高額療養費の計算
「高額療養費制度」は、入院や手術等を受け多くの治療費が必要になった場合に、家計に対する医療費の自己負担が重くならないように一定の歯止めをかける制度になります。平成27年1月1日から、70歳未満の方の高額療養費制度が見直されましたので、具体的な数字を使って確認していきましょう。
1.見直し前後の高額療養費計算
平成26年12月31日までの所得区分は、上位所得者・一般所得者・住民税非課税者の3段階でしたが、今回の見直しでは、負担能力に応じて所得区分が以下のような5段階に細分化されました。
表1 高額療養費制度の見直し前後比較
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資料:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
- (例:年収約1,160万円超で医療費総額が100万円の場合)
- 改正前:150,000+(1,000,000-500,000)×1%自己負担限度額155,000円
- 改正後:252,600+(1,000,000-842,000)×1%自己負担限度額254,180円
- (例:住民税非課税者ではなく、年収約370万円未満で医療費が100万円の場合)
- 改正前:80,100+(1,000,000-267,000)×1%自己負担限度額87,430円
- 改正後:一律57,600自己負担限度額57,600円
改正前と改正後で比較すると、年収約1,160万円を超える方は改正後のほうが99,180円の負担増となりますが、住民税非課税者ではなく、年収約370万円未満の方は改正後のほうが29,830円の負担減となります。現在は改正前と改正後で負担額に変更がない方でも、今後の収入の増減によって自己負担額も増減することになります。また、個室に入った場合の差額ベッド代や、食事代および先進医療等健康保険適用外の治療にかかる費用は、上記計算式の対象外になりますので注意しましょう。
2.多数回該当
高額療養費制度には、さらに自己負担額が軽減される「多数回該当」という制度が設けられています。直近の12カ月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降は自己負担の上限額が下記の通り引き下げられます。どの所得区分の方でも、上記で計算した自己負担限度額より負担が軽減される仕組みになっています。
表2 高額療養費制度 多数回該当
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資料:厚生労働省保険局より「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
- (例:年収約370万~約770万円で医療費が100万円の場合)
- 1回目~3回目:80,100+(1,000,000-267,000)×1%自己負担限度額87,430円
- 4回目以降自己負担限度額44,400円
3.世帯合算
高額療養費制度には、さらに自己負担額が軽減される「世帯合算」という制度が設けられています。1人では高額療養費の支給対象にならない場合でも、同じ世帯の方(同じ医療保険に加入していることが条件)が支払った自己負担額を、1カ月単位で合算することができる制度になります。この合算額が一定額を超えた場合、超えた分が高額療養費として支給されます。
- (例:70歳未満、年収約370万~約770万円の場合)
- 夫:自己負担額60,000円(医療費200,000円)
- 妻:自己負担額60,000円(医療費200,000円)
それぞれで計算すると高額療養費の支給対象にはなりませんが、合算すると自己負担額が12万円となり、支給対象となります。計算式『80,100+(医療費総額-267,000)×1%』に、合算した医療費総額400,000円を入れると81,430円となり、120,000円-81,430円=38,570円が高額療養費として支給されます。ただし、70歳未満の方の受診については、21,000円以上の自己負担のみ合算されますので、注意が必要です。
4.まとめ
平成27年1月1日から高額療養費制度が見直されましたが、入院や手術等治療費がかさむときに頼りになる制度であることは間違いありません。多数回該当や世帯合算の制度も、治療費の支払いで家計が苦しくなるときに利用すると、自己負担が軽減され、金銭的な不安が和らぎます。まずは高額療養費制度等社会保障制度を理解し、預貯金や住宅ローン等家計の状況やお勤め先の保障も確認したうえで、医療保険への加入が必要かどうかを検討するようにしましょう。
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コラム執筆者プロフィール
長谷 剛史 (ハセ タケシ) マイアドバイザー.jp®登録 - 学校法人・会計事務所勤務を経て2007年1月、大阪府堺市に独立系FP事務所を開業。
ファイナンシャルプランナーはお金の専門家ではありますが、幸せな家庭を作る専門家でありたいと常々思っています。
住宅・資産運用・保険の3つの分野に強いファイナンシャルプランナーとして、ライフプランを基本とした個別相談・講演・執筆等の活動を行っています。
ファイナンシャルプランナー 長谷 剛史
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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