国民健康保険・健康保険等の海外療養費
海外旅行を計画するときは、ワクワク感でいっぱいです。でも、旅行中にケガをしたら、病気になったらと不安になることがあるでしょう。海外で日本の健康保険証は使用できません。治療を受けたら、医療費全額を支払うことになります。しかし、帰国後に加入している医療保険制度から医療費の一部の払い戻しを受けることができます。
海外療養費とは?
海外旅行中に急な病気やケガで、やむを得ず現地で治療を受けた場合、治療費の全額を支払い、帰国後、加入している医療保険制度から「海外療養費」として支払った医療費の一部の払い戻しを受けることができます。
支給対象となるのは、日本国内で診療を受けた場合に医療保険の対象になる治療に限られます。国内で医療保険の対象とならない美容整形などは対象外です。また、最初から治療目的で海外へ渡航した場合も支給対象外となります。
国民健康保険等での自己負担割合が3割の人であれば、海外で支払った医療費の7割が還付されるかというと、そうではありません。
海外での治療費は国によってさまざまですので、海外療養費の額は日本国内の治療を基準にして決定されます。
「日本国内で治療を受けた場合を基準に計算した額」と「海外で支払った実費額」を比較して、どちらか低い額から、自己負担分を差し引いた金額が海外療養費として支給されます。
【ケース1】
海外旅行先でケガをして30万円の治療費が掛かり、実際に支払ったとしましょう。
同じ治療を日本国内で受けた場合の費用が25万円であると算出されると、25万円の3割である7.5万円を自己負担額とし、17.5万円が還付されることになります(下図:ケース1)。
【ケース2】
同じように海外旅行先でケガをして、30万円の治療費を支払い、日本国内で同じ治療を受けた場合の費用が40万円であると算出された場合は、実際に支払った30万円が基準になり、9万円が自己負担となります。海外療養費として、21万円が還付されます(下図:ケース2)。
海外療養費負担例
資料:執筆者作成
外貨で支払われた医療費については、支給決定を行う日の外国為替換算率(売りレート)により円に換算し、支給額を算出します。
手続きはどうする?
手続きは、国民健康保険の場合、市区町村の国民健康保険の窓口に、健康保険の場合は、加入している保険組合などの窓口に申請します。一般的に、申請には、療養費支給申請書、診療内容明細書(フォームA)、領収明細書(フォームB)、領収書の原本、パスポート(治療を受けた日に渡航していたことがわかる出入国のスタンプが押されたもの)などが必要です。
海外旅行に出かけるときは、万一の病気やケガに備え、診療内容明細書および領収明細書などの用紙を持っていきましょう。必要書類は、窓口で受け取ることもできますし、ホームページなどからダウンロードすることもできます。
帰国後、海外の医療機関へ書類を依頼するのは大変ですが、用紙が手元にあれば、診療時に現地の医療機関で記入してもらい、帰国後に海外療養費の支給申請ができます。
なお、これらの書類には翻訳が必要です。医療の専門用語がわからず、自分で翻訳するのが難しいこともありますが、日本語訳文を作成するための経費は申請者の負担となります(添付する翻訳には、翻訳者の氏名・住所・電話番号の記載が必要です)。
楽しい海外旅行のために
海外療養費は、審査に時間がかかり、支給されるまでに3カ月以上かかります。
また、海外で医療費の支払いをした日の翌日から数えて2年を経過すると、時効により申請ができなくなりますので、注意してください。
海外旅行の場合、民間の海外旅行保険に加入していることもあります。民間の海外旅行保険などから支給される治療費(保険金)を受け取っても、海外療養費は減額の対象とはなりません。
海外旅行中の急な病気やケガには海外療養費が支給されるとはいえ、海外での治療費は高く、結果として高額な自己負担となることもあります。楽しい海外旅行のために、海外旅行保険を検討してみるのもいいでしょう。
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コラム執筆者プロフィール
菅野 美和子 (スガノ ミワコ) マイアドバイザー.jp®登録 - 社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーとしてセミナー講師、執筆、相談業務を行っている。
年金分野を中心に活動し、著書には『年金1年生』(主婦の友社)、『ねんきん定期便がよくわかる本』『年金、もっと知りたいな』((株)BKC)等がある。メールマガジン『知っておきたい年金のはなし』も継続して配信している。
ファイナンシャルプランナー 菅野 美和子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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