2021.04.26
個人事業主・自営業の夫や妻が亡くなった場合、遺族年金はいくら?
前回は、会社員である配偶者が亡くなった場合を想定して遺族年金をシミュレーションしました。
今回は配偶者が個人事業主・自営業の方の場合を考えてみましょう。
個人事業主・自営業の方が配偶者と子ども2人を遺して亡くなったケース
個人事業主である夫が、専業主婦である妻と幼い子ども2人の計3人を遺して亡くなったというケースを例にします。この場合、妻はどのような遺族年金の支給を受けられるのでしょうか?
なお、亡くなった夫は会社員・公務員の勤務経験がなく、また保険料納付要件を満たしているものとします。
遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類
公的な遺族年金には、国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金保険から支給される「遺族厚生年金」の2種類があります。どの遺族年金が支給されるかは、亡くなった配偶者の働き方によって変わります。
図1 遺された配偶者に支給される可能性のある遺族年金
※実際に支給が受けられるかどうかは、遺族の家族構成や年齢によって決まります。
※亡くなった配偶者が個人事業主・自営業の方でも、過去に厚生年金保険に加入していた(会社員や公務員としての勤務経験があった)場合、遺族厚生年金の支給対象となる可能性もあります。
今回の例では、亡くなった夫は会社員・公務員の勤務経験がないため、遺族厚生年金は支給されません。
妻が遺族基礎年金の支給を受けるための要件や年金額
遺族基礎年金について、詳しく見ていきましょう。
図2 遺族基礎年金の支給対象となる遺族の範囲
- 子のある配偶者
- 子
※亡くなった方によって生計を維持されていた方が対象です。
※子は、死亡当時「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない未婚の子」または「20歳未満で障害等級1級または2級の障がいの状態にある未婚の子」の要件のうち、いずれかに該当する必要があります(死亡当時、胎児であった場合も出生以降に対象となります)。
資料:日本年金機構ホームページをもとに作成
遺族基礎年金は支給対象となる遺族の範囲が限られていますが、このケースの妻は「子のある配偶者」に該当するため、遺族基礎年金の支給を受けることができます。
図3 遺族基礎年金の額(子どもが2人いる配偶者の例)
遺族基礎年金の額は定額で、年間780,900円です。ここに子ども2人目までは1人当たり224,700円の加算が行われ、支給される遺族基礎年金の合計額は、年間1,230,300円となります(いずれも2021年度の額)。
ただし、遺族基礎年金は子どもの成長に伴って変化します。
図4 子どもの成長に伴う遺族基礎年金の変化(子どもが2人いる配偶者の例)
※子どもは2人とも、障害等級1級または2級の状態にないものと仮定しています。
子どもが2人いる配偶者の場合、上の子どもが18歳の年度末を迎えると、まず上の子ども分の加算が終了します。さらにその後、下の子どもが18歳の年度末を迎えると、配偶者は「子のある配偶者」ではなくなるとされ、遺族基礎年金の支給そのものが終了となります。
また、子どもが結婚した・子どもが亡くなったなどの理由でも、年金額に影響があります。
ずっと同じ額の支給が続くわけではないことを知っておきましょう。
遺族基礎年金だけではない、国民年金の独自給付
遺族基礎年金の支給を受けるには、一定年齢以下の子どもがいる配偶者であることが要件になります。
「うちは子どもがいないから支給が受けられない」「子どもが小さい間は受けられるけど、将来なくなるのか」と、がっかりした方もいるかもしれません。
しかし、国民年金には独自の給付制度があり、一定年齢以下の子どもがいない配偶者でも給付が受けられる可能性があります。
それが「寡婦年金」と「死亡一時金」です。
子どものいない妻も5年間支給が受けられる寡婦年金
寡婦年金は、夫を亡くした妻が60歳から65歳になるまでの5年間、支給を受けられる年金です。
図5 寡婦年金の支給対象となる妻の要件
※子どもの有無は問われませんが、子どもがいる場合は遺族基礎年金との選択になります。
寡婦年金には「妻のみが対象で、夫は対象にならない」「婚姻期間が10年以上必要」など、遺族基礎年金と比べて厳しい要件があることには注意が必要です。
年金額は、夫の死亡日前日までの第1号被保険者期間から計算した老齢基礎年金額の4分の3です。老齢基礎年金は満額で780,900円(2021年度の額)ですので、最大で年間約59万円となります。
図6 寡婦年金の支給が受けられるケース
※子どもは障害等級1級または2級の状態にないものと仮定しています。
※寡婦年金と同時に他の年金の受給権がある場合は、選択になります。
死亡一時金なら、受け取れる可能性がさらに高まる
もうひとつの独自給付である死亡一時金は、寡婦年金よりも要件が少ないため、受け取れる可能性が高くなるでしょう。
また、支給対象となる遺族の範囲が広いことも特徴です。
表1 死亡一時金の支給要件と、支給対象となる遺族の範囲
支給 要件 |
|
---|---|
遺族の 範囲 |
1 配偶者 2 子 3 父母 4 孫 5 祖父母 6 兄弟姉妹 ※上記の中から優先順位の高い方に支給 |
※死亡日において、亡くなった方と生計を同一にしていた遺族が対象です。
資料:日本年金機構「遺族年金ガイド(令和3年度版)」をもとに作成
給付額は亡くなった方の保険料納付月数によって異なりますが、最大32万円です。
表2 亡くなった方の保険料納付月数による死亡一時金の額
保険料納付月数 | 死亡一時金 の額 |
---|---|
36月以上180月未満 | 120,000円 |
180月以上240月未満 | 145,000円 |
240月以上300月未満 | 170,000円 |
300月以上360月未満 | 220,000円 |
360月以上420月未満 | 270,000円 |
420月以上 | 320,000円 |
※死亡した月の前月までに付加保険料納付期間が36月以上ある場合は、上記の額に8,500円が加算されます。
資料:日本年金機構「遺族年金ガイド(令和3年度版)」をもとに作成
死亡日の翌日から2年を経過すると請求できなくなるため、請求期限に気を付ける必要があります。
なお、寡婦年金と死亡一時金の両方の支給要件に該当する場合は、どちらかを選ぶことになります。
金額や支給のタイミングの違いなどをよく考慮し、自分の希望に合ったものを選択しましょう。
配偶者が個人事業主・自営業の方の場合、より積極的な備えの検討が重要
繰り返しになりますが、遺族基礎年金は子どもがいない方には支給されません。
また子どもがいて支給を受けられたとしても、子どものいる会社員・公務員の家庭と比べると、厚生年金保険がない分だけ少ない年金額になってしまいます。
このことから、個人事業主・自営業の方の家庭は、より積極的に万一の備えを考える必要があるといえるでしょう。
「配偶者が亡くなったら……」とは考えたくもないことですが、今から少しずつ備えておくことが家族の安心につながるはずです。
ひとりで備えを考えることが難しい場合は、保険市場で相談してみてください。ファイナンシャルプランナーなどの資格を持ったコンサルタントと一緒に、無理なく安心を手に入れられる方法を探してみましょう。
- ※ 掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。