相続税を軽減するにはどうしたらいいの?後編~贈与の活用
贈与をして遺産総額を少なくする
生前に財産を贈与すると相続開始時の遺産総額が少なくなり、相続税の軽減になりますが、贈与を受けた方(受贈者)には贈与税が課税されます。贈与税は相続税を補完する税金として、相続税よりも負担が重くなるようになっています。そのため、贈与することで得られた相続税の軽減分以上に贈与税がかかってしまうこともあるので、贈与税と相続税を合わせて納税する総額が軽減されるか試算しておくことが重要です。
・贈与税の計算方法
受贈者が年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産の合計額が、基礎控除額110万円を超えると贈与税が課税されます。
- (計算例)
<Aさんが平成26年中に合計500万円の贈与を受けた場合> - 500万円-(基礎控除額110万円)=390万円
390万円×税率20%-25万円(控除額)=53万円
Aさんの納付すべき贈与税は53万円になります。
平成27年1月1日以後に贈与を受ける分からは、贈与税の税率構造が改正され、最高税率が50%から55%に引き上げられます(表1参照)。一方、受贈者の父母や祖父母等の直系尊属から贈与を受けた財産と、それ以外の者から贈与を受けた財産とは分けて税額を算出するようになり、前者からの贈与は改正前よりも贈与税が緩和されます。
表1 贈与税の速算表
基礎控除後の 課税価格 |
改正前 | 改正後 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
一般贈与※1 | 特例贈与※2 | |||||
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | 0万円 | 10% | 0万円 | 10% | 0万円 |
200万円超 300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
300万円超 400万円以下 | 20% | 25万円 | 20% | 25万円 | ||
400万円超 600万円以下 | 30% | 65万円 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
600万円超 1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,000万円超 1,500万円以下 | 50% | 225万円 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
1,500万円超 3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 | ||
3,000万円超 4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 | ||
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
※1 特例贈与以外の贈与財産に係る贈与税
※2 20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産に係る贈与税
資料:財務省ホームページをもとに執筆者作成
・贈与税の基礎控除(年間110万円)以内の贈与をする
通常の贈与の場合、受贈者が年間に贈与された財産の合計額が110万円以内であれば贈与税はかかりません。例えば、3人の子どもと2人の孫それぞれに100万円ずつの贈与を10年行うと、「5人×100万円×10年=5,000万円」を遺産から減らせますし、受贈者である子どもや孫も、それぞれ1,000万円を無税で受け取ることができます。ただし、定期贈与とみなされた場合は、受贈合計額に課税されますので注意が必要です。
また、贈与者の相続開始(死亡時)前3年以内に贈与を受けた分は、相続税の計算において遺産額に加算(前編の図1の⑥)されることになりますので、留意しておきましょう。なお、上記の例の子どもや孫でも、相続や遺贈で財産を取得しない者が受贈した分は加算する必要はありません。
・「相続時精算課税制度」を適用して贈与をする
「相続時精算課税制度」は、65歳以上の親から20歳以上の子である推定相続人への生前贈与について、子の選択により利用できる制度です。贈与者(親)から累計で2,500万円まで贈与されても贈与税がかからず、2,500万円を超えると超えた分に対して20%の贈与税が課税されますが、贈与者の相続時にはそれまで相続時精算課税で贈与を受けた財産をすべて加えて相続税を計算します(前編の図1の②)。すでに納税している贈与税は相続税の前払い分として扱われ、相続税額の方が少なければ納めた贈与税が還付されるというように、相続時に税金が精算される贈与です。
この贈与を行う場合は、最初の贈与において贈与税の申告書と併せて「相続時精算課税選択届出書」を提出します。選択以降は、相続時精算課税を適用した贈与者からの贈与では年間110万円の基礎控除ができず、選択の変更もできませんので、その点も十分検討して適用するかどうか決めましょう。
相続時精算課税を適用した贈与財産は、すべて相続税の課税対象となるので、相続税を軽減する効果はないといわれていますが、次のようなメリットもあります。
- ・高額な資産でも贈与税の負担が少ないので、相続まで待たずに早期に次世代へ資産の移転がしやすい
- ・賃貸アパート等の収益物件を早期に贈与すると、受贈者がその後に発生する家賃収入等の収益を得られる上、贈与者の収益による遺産増加も抑えられる 等
なお、受贈者は20歳以上でなければなりませんが、贈与者は平成27年1月1日以降の贈与より、60歳以上の受贈者の父母・祖父母へと範囲が拡大されます。
・贈与税非課税で、相続税の計算にも加算されない特例を適用して贈与する
一定の要件を満たせば、贈与時に贈与税がかからず、贈与者の相続時にも遺産に加算しなくてよい特例・制度があります。相続税の軽減だけでなく、特定の財産を贈与することで、受贈者である家族のこれからの生活支援にもつながるでしょう。
- ・贈与税の配偶者控除
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婚姻期間20年以上の配偶者からの居住用不動産もしくはそれを取得するための資金の贈与であれば、2,000万円まで贈与税非課税。
- ・教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
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直系尊属から30歳未満の子や孫への一定の教育資金の贈与であれば、子・孫ごとに1,500万円まで贈与税非課税。
(注:平成25年4月1日から平成27年12月31日までの3年間の措置)
相続税を軽減する方法にはいろいろありますが、やり方を誤るとかえって税負担が大きくなることもありますし、相続人となる方たちに不公平感を生じさせることもあります。
よかれと思ってやった贈与が、後の相続人たちの遺産分割争いのタネになってしまうことも。
相続税の軽減対策についても、円滑な相続で家族の幸せにつながるようにするために、家族みんなでしっかり話し合い、理解を得ておきましょう。また、法律のことは弁護士、司法書士等に、税金のことは税務署、税理士等の専門家に相談して検討していくようにしましょう。
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コラム執筆者プロフィール
平川 すみこ (ヒラカワ スミコ) マイアドバイザー.jp®登録 - CFP®、相続アドバイザー協議会認定上級相続アドバイザー、相続診断士。
「お金の不安を解決して、みんなでHAPPYに!」とフリーのファイナンシャルプランナーとして、相続やライフプランに関することを中心に、個別相談、セミナー、執筆等を通じて幅広く活動中。
エンディングノートの普及にも力を入れている。
ファイナンシャルプランナー 平川 すみこ
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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