消費税増税後の住宅価格はどうなる?~前編
2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられました。さらに2017年4月には、10%に引き上げられる予定です。
まず、住宅に関する消費税について説明します。消費税の対象は建物部分のみです。土地には消費税はかかりません。建物でも中古住宅の個人間の売買のように、事業者でないものからの取得の場合消費税はかかりません。ちょっと意外ですね。
1.消費税が上がると価格は?
例として、建物価格が2,000万円の住宅を考えてみましょう。消費税率を8%としますと、税額は160万円。建物の取得価格は併せて2,160万円です。
今後、消費税が10%に引き上げられますと、消費税額は200万円になり、取得価格も2,200万円になります。
これはあくまでも増税分を100%転嫁した場合です。取得価格が上がると当然のことながら需要が減ります。もしある住宅販売会社が増税分を値下げした場合、他社の住宅は相対的に高いものとなり売れ行きが大幅に落ち、利益も減少することも考えられます。
このようなことを避けるために、会社によっては住宅価格を引き下げる場合もあります。例えば2,000万円の住宅の販売価格を1,970万円に引き下げた場合、10%の消費税額は197万円です。購入者の税込みの取得価額は併せて2,167万円。このくらいだと購入者の負担感はそれほどでもなく、売れ行きに大きな影響が出ないかもしれません。
この考え方はあくまでも、経済状況や税制などの諸制度は全く変化が無いものとして、理論的に考えた場合です。実際には消費税引き上げに伴いこれらの要件が大きく変化しています。
(なお、特定事業者による消費税の転嫁拒否等の行為は法律により禁止されています)
2.諸条件の変化により価格は?
2014年4月の消費税引き上げ時には、住宅ローン減税の拡充や「住まい給付金」(新たに住宅を購入した人への現金給付措置)の新設など、引き上げ後の購入者の負担の軽減措置が図られています。これらは増税により減った需要を回復させる効果があります。
一方、住宅という商品の特性として、価格が非常に高額、かつ一生のうちに何回も買うものではない、ということが挙げられます。低額の日用品はともかく、高額の住宅となれば、住宅を取得する予定がある人は、できれば消費税引き上げ前に購入しようと考えるでしょう。そのため引き上げ後の需要は、購入予定者の多くが購入済みですので激減します。いわゆる需要の先食いです。これは引き上げ後の住宅価格を下げる効果があります。
この他にも、好景気による所得増は需要を増やし価格を引き上げます。また、経済的な要因である円安などは、建築コストを高め住宅価格を上げる効果があります。
このように住宅の価格を上げ下げする要因はさまざまです。
それでは、過去の消費税引き上げ当時の実際の住宅価格はどのようになったのでしょうか。
3.実際の価格は?
図1 東証住宅価格指数(東京都:中古マンション、2000年1月=100)
資料:東京証券取引所公表「東証住宅価格指数(試験算出)」をもとに執筆者作成
図1は東京証券取引所が試験算出している2000年1月を100とした住宅価格指数です。対象は東京都内の中古マンションです。中古マンションですので、消費税はかかっていません。ただし土地の部分の価格には消費税が含まれます。土地込みの住宅価格という観点では参考になるデータです。対象が東京都ということもあり、価格には地価の変動がかなり大きく反映されています。
1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられました。そして今回の8%への引き上げです。
それでは1997年と2014年の消費税引き上げ時前後の住宅価格指数の変動率を振り返ってみましょう。いずれも引き上げ時期は4月です。棒グラフの白枠線で囲ってある部分です。
図2 東証住宅価格指数対前月変動率(東京都:中古マンション)
資料:東京証券取引所公表「東証住宅価格指数(試験算出)」をもとに執筆者作成
1997年に比べて2014年は月ごとの違いはあるにせよ、住宅価格の上昇傾向が強いことが見て取れるかと思います。
1997年の引き上げ後には、バブル崩壊後の地価の下落を受け下がり続けています。1997年は金融情勢が非常に不安定な年で、同年11月には山一證券や北海道拓殖銀行の破たんがあり、金融危機が勃発しました。
一方、2014年は97年と比較すると金融情勢も安定しており、さらに日本銀行の金融緩和、円高の是正、東京オリンピックを見込んだ公共投資等の増加がありました。
2014年の金融緩和と円高の是正により、物価上昇率がプラスに転じています。将来的にデフレから脱却できるかどうかは未知数のところがありますが、これは当面は建築資材価格の上昇に反映されていることが考えられます。さらに、人手不足による人件費の上昇が進めば、これから少なくとも東京では、住宅価格はさらなる上昇が考えられます。
前編では、消費税アップの主に東京都の住宅への影響、これまでの住宅価格の動向をみていきました。後編は、地価の動向や今後の住宅価格の動向についてみていきます。
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コラム執筆者プロフィール
有田 宏 (アリタ ヒロシ) マイアドバイザー.jp®登録 - 北海道金融広報アドバイザー、NPO法人北海道未来ネット専務理事、一般社団法人札幌消費者協会監事。CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
金融機関勤務を経て、現在ファイナンシャルプランナー。
専門は金融分野。
経済動向等を含めた幅広い観点から、コンサルティング、セミナー講師、執筆等を行っております。
ファイナンシャルプランナー 有田 宏
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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