消費税増税の影響は?
消費税が2014年4月に、5%から8%に引き上げられました。今後10%へ引き上げられる予定です。それでは、消費税の増税は経済や暮らしにどのような影響をもたらすのでしょうか。
1.経済学の見地から
消費税が引き上げられると、税込みの価格は上がります。5%から8%へ引き上げられるとその差の3%上がると考えがちですが、事は単純には運びません。
価格は需要量と供給量が一致したところで決定すると考えますと、税込み価格が上がると需要が減ります。増税分をそのまま転嫁した場合、増税前より販売数量が減る可能性が出てきます。そうなると、増税前の販売数を確保するためには、価格を下げなければならなくなります。下げるといっても、消費税率は決まっていますので、生産者や小売業者の選択肢は税抜きの価格を下げることだけです。
図1 消費税が価格に与える影響
(縦軸=価格、横軸=販売数量)
資料:執筆者作成
ここからはグラフでの説明になります。ちょっとややこしいですが、数字を入れて考えてみましょう。
図1をご覧ください。ここでは消費税が0%から10%になった時を想定しています。消費税0%では供給曲線S1と需要曲線Dの交点A、販売数量600個、価格1,000円で需要と供給が一致しているとします。
ここで、消費税10%が新たに付加されたとします。実際に売られる価格が上がりますので供給曲線はS1からS2に、上に移動します。
販売数量を同じとして、以前の価格に消費税10%を加えた価格に対応する点はB点になります。ところが、B点の価格1,100円では需要曲線Dより、需要量は400個に減ります。例えば、「週に6回飲んでいたコーヒーを、価格が上がったので週4回に減らした」というようなことを考えていただければ良いかと思います。これでは商品は600個供給されるので、差し引き200個の売れ残りが生じてしまいます。
売れ残りが生じないためには、もちろん供給を減らせばよい訳ですが、それだけでは売れ残りが出ないという保証はありません。この他には、価格を下げるという方法もあります。
また、S2とDが交わるのはC点です。ここでの販売数量は500個、価格は1,050円です。この場合、表面上は消費税率10%の半分しか、実質上価格転嫁できていないことになります。実際には税抜きの価格を955円にして、その消費税95円を加えて税込み価格を1,050円にするわけです。そして、販売数量も600個から500個に減少しています。このC点で需要と供給が一致します。
従って、理論上では次のような結論に達します。
(1)消費税増税は税込み後の物価を上昇させるが、増税分の全額を価格に転嫁させるのは難しい。
(2)消費税増税は販売数量を減少させる効果がある、すなわち実質GDPを引き下げる効果がある。
この(1)と(2)の効果は、需要曲線と供給曲線の傾きにより変わります。もし需要曲線の傾きが緩やかであれば、それは需要の価格に対する反応度が高いということになります。わずかな価格の上昇でも需要が大きく減るような商品のことです。その時は増税分の価格転嫁の割合が小さくなる一方、販売数量は大きく減少します。その反対に、傾きが急な場合、価格が変化しても需要はそれほど変化しないような商品は、価格転嫁の割合が高く販売数量の減少も小さなものになります。
2.実際に物価とGDPは?
それでは、2014年4月の消費税引き上げ時の物価とGDPを見てみましょう。
図2 消費者物価指数変化率(前年同月比:%)
資料:総務省統計局「消費者物価指数(2014年8月29日公表)」をもとに執筆者作成
図2は、2014年3月から5月までの消費者物価指数の前年同月からの変化率を表したものです。
確かに3月に比べて4月の物価の上昇幅は大きくなっています。ただ、家庭用耐久財を除いては、その差は消費税引き上げ分の3%には届いていません。光熱・水道は料金徴収の手続き上、4月分は5%の消費税が適用されているものがありますので、その部分は5月の上昇に繰り越しています。
物価上昇の要因は、消費税以外にも電力コストの上昇や円安の影響も含まれていますので、ほとんどが消費税引き上げのためとはいいにくいのですが、3%の全額転嫁はやはり難しかったということになるのでしょう。
それでは、GDPはどのようになっているのでしょうか?
図3 実質GDP変化率(季節調整済み)
資料:内閣府「2014(平成26)年4~6月期四半期別GDP速報(2次速報値)(2014年9月8日公表)」をもとに執筆者作成
図3では、2014年4~6月期の実質GDP(2次速報値)は前期比マイナス1.8%、年率換算ではマイナス7.1%と大きな減少幅となりました。ただ1~3月に、消費増税を控えた駆け込み需要が発生し、1~3月期は実力以上に膨らんだ反動も含まれています。このように、変動が大きい時期の年率換算には極端に数字がぶれることがあり、注意が必要です。
そこで、前年同期比の4~6月期はマイナス0.05%、1年前よりもわずかながら減っています。それでも、やはり消費増税はGDPの成長にはブレーキをかける可能性が高いと考えられます。問題はそのブレーキがいつまで尾を引くかだと思います。
3.消費税増税の長期的影響
このように消費税の増税は短期的には経済成長にはマイナスです。しかし、視点を長く取って考えてみましょう。もし増税によって安定した財政がもたらされるとすると、消費者も将来の年金をあまり心配する必要が無くなり、安心して消費するようになるかもしれません。また、少子高齢化対策として政府も有効な措置を講ずる財源ができるかもしれません。
少なくとも、増税を先延ばしし、不安定な財政を継続させることは、長期的には経済成長に大きなマイナス効果を与えると思います。
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コラム執筆者プロフィール
有田 宏 (アリタ ヒロシ) マイアドバイザー.jp®登録 - 北海道金融広報アドバイザー、NPO法人北海道未来ネット専務理事、一般社団法人札幌消費者協会監事。CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
金融機関勤務を経て、現在ファイナンシャルプランナー。
専門は金融分野。
経済動向等を含めた幅広い観点から、コンサルティング、セミナー講師、執筆等を行っております。
ファイナンシャルプランナー 有田 宏
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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