国民医療費の急増と乳幼児の医療費傾向
全国の医療機関等において、保険診療の対象となり得る病気やケガの治療に要した費用の年額(国民医療費)が過去最高を更新しています。高齢者の増加や医療技術の進歩によって治療費が膨らんだこと等が大きく影響していますが、日本全体ではどのような傾向にあるのでしょうか?また、乳幼児の医療費も増えているのでしょうか?厚生労働省の『平成23年度 国民医療費の概況』で確認してみました。
国民医療費には医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療等は含まれますが、保険診療の対象とならない評価療養(先進医療等)や選定療養(入院時室料差額分等)、その他、治療費以外の正常分娩費用や健康診断費用等は含まれません。また、国民医療費は患者が負担する額ではなく、公費(健康保険等)で負担する額等も含めた医療費全体の額となっています。
国民医療費の総額は38兆5,850億円
厚生労働省の平成23年度の調査によると、国民医療費の総額は過去最高の38兆5,850億円で、前年度の37兆4,202億円から1兆円以上増えています。
年次 | 国民医療費総額(億円) | 人口1人あたりの国民医療費(千円) | 国民所得(億円) | 人口1人あたりの国民所得(千円) | 国民所得に対する国民医療費の比率(%) |
---|---|---|---|---|---|
平成23年 | 385,850 | 301.9 | 3,467,557 | 2713 | 11.1 |
平成18年 | 331,276 | 259.3 | 3,781,903 | 2960 | 8.8 |
資料:厚生労働省「平成23年度国民医療費の概況」より執筆者作成
5年前の平成18年度と比べると5兆円以上増えており、近年、医療費が猛スピードで増加していることがよくわかります。また、人口1人あたりの国民医療費も年間30万円を超え、国民所得に対する国民医療費の割合も11.1%に達しています。
1人あたりの医療費が最もかかっているのは高知県
参考までに人口1人あたりの国民医療費を都道府県別に確認してみたところ、想像以上の差がありました。
医療費の少ない都道府県 | 医療費の多い都道府県 | ||||
順位 | 都道府県 | 人口1人あたり国民医療費 | 順位 | 都道府県 | 人口1人あたり国民医療費 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 千葉県 | 254.8 | 43 | 山口県 | 364.4 |
2 | 埼玉県 | 255.7 | 44 | 大分県 | 364.8 |
3 | 神奈川県 | 263.4 | 45 | 鹿児島県 | 370.0 |
4 | 茨城県 | 269.1 | 46 | 長崎県 | 373.1 |
5 | 滋賀県 | 270.4 | 47 | 高知県 | 398.4 |
資料:総務省統計局「国民医療費及び人口一人当たり国民医療費、都道府県(2011年度)」より執筆者作成
都道府県別で1人あたりの国民医療費が最も少ないのは千葉県で254.8千円となっています。日本全体の医療費平均が301.9千円なので、平均より年間約5万円(約15%)も少ない医療費となっています。2位埼玉県(255.7千円)、3位神奈川県(263.4千円)、4位茨城県(269.1千円)と関東地方の県が上位を占めています。一方で国民医療費が最も多いのは高知県の398.4千円となっています。平均より年間約10万円(約30%)も多く、最も少ない千葉県と比べると1.5倍くらいの医療費になっています。医療費の多い都道府県は九州と四国に多く、全国的には西高東低の傾向にあります。ここまで差があると、地域の医療制度や県民性等も影響しているのかもしれません。
0~4歳の国民医療費は1兆2,418億円
国民医療費全体では急激な増加傾向にありましたが、乳幼児の医療費はどうなっているのでしょうか?下記の2つの表は厚生労働省『平成23年度国民医療費の概況』から年齢階級別に若年層の医療費を取り上げたものです。比較対象として30~34歳と70~74歳も載せています。
資料:厚生労働省「平成23年度国民医療費の概況」より執筆者作成
0~4歳の国民医療費は1兆2,418億円で全体に占める割合は3.2%となっています。0~4歳の人口構成比は4.1%なので、人口構成比よりも医療費はかかっていないといえます。5~9歳の国民医療費は7,087億円と更に少なく、人口構成比4.3%に対して国民医療費の全体に占める割合が1.8%とかなり少なくなっています(総務省統計局「人口推計 平成23年10月1日 確定値」より)。医療費の内訳をみると、0~4歳は5~9歳と比べて医科診療医療費が比較的多く、歯科診療医療費はかなり少ないことがわかります。
次に乳幼児の1人あたりの医療費を確認してみましょう。
年齢階級 | 国民医療費 | 医科診療医療費 | 歯科診療医療費 | 薬局調剤医療費 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 入院 | 入院外 | ||||
総数 | 301.9 | 217.6 | 112.5 | 105.1 | 20.9 | 51.9 |
0~4歳 | 234.2 | 184.9 | 82.0 | 102.9 | 7.8 | 35.7 |
5~9歳 | 129.1 | 77.0 | 18.2 | 58.7 | 20.0 | 29.2 |
30~34歳 | 115.0 | 76.0 | 32.2 | 43.8 | 16.1 | 19.1 |
70~74歳 | 631.8 | 457.9 | 235.5 | 222.4 | 36.5 | 114.5 |
資料:厚生労働省「平成23年度国民医療費の概況」より執筆者作成
1人あたりの医療費は0~4歳も5~9歳も平均(総数)よりかなり少なくなっていますが、0~4歳の入院外(通院)医科診療医療費は平均とほとんど変わらず、5~9歳の歯科診療医療費も平均とほとんど変わらない額となっています。
国民全体の医療費については、急増している現状を多くの人が理解し、現在の医療制度を持続していけるよう、一人ひとりが抑制する努力をしていきたいものです。
乳幼児の医療費については、全年齢平均よりも少ないのは何となく想像できますが、細かくみていくと0~4歳の入院外診療医療費や5~9歳の歯科診療医療費のように平均並みにかかっている医療費もあります。乳幼児の医療費は自治体の医療費助成制度によって患者の親が負担することはほとんどありませんが、親としては乳幼児の医療費傾向を知っておくことは大事であり、このような統計結果を予防対策に役立ててほしいものです。
-
コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 松浦 建二
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。