金融庁、全地銀を一斉検査
2014年4月に、金融庁が全ての地方銀行と第二地銀を対象に一斉に検査を始めたことがわかりました。
最近の景気回復により大企業中心に資金需要が増えつつあることや、好調だった株式市場を受けての運用収益の改善、投資信託販売手数料の増加などで、2014年3月期の地方銀行の収益は増益傾向でした。しかし、地方銀行の将来性を考えると人口減少などの要因で厳しい経営環境になることが予想されており、金融庁はこれまでの不良債権のチェック中心の検査から、今回地方銀行をその経営規模などに応じて4グループに分け、将来の収益力をどのように確保していくのか、その検証まで踏み込んだ内容になっています。
地方の人口が急減
地方銀行の経営環境が厳しくなっていく背景として、まずは日本の人口減少が挙げられます。
「国立社会保障・人口問題研究所の予測(平成24年1月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、今後わが国の人口は減少する見通しであり、日本の総人口(外国人を含む)は長期にわたって減少が続き、平成22(2010)年の1億2,806万人から、平成42(2030)年に1億1,662万人となり、平成60(2048)年には1億人を割って9,913万人となるものと予想されています。
そのなかでも地域によっての格差は大きく、東京都や神奈川県などの首都圏の人口減少はそれほど急激なものではありませんが、秋田県・青森県・高知県・岩手県・山形県などを含む地方においては、これから急速に人口減少が進むことが見込まれています。
メガバンクなどは国内市場の縮小が予想される中、積極的な海外展開によって活路を切り開こうとしていますが、そもそも地方銀行の場合は人材不足などでメガバンクのような海外展開が難しいため、この人口減少の問題は切実だと考えられます。
顧客の高齢化が大きな課題
また、人口の問題だけでなく、顧客の高齢化も問題点としてあります。少子化によって若年層の人口が少なくなっていることに加え、共働き世帯の増加やインターネットの普及によって、24時間いつでも取引できるインターネット銀行を中心に活用する若い人も増えています。そのため、9時から15時までの銀行窓口の営業時間に来店するお客さまは高齢者ばかりという地方銀行もめずらしくなくなってきました。
日本の場合はとくに高齢者が金融資産を保有している傾向が顕著であるため、高齢者が亡くなった時に、相続で地方銀行から都市部にいるご家族に金融資産が移転される傾向、すなわち預金の流出という事態につながる可能性があります。
さらに近年は消費者トラブルの増加を踏まえて、高齢者に対する金融商品の販売規制が年々強化されています。その規制強化により、高齢者に対する投資信託や保険などの金融商品の販売が厳しくなってくると思われます。
そのため顧客の高齢化対策として、若い世代の顧客確保が地方銀行の大きな課題になってきています。
オーバーバンキング(銀行過剰)による収益性の低下
もう一つの大きな課題として、オーバーバンキング(銀行過剰)であることです。メガバンクの場合は金融ビッグバン以降に銀行の合併が進み、現在の3行体制になりました。しかし、地方銀行のほうの再編は遅れていて、現在でも地銀・第二地銀合わせて105行が残る状況になっています。
このオーバーバンキング状態によって、融資先の奪い合いや、いき過ぎた低金利競争などの事態を引き起こしていると思われ、銀行の本業である預金を集めて、融資に回すビジネスモデルが難しくなりつつあると考えます。一部のメガバンクや地方銀行の中には、総資金利ザヤがマイナスになるところもでてきてしまっています。
ゆうちょ銀行の上場
さらに今年に日本郵政が上場する可能性が高まってきたことも、地方銀行にとっては頭の痛いところでしょう。日本郵政の上場後に日本郵政グループのゆうちょ銀行の株式上場が行われる可能性も検討されているところで、その結果として民間銀行との競争条件が整えば、現在1人当たり1,000万円となっている貯金の預入限度額の撤廃や、法人・個人への貸付業務(現在は預金担保貸付以外は認められていない)などの幅広い分野で、地方銀行にとっては強力な競争相手となってくることでしょう。
郵便局のネットワークは都市部よりも、とくに地方において強みがありますから、地方の銀行に与える影響は大きくなると思われますし、多くの地方銀行の経営者層がゆうちょ銀行の行方に注目しています。
昨年10月に、都内に本店を置く八千代銀行と東京都民銀行が経営統合して「東京TYフィナンシャルグループ」が誕生しました。人口減少の影響のほとんどない東京の地方銀行が経営統合の道を選んだのは、危機感の表れでもあると感じます。
このように将来的に経営環境が厳しくなることが予想されているため、金融庁は将来の収益力にまで踏み込んだ検査を行うようになりました。将来の収益力に疑問符がつけられた地方銀行が経営統合などの再編に動く可能性は高いと思いますが、長い目でみれば収益力のある健全な地方銀行が市場における金融機関としての役割を果たすことは、結果的に地域経済の発展につながっていくものと思われます。
-
コラム執筆者プロフィール
久保 逸郎 (クボ イツロウ) マイアドバイザー.jp®登録 - FPオフィス クライアントサイド代表
高校1年で中退し、大検を取得して大学に進学。卒業後は大手リース会社、外資系生命保険会社を経て、平成15年3月にファイナンシャルプランナーとして独立。
相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、年間100回を超えるセミナー講師や、マネー雑誌等への原稿執筆などを行っている。
ファイナンシャルプランナー 久保 逸郎
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。