母子家庭で医療保障や遺族に対する保障はどのくらい必要?
厚生労働省「ひとり親家庭等の現状について」によると、1988~2011年の25年間で母子家庭は1.5倍になりました。ひとり親世帯の85%が母子家庭です。また、ひとり親家庭の子どもの進学率は、全世帯の大学等の53.7%と比べて、大学等で23.9%、専修学校等含めても41.7%とかなり低い進学率になっています。
母子家庭の経済状態と受けられる公的支援
同資料によると、ひとり親家庭のなかでも母子家庭の年収は、一般世帯の女性の平均269万円より3割以上も少ない181万円となっています。父子家庭の平均は、360万円と母子家庭の2倍の収入となっていますが、一般世帯の男性の収入507万円の7割しかありません。やはり、子どもの世話などで、仕事をセーブせざるを得ないことが原因と考えられます。
今回は、とても厳しい経済環境に置かれている母子家庭について見てみましょう。母子家庭といっても、その原因は夫との死別、離婚、未婚の母などさまざまです。多いのは離婚で約8割を占めます。遺族年金が支給される死別は1割にも達しません。離婚でも未婚でも親には子どもを養育する義務がありますので、両親が養育費を負担しなければなりません。しかし母子家庭における元夫からの養育費の受け取り率は2割弱と大変低いのが現状です。
そこで頼れるのが、ひとり親家庭のために自治体が支給している「児童扶養手当」です。児童扶養手当には、第2子以降の加算や所得制限による減額がありますので、詳しくはお住まいの市区町村にお尋ねください。下表は所得制限にかからない場合です。
児童扶養手当額(月額)
資料:厚生労働省ホームページをもとに執筆者作成
これに加えて東京都では「児童育成手当」という給付もあります。児童1人につき月額 13,500円が支給されます。他の自治体でも独自の支援をしているところがありますので、調べてみると良いでしょう。例えば、横浜市では「バス・地下鉄等の特別乗車券交付」「JR通勤定期券割引」「ひとり親家庭等医療費助成」などの助成があります。
また、児童手当は、子どもを養育している方であれば、子どもが中学校卒業するまで受け取れるため、母子家庭にとっては貴重な収入になります。他にも、母親自身の収入増を支援するための給付金制度があります。
・自立支援教育訓練給付金
就業経験が乏しいことなどから、十分な収入を得ることが困難な方のための制度です。対象教育訓練を受講し、修了した場合、経費の60%(12,001円以上で20万円を上限)が支給されます。技術を身に付けより高い収入を得るためのものです。
・高等職業訓練促進給付金
看護師や介護福祉士等の資格取得のため、1年以上養成機関で修業する場合に、修業期間中の生活の負担軽減のために、高等職業訓練促進給付金が支給されるとともに、入学時の負担軽減のため、高等職業訓練修了支援給付金が支給されます。
働く母親の病気に備える
総務省統計局「平成26年全国消費実態調査」によると、母子世帯の1カ月平均実収入は215,458円,可処分所得(税金や社会保険料を差し引いた手取り)は189,520円、平均消費支出は190,464円で944円の赤字となっています。このような状況のなかで母親が病気やケガで働けなくなったら、生活が立ち行かなくなります。もちろん日頃から健康に留意して、そのようなことにならないように努めなければなりませんが、ダブルワークなどで収入を少しでも確保しようと過労気味の方も見受けられます。収入が十分ではなく貯蓄をする余裕がなければ、医療費の手当てをしておかなければなりません。パートなどの非正規で働いていて加入している公的医療保険が国民健康保険の場合は、働けないときに出る傷病手当金が出ないので母親は医療保険に入っておくと安心です。掛け金の負担の少ないもので最低限の準備をしておくのが良いでしょう。
共済保険というものを聞いたことはありますか?一般の保険会社が販売している保険と違い、掛金は年齢によらず一律でシンプルなのが特徴です。
さらに、医療費の他に、病気等で働けなくなったときに備え、月10万~15万円程度の収入を補償する所得補償保険も検討しましょう。お子さんが自立するまでの一定期間賄うものにして、保険料を抑えるとよいでしょう。
母子家庭で母親にもしものことがあったら
母子家庭の母親が亡くなるという悲劇が起きたとき、子どもたちをどう守って行けばよいでしょう。たいていは母親の親や母親の兄弟などが引き取ってくれますが、日頃から親族とは円満な関係を保っておき、事前に万一のときのことを伝えておきましょう。母子家庭で母親が亡くなった場合の公的保障は、子どもが18歳になった後の3月31日まで遺族基礎年金が給付されます。母親が正規雇用で厚生年金に加入していれば、遺族厚生年金も給付されます。ただ、保険料を一定の期間納めていないと給付は受けられませんので保険料をきちんと支払っているかを確認しましょう。18歳までの給付ということに注意が必要です。仮に、子どもが19歳のときに母親が亡くなり、子どもが大学や専門学校に通っていて収入が全くなかったとしても、遺族基礎年金は給付されません。母子家庭の場合、公的年金で賄えない分と教育資金を生命保険で備えておく必要があります。大学進学する前提で22歳までの期間、定期保険で備えておきましょう。
まとめ
母子家庭は経済的に、毎月貯蓄が出来るほどの収入がない方が少なくありません。将来に備えて貯蓄が無いということは、何かあったらすぐに家計の危機になってしまうということです。そういう方には、まずはお母さんの命と健康のリスクに対する備えが必要です。生命保険、医療保険、所得補償保険などに加入してリスクに備えることを考えてみてください。保険料をなるべく抑えるためには、生命保険は特約を付けず死亡保障のみとします。ネット専業の保険会社は、店舗を持たない分保険料が抑えられています。医療保険は、全国共済、県民共済などの共済保険なども検討してみましょう。
また、働き方を見直して収入を増やし、公的保障を十分受けられるようにすることも検討しましょう。正社員で働く道を探るためにも、「自立支援給付金」などを活用するとよいでしょう。正社員になれば、公的保障が十分受けられ今の生活が安定する上、万一のときも安心ですよね。
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コラム執筆者プロフィール
桑野 恵子 (クワノ ケイコ) - CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
子ども3人と保険金を遺して夫が亡くなり、アパートを保険金で購入し、賃貸経営をはじめました。相談相手のいない不安からファイナンシャルプランナーになり、不動産の法律を学びました。誰に相談していいか、お困り方の疑問にお答えします。
- コーディネーター:(株)優益FPオフィス
ファイナンシャルプランナー 桑野 恵子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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