相続対策としての生命保険
平成27年1月1日以後の相続・贈与分から、相続税・贈与税の改正が実施されます。相続税の主な改正ポイントは「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」だった基礎控除額が、「3,000万円+600万円×法定相続人数」に減額されます。
国税庁・名古屋国税局によると、平成21年度の被相続人は126,390人、うち相続税の課税対象被相続人は7,347人、課税割合は5.8%でした。また、被相続人1人当たりの課税価格は1億9,963万円、税額1,923万円でした。
この数字をみると、相続税は富裕層の話だと思えるかもしれませんが、例えば、遺族が妻と子ども2人の場合、課税価格(相続税を計算する場合の遺産評価額)がこれまで8,000万円以下ならば非課税だったものが、4,800万円に減額され、相続税の納税対象者が増えることが予想されています。
相続手続きとその期限
葬儀、火葬、納骨、法事等の手配も必要ですが、相続が開始されるとさまざまな問題に直面します。被相続人の遺産をどのように引き継ぐかという“遺産分割”、被相続人の所得税の申告(準確定申告)手続きがあります。相続税の基礎控除額以上の遺産がある場合には、相続税の納税等の手続きも必要です。また、それぞれには期限が定められています。主なものは表にまとめていますが、これ以外に公的保険や住民票、世帯主変更手続きなどの公的なものから、個人で保有している財産や所属会員等の名義変更、抹消手続き等もあります。
主な相続手続きと期限
期限(相続開始後) | 手続き |
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遅滞なく | 遺言書の確認、家庭裁判所への検認手続き(公正証書遺言除く) |
7日以内 | 死亡届の提出(市区町村役場) |
3カ月以内 | 相続放棄、限定承認手続き(家庭裁判所) |
4カ月以内 | 準確定申告(所轄税務署) |
10カ月以内 | 相続税申告・納税手続き(被相続人の住所を管轄する税務署) |
資料:執筆者作成
これら一連の手続きは、遺族にとっては大きな負担になります。遺族の負担を少しでも軽減するためには、事前の相続対策が必要と言えます。
相続対策とは
相続対策には大きく分けて①相続財産の評価額を下げる対策、②納税対策、③分割対策の3つがあります。
相続財産の評価額を下げる対策は、相続財産を評価額の高いものから低いものに移換する、不要な財産を生前に譲渡などで処分するなど、相続財産の評価額を下げる方法を言います。
具体例として、現金を保有している場合、その現金で評価額が低い不動産やゴルフ会員権などを購入することが挙げられます。
納税対策は、相続人が相続税を納税しやすいように資産を移換する、納税資金用の相続財産を確保するなど、相続税の納税資金を確保する方法を言います。
具体例として、財産のほとんどが不動産の場合、その一部を売却して現金や換金性の高い金融商品を購入することが挙げられます。
分割対策は、財産を分割しやすい形に移換する、財産の分割方法を遺言等で指示するなどの方法を言います。
具体例として、誰にどの財産を相続させるかを遺言書にしたためることが挙げられます。いずれも相続開始後の一連の手続きをスムーズに、かつ遺族(相続人)同士がもめず、負担をかけないようにするためのものです。
生命保険を活用するメリット(当座や納税資金として)
相続対策に生命保険が活用できる例をご案内しましょう。生命保険は、被保険者が死亡した時に死亡保険金が受取人に支払われますが、これは契約者と保険会社との契約行為です。相続が開始されると、被相続人の財産は、遺族(相続人)の共有財産になります。共有財産なので財産を処分する時には、遺族全員の合意が必要になります。合意がないと、たとえ葬儀費用の支払いのためでも、被相続人の銀行口座から勝手に引き出すことはできません。相続手続きで最も時間がかかると言われているのが、この共有財産の遺産分割協議です。葬儀費用や相続税等の納税などの支払期日までに遺産分割協議がまとまれば問題ありませんが、遺産分割協議が上手くいかず、家庭裁判所に調停や審判を仰ぐケースも10,849件(平成22年)あります。遺産分割協議が調わなくても支払期日は到来しますので、その時には何とか支払いを済ませる必要があります。
しかし、被相続人を被保険者とする生命保険に加入することによって受け取った保険金は、相続財産とは別に、受取人が自由に処分することができます。自由に処分できるということは、相続対策のひとつである相続税等の納税資金の確保にも活用することができます。この場合、あらかじめどれくらいの納税資金が必要か、概算を求めておく必要があります。つまり、これは保有する財産の棚卸が必要とも言えます。
生命保険を活用するメリット
被相続人が契約者の生命保険の保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。しかし、死亡保険金の受取人が相続人の場合、「500万円×法定相続人数」までは非課税財産になります。
例えば、被相続人(被保険者)が夫、受取人が妻と子ども2人の場合、死亡保険金1,500万円(500万円×3人)までは非課税になります。また、契約者を妻などにして保険料を生前贈与することで、死亡保険金を相続財産に含めない方法もあります(その場合は、贈与する保険料は贈与税の基礎控除額の範囲内にしておくなどの対策が必要)。
まとめ
今回はご案内しませんが、財産の分割対策にも活用することができます。例えば、相続人が2人いて、唯一の財産が一戸建て住宅などの分割が困難な不動産の場合、代償分割という制度を活用して、一方の相続人が不動産を取得、その者の所有の財産から不動産取得に係る代償分を、もう一方の相続人に譲渡します。この代償分に生命保険を活用する方法です。
相続が発生すると、さまざまな手続きを期限に追われて行っていかなければなりません。しかし、既にこの世にいない被相続人はサポートすることができません。だからこそ、元気で手の打てるうちに、相続の準備をしておくことをオススメします。それが残された遺族へ最後にできることだからです。
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コラム執筆者プロフィール
松山 智彦 (マツヤマ トモヒコ) マイアドバイザー.jp®登録 - CFP®、講師業、ITコンサルタント、俳優。
1964年大阪生まれ。
証券会社・生損保のSEとして、また証券ネット取引システム立ち上げに参画。
2003年にファイナンシャルプランナーとして独立、各種資格・セミナー講師などで活躍。
また俳優ドナルド松山として、舞台、ドラマ、映画等に出演。
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コラム監修者プロフィール
山本 俊成 (ヤマモト トシナリ) マイアドバイザー.jp®登録 - ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。
2003年、外資系生命保険会社入社。
2005年、総合保険代理店株式会社ウィッシュ入社。
2010年、株式会社ファイナンシャル・マネジメント設立。
銀行と保険会社に勤めていた経験を活かし実務的なコンサルティングを行う。
ファイナンシャルプランナー 松山 智彦
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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