2021.06.04
厚生年金保険の任意適用事業所
前回は、厚生年金保険への加入が義務となる「強制適用事業所」についてご紹介しました。
しかし、強制適用事業所ではない事業所でも「従業員の福利厚生を充実させたい」「従業員から要望があった」などの理由で、厚生年金保険への加入を考えることがあるかもしれません。
その場合、厚生年金保険に加入することはできるのでしょうか?加入の手続きはどうすれば良いのでしょうか?
今回は、事業の在り方としてもうひとつのパターンである「任意適用事業所」について見ていきましょう。
厚生年金保険の任意適用事業所とは?
前回、法人や一部の個人事業の事業所は「強制適用事業所」となり、厚生年金保険への加入が義務となることをお伝えしました。
一方、強制適用事業所とならない個人事業の事業所は「任意適用事業所」と呼ばれ、厚生年金保険に加入する義務はありませんが、要件を満たせば加入することもできます。
図1 事業所の形態などによる厚生年金保険の適用事業所の違い
任意適用事業所が厚生年金保険に加入するための要件とは「従業員の同意が得られていること」です。従業員の2分の1以上が厚生年金保険に加入することに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることで加入できます。
なお、この場合の従業員とは、厚生年金保険の被保険者となる予定の方を指します。パートタイマーやアルバイトや等の従業員は、勤務時間などによっては被保険者とならないため、「従業員の同意」に参加できるかどうかは、その方の勤務状況次第でしょう。
図2 厚生年金保険・従業員の同意の例
任意適用事業所が気を付けておきたいポイント
任意適用事業所が厚生年金保険への加入を検討する際に、特に気を付けておきたいポイントがあります。事業主・従業員双方が知っておくことが望ましいでしょう。
・同意しなかった従業員も厚生年金保険に加入しなければならない
厚生年金保険は、事業所単位で適用されます。そのため、2分の1以上の従業員の同意などによって加入が決定となった場合、同意しなかった従業員も厚生年金保険に加入することになります。場合によっては、不満に思う従業員に対して、納得してもらうための説明が必要になるかもしれません。
・脱退する際は、より厳しい要件で同意が必要となる
厚生年金保険の適用後、脱退することも可能です。ただし、この場合は、従業員の4分の3以上の同意が必要となり、加入時よりもハードルが上がります。
厚生年金保険の新規加入の手続き(任意適用の場合)
厚生年金保険に加入することが事業所内で決まったら、事業所の所在地を管轄する年金事務所に「任意適用申請書」を提出します。提出方法は、電子申請や郵送、窓口持参があります。
任意適用申請書の他に、従業員の2分の1以上の同意を得られたことを証明する「任意適用同意書」や、事業主世帯全員の住民票など、添付書類が必要です。
従業員の同意が得られたら、必要書類を準備して、速やかに提出しましょう。
加入は話し合いをしながら検討を
ここまで見てきて「2分の1以上の従業員から厚生年金保険加入の要望があったら、絶対に加入しないといけない?」と疑問に思った方もいると思います。
厚生年金保険に加入するには、従業員の同意の他に、事業主からの申請が必要です。つまり、事業主が加入したくないと思えば申請しないという方法はあります。ただし、十分な説明がなければ、従業員の労働意欲などに影響する可能性があるでしょう。
また、加入する場合でも、一部の「加入したくない」という従業員に負担をかけてしまう可能性を考えなければなりません。
任意適用事業所が厚生年金保険への加入を検討する際は、「加入する・しない」どちらの決断であっても、事業主と従業員の話し合いが大切になる場面が多いのではないでしょうか。
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