金融ビッグバンで「貯蓄から投資へ」
皆さまは「金融ビッグバン」という言葉を覚えていますでしょうか?この言葉がテレビや新聞などのメディアで多く出ていた時期から、しばらく時間が空いてしまっているので、ひょっとしたらもう忘れられてしまっているかもしれません。
金融ビッグバンとは、バブル経済崩壊後の1996年11月に第2次橋本内閣が発表し、2001年度にかけて日本で行われた大規模な金融制度改革のことをいいます。
この当時の日本は、バブル経済が崩壊した爪あとが大きく残っていたため、山一證券や三洋証券、北海道拓殖銀行など大手の金融機関でも経営破綻に追い込まれるような状況でした。そこで行われたのが自由、公正、開かれた市場をめざす「金融ビッグバン」でした。
1986年に英国のサッチャー首相が行った「ビッグバン」と呼ばれる証券制度改革と区別する意味で、「日本版ビッグバン」と呼ばれることもあります。
金融ビッグバンとは何か
金融ビッグバンの基本的な考え方として下記の3つがあり、それをもとにさまざまな改革が実行されました。
金融システム改革の概要
1.明確な理念の下での広範な市場改革Free(市場原理が働く自由な市場に)、Fair(透明で信頼できる市場に)、Global(国際的で時代を先取りする市場に)の3原則に照らして必要と考えられる改革を全て実行。 2.利用者の視点に立った取組み(下記の4つの視点を網羅)(1)投資家・資金調達者の選択肢の拡大
(2)仲介者サービスの質の向上及び競争の促進
(3)利用しやすい市場の整備
(4)信頼できる公正・透明な取引の枠組み・ルールの整備
3.金融システムの安定金融機関の不良債権問題の速やかな処理を促進するとともに、我が国金融システムの安定性確保とこれに対する内外からの信頼確保に万全を期することとする。 |
資料:金融庁ホームページ「金融システム改革の概要」をもとに執筆者作成
それまでの護送船団方式といわれるような各社横並びのやり方を改めて、消費者視点に立ってメリットのある改革が行われました。
例えば今となっては当たり前になった株式売買委託手数料の自由化では、このあとインターネットによる取引を中心にするネット証券が誕生して、既存の大手証券会社も交えた株式売買委託手数料の引き下げ競争が起こったわけです。結果的に株式売買委託手数料の水準は下がり、消費者にとってメリットの大きなものになりました。
また、銀行で投資信託が購入できるようになったのも、この改革の成果です。
金融ビッグバンの狙いとは
それではなぜ金融ビッグバンが行われたかというと、その理由としては日本が迎える21世紀の高齢化社会への対応があります。この当時の日本はバブル経済が崩壊した爪あとのために金融システムに不安が残る一方で、グローバリゼーション・情報通信等の技術革新が進展していました。
さらにこの当時の欧米の金融市場ですが、米国はS&L危機(米国で1980~1990年代に起きた貯蓄金融機関の破綻が続出した事態)などを乗り切り、経済も金融・証券市場も順調に拡大していました。また、欧州では統一通貨である「ユーロ」の誕生に向けた準備が進められていました。外国為替取引や株式取引において、ニューヨーク市場・ロンドン市場の状況と比べて、東京市場の伸び悩みは顕著でした。
その一方で、日本の個人金融資産は米国に次いで世界第2位の約1,200兆円にも上っていました。この個人金融資産が有効かつ効率的に使われることは、日本の経済にとっても大きなプラスになりますし、高齢化社会への備えが必要になってきている日本国民にとっても大きなメリットがあり、また、日本が世界に相応の貢献を果たしていくためには、世界に円滑な資金供給をしていくことが必要、という考えから、2001年までに日本の金融市場を、ロンドン・ニューヨーク並みの国際金融市場として再生しようという狙いで行われたのが「金融ビッグバン」です。
金融ビッグバンで国民に求められるもの
この金融ビッグバンは裏を返せば、日本政府としては「改革を通じて資産運用の場としての金融市場環境は整えるから、世界第2位の個人金融資産を効率的に運用して高齢化社会に備えてくださいね」という国民に向けたメッセージでもあり、まさに「貯蓄から投資へ」という道筋を政府が明らかに示したものです。
金融ビッグバンが実施されてから相当の期間がすでに経過していますし、この間にリーマン・ショックやギリシャ危機など世界的な金融危機が起こる場面もありましたが、政府の「貯蓄から投資へ」という考え方は現在まで一貫して続いています。
あらためてなぜ金融ビッグバンという改革が行われたのかを考え、私たち国民に求められていることを感じ取って、皆さまに適切な行動をしていただきたいと思います。
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コラム執筆者プロフィール
久保 逸郎 (クボ イツロウ) マイアドバイザー.jp®登録 - FPオフィス クライアントサイド代表
高校1年で中退し、大検を取得して大学に進学。卒業後は大手リース会社、外資系生命保険会社を経て、平成15年3月にファイナンシャルプランナーとして独立。
相談業務を中心に実務派ファイナンシャルプランナーとして活動する傍ら、年間100回を超えるセミナー講師や、マネー雑誌等への原稿執筆などを行っている。
ファイナンシャルプランナー 久保 逸郎
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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