藤沢 久美さんコラム - 第5回
グローバル・リーダーになるための学びとは?
世界から集まるヤング・グローバル・リーダー
前回、ダボス会議について触れましたが、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムには、ヤング・グローバル・リーダーというコミュニティがあります。私もそのメンバーの一人として2007年に選出され、世界経済フォーラムが主催する様々な会議や集まりに参加する機会を得ています。
ヤング・グローバル・リーダーとは、世界の40歳以下のリーダーたちのコミュニティで、政治家・経営者・芸術家・社会起業家・スポーツ選手・宇宙飛行士・大学教授・王族等、様々な分野のリーダーが選ばれています。2005年からスタートしたこのコミュニティには、世界各国から1000名を超えるリーダーが集まるようになりました。日本からは、現在70名弱の方がヤング・グローバル・リーダーとして選ばれています。
このヤング・グローバル・リーダーに選出されると5年間の活動期間が与えられ、それ以降は卒業生という扱いになります。私自身も昨年で卒業し、現在は卒業生として活動に参加しています。ヤング・グローバル・リーダーには、様々な活動が用意されていますが、大きな活動はリーダーシップを磨くための活動です。
今回は、そんなヤング・グローバル・リーダーに与えられる様々なリーダーシップ教育を、私の体験を通じてご紹介します。
グローバル・リーダーシップとは行動すること
ヤング・グローバル・リーダーとして、初めての会合に参加する際に配布されたのは、30年後の世界の未来を予測したデータが収録されたCDでした。経済力も人口も、ますます成長を続ける中国やインドと対照的に、未来を予測する折れ線グラフの枠から日本が消えていくのを見た時は、知っていた予測値とはいえ複雑な気持ちになりました。それと同時に、そのCDの中に収録されていた様々な世界の課題について、自分自身が真剣に考えたことがなかったことに衝撃を受けました。食料問題、エネルギー問題、人口問題、貧困問題、環境問題等、テレビや新聞を通じて知っている課題ではありますが、自分自身がその解決のために考えたり、尽力したりすることができるとは思ってもみなかったというのが、恥ずかしながらその当時の私の真実です。
そのCDで予習をして参加した、初めてのヤング・グローバル・リーダーの集まりでは、約40カ国から集まった仲間たちと、様々な世界の課題をどうしたら解決できるかを議論することになりました。議論といっても、政府等への提案といった漠然としたものではなく、自分たちで具体的に何をするかという議論でした。
貧困層の教育のために手回し発電のPCの開発プロジェクトを提案する人、途上国の子供たちを寄生虫から守るための世界組織の立ち上げを提案する人、世界で困難な出来事に直面する子供たちに、困難を乗り越えた体験を語り合う世界プロジェクトを提案する人等、様々な提案がなされ、それらがあっという間に現実のプロジェクトとして立ち上がりました。私たち日本人から提案した世界の栄養の不均衡を解決するプロジェクトも、テーブル・フォー・トゥーという名のNPOとして日本で創業し、今は世界11カ国で展開されています。
こうしてヤング・グローバル・リーダーになって、最初に学んだことは、リーダーシップとは、実際に組織やチームを統率するのではなく、社会を変えていくことなのだということでした。
グローバル・リーダーのために最も大切な体験
さて、ヤング・グローバル・リーダーの集まりでは、前述のように具体的な行動計画を立て、行動に移すことを目的としますが、そのための様々なトレーニングも用意されています。
ほとんどのトレーニングがグループに分かれて行なうものですが、グループごとに困難に直面した体験を共有し、それを元に仮想の困難な事件をグループの力で乗り越える寸劇を行なったこともあります。また、会合が開催されている現地の難民キャンプや学校、病院、企業等を訪問し、そこにある課題について話を聞いた後、解決策をみんなで議論することもあります。
さらには、各国の首相や経営者等から話を聞くという機会も与えられ、世界のリーダーから生き方や働き方をも含めて教えていただき、自分たちの糧にしていきます。
その他にも、ハーバード大学の公共政策大学院であるハーバード・ケネディスクールで2週間、リーダーシップを学ぶ講義を受ける機会の他、イエール大学やシンガポール国立大学のリークワンユー公共政策大学院等でも2、3日の研修を受ける機会が与えられます。こうした大学等での研修で、誰もが最も効果的だったと語るのが、ハーバード・ケネディスクールでの2週間の研修です。その理由は、朝食時間にあります。2週間毎日、朝食を同じグループで取り、個人的な悩み事を共有し、互いにアドバイスし合うことが課せられるのですが、これを通じて国の違いによる価値観の違いや、国が違っても人間として同じ思いや価値観を持っていることを発見し、人として互いにつながることで信頼を醸成することができます。大学等では、様々な知識やスキルを学びますが、最も大いなる学びは人間として誰とでも信頼を醸成することができるということを体験することでした。
グローバルに活躍する人材が求められる今、知識やスキルもさることながら、肌の色や育った環境が異なっていても、互いに人間として信頼し合うことができるという体験がすべての土台になるのです。実は日本国内でも、互いを信頼することは重要なことです。グローバルを意識する前に、まずは家庭で親が子供を心の底から信じることが、その一歩かもしれません。
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PROFILE
藤沢 久美(フジサワ クミ)
シンクタンク・ソフィアバンク 代表
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。2003年社会起業家フォーラム設立、副代表。2007年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼務。NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通じて、これまでに1000社を超える全国の元気な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種メディアや講演を通じて発信している。
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