「配偶者控除」「103万円の壁」とは?「配偶者控除見直し」で、女性の働き方はどうなるの?
新聞やメディア等で「配偶者控除の見直し」に関する話題をよく耳にするようになりましたね。
「配偶者控除」とは、専業主婦世帯の税負担を軽くするための制度で、この存在が、「女性の働く意欲、社会進出の妨げになっているのではないか?」という意見があり、政府はこの制度の廃止・縮小を検討しているのです。
この配偶者控除見直しが与える影響を考える前に、この制度のしくみについて簡単に説明しましょう。
(今回のテーマでは、「妻の給与収入が103万円以下の場合、納税者である夫が配偶者控除を受けられる」という前提でお話をしておりますが、配偶者控除における配偶者は、夫、妻のどちらも対象となります。夫と妻が逆のケースにも当てはまりますので、ご注意くださいね。)
「配偶者控除」とは?
「配偶者控除」とは、妻の給与収入が103万円以下の場合、納税者である夫の収入から配偶者控除として、38万円を差し引いてもらえるというしくみです。つまり、夫の税金を計算するための基礎となる「課税所得」から38万円控除されることにより、夫の税金が軽減されることになります。
仮に夫の年収が600万円程度で所得税率が20%の場合、
38万円(配偶者控除)×20%(税率)=76,000円
となり、単純に計算すると夫の税金は年間で76,000円減ることになります。
また、妻の収入が103万円を超えるとすぐに控除がなくなるわけではなく、103万円〜141万円までは、「配偶者特別控除」という形で段階的に控除額が減っていくしくみになっています(下図を参照)。
図:配偶者控除・配偶者特別控除のしくみ
出典:財務省(平成26年5月12日発表資料)
「103万円の壁」とは?
妻の給与収入が103万円を超えた場合、影響を与えるものは、夫の税金だけではありません。
103万円を超えることにより、妻自身も税金を払うことになります。103万円を超えた部分に対して税金がかかるだけなので、急激に税金が増えることはありませんが、夫、妻、両方の税金が増え、結果、家計収入が減ることにつながるのです。
さらに、もう1つ影響を与える可能性があるのが、夫の会社の「配偶者手当」です。一般的に配偶者手当は、国の制度にあわせて「妻の収入が103万円まで」という基準になっていることが多いので、税金が増えた上に、夫の会社からもらえる手取り額が減ってしまうことになります。
「税金はアップするし、手当は減るし、トータルで考えたら103万円までに押さえた方が家計収入は多くなる、それならば、無理して働く時間を増やす必要もないでしょう!」と、103万円の壁を超えないように「パート主婦が働く時間を調整している」ということが、配偶者控除見直しを検討する1つの要因になっているのです。
「配偶者控除見直し」で、女性の働き方はどうなるの?
もし配偶者控除が縮小、廃止されたら、働く女性は増えるのでしょうか?
最近の雇用状況の改善とアベノミクス効果による女性の活躍、女性の社会進出というムードが高まる中、配偶者控除見直しがきっかけとなり、就労時間をセーブしている女性たちが、「壁を考えずに積極的に働こう!」と前向きに動き出すということは考えられます。
ただ、「子育て環境が十分でない、親の介護が必要」、といった理由で働きたくても働けないという状況の方々にとっては、負担だけが大きくなることになるので、不満の声も少なくありません。
103万円の壁とは別に、もう1つ女性の就労を妨げる要因として、「130万円の壁」があります。妻が130万円以上の収入を得た場合、夫の扶養から外れ、妻自身が年金や健康保険といった社会保険に加入することによって生じる壁です。収入が130万円を超えると自分自身の社会保険料が差し引かれるため、130万円を少し超えた程度の収入の場合、社会保険料が引かれた分だけ130万円未満に収入を押さえた場合よりも手取り額が減ってしまうことから、こちらの壁を意識して働く人も多いようです(130万円の壁に関しては、2016年10月より基準を満たした大手企業のみ、収入基準が106万円に引き下げられることが予定されています)。
「主婦の社会復帰と、女性の活躍」を応援している私としては、「女性たちが、壁を気にせず、それぞれの能力を活かし、積極的に働いてほしい!」と願っていますが、103万円の壁を超えて働いても、130万円の壁にまたぶつかるのであれば、配偶者控除見直しだけでは女性の就労促進にはあまりつながらないように思います。
「130万円の壁のしくみ」「子育て環境の改善」「正社員とパート社員の賃金格差」等の問題改善に加え、
- •ブランクのある女性でも復帰しやすい職場環境
- •短時間労働でもそれぞれの能力が発揮できる仕事
等、女性の就労意欲を促すような労働環境を整え、「世の中の女性がもっとキラキラと輝いて働ける社会」になってほしいものです。
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コラム執筆者プロフィール
合田 菜実子 (ゴウダ ナミコ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー、キャリアカウンセラー。
消費者向けの家計セミナーやFP資格取得講座等の講師業の他、フリーペーパーやWEBコラム等の執筆や個人相談業務等も行っています。
“お金の知識を分かりやすく楽しく伝える”をモットーに、出会った人々に安心感を与えられるようなファイナンシャルプランナーを目指しています。
ファイナンシャルプランナー 合田 菜実子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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