要件を満たせば、その配偶者は第3号被保険者になります。第3号被保険者は国民年金保険料の支払いが不要なので、その配偶者の保険料(月16,610円・2021年度の金額)を抑えられることになります。
図3 厚生年金保険の被保険者になることによるその他の影響
- 老齢年金額が殖える
- 配偶者の国民年金保険料の支払いが不要になる場合がある
つまり、法人化して事業主が厚生年金保険に加入すると、税負担を抑えながら事業主自身やその配偶者の老後資金対策もできるといえます。
一概に厚生年金保険に加入するのが正解とは言い切れませんが、「経済的負担が増すから嫌だな」と思っている方は、このようなメリットがあることも知っておきましょう。
個人事業で厚生年金保険の適用事業所となった場合
一方、法人化ではなく、個人事業のままで規模を拡大したような場合は、状況が異なります。
事業所が厚生年金保険の適用事業所となっても、個人事業主は厚生年金保険に加入することはありません。そのため個人事業主は、引き続き国民年金に加入することになります。このルールは、厚生年金保険の強制適用・任意適用どちらの場合も同じです。
図4 個人事業で厚生年金保険の適用事業所となった場合の公的年金制度
※一定基準を満たさないパートタイマー・アルバイト等、従業員が厚生年金保険の被保険者とならない場合もあります。
「厚生年金保険の適用事業所だから、自分も加入する」と思ってしまわないように気を付けておきましょう。
法人化するかどうかが大きなポイント
個人事業主・自営業の方自身が厚生年金保険に加入することで、今回主にご紹介した老齢年金以外にも、もしものときの障害年金・遺族年金といった保障が手厚くなります。
しかし、個人事業主・自営業の方が厚生年金保険に加入したいと思ったら、個人事業を法人化するしかありません。
法人化するかどうかが大きな分岐点ですが、自分自身の年金以外にも、従業員の厚生年金保険料負担や、その他の税の負担など、法人化の検討材料は多く、決断は非常に難しいものでしょう。
迷ったときは、税理士やファイナンシャルプランナーなど、専門家の力を借りることも検討してください。事業と自分の将来のために、より良い道が見つけられるかもしれません。
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