藤沢 久美さんコラム - 第2回
国が英語教育に力を入れる理由は?
サウジアラビアという国を知っていますか?
サウジアラビアという国をご存知でしょうか?日本が最も多くの石油を輸入している国なのですが、遠くにある中東の国であまり馴染みがないという方も多いと思います。サウジアラビアは、中東の中でも最も敬虔なイスラム教国で、国のホームページを見ると、憲法がイスラム教の聖典である「コーラン」と書かれています。実際にサウジアラビアに行ってみると、国民すべてが民族衣装を着ています。男性は白で女性は黒。男性も女性も頭にベールをかぶっています。世界各国が欧米化していく中、自国の宗教と文化、そして価値観を守り続けていることがその姿からも見て取れます。
このように外からみると、昔ながらの風習を続けている古い価値観の国に見えますが、実は教育の分野では先進的な取り組みを積極的に行なっています。
サウジアラビアが抱く国の未来への不安とは?
サウジアラビアは、石油生産世界一でその輸出によって、国の財政は豊かなのですが、将来に対しては大きな危機感を持っています。理由は、人口が急激に増えているからです。人口の増加に伴い、国内で使う石油の量が急激に増えており、将来的には輸出する量よりも国内で使う量の方が多くなってしまう可能性が出てきたのです。そうすると、石油を輸出してお金を稼ぐことが難しくなりますから、石油以外で稼ぐ方法を考えなくてはなりません。その方法の一つが、新しい産業の育成です。
さらに、人口の増加は石油の問題だけではなく、雇用の問題にもつながります。これまでサウジアラビアでは、働いている人の9割が公務員など国が経営する組織で働いておりましたが、人口が増えすぎて就職希望者すべてを採用することが難しくなり、外国の企業にサウジアラビアに来てもらって雇用の機会を作ってもらったり、サウジアラビアにいる人自身が起業するような動きを後押しする必要が出てきました。
国の未来を救うためにサウジアラビアがやったことは?
新しい産業を生み出したり、外国企業に雇用機会を生み出してもらったり、起業を促進するために最も必要なことは何でしょうか?それは教育です。そこで、サウジアラビア政府は国の計画を作り、国の財政の25%を教育のために使うと決めました。日本の2013年度の国家予算に占める文教予算は約4.3%ですから、25%というのがどれほど大きな割合かは実感できるかと思います。こうして大規模な予算を教育に振り向けて主に取り組んでいるのが、学生の海外留学支援と女性の教育機会の増大です。
3年で4万7千人の国費留学生を支援!
まずは留学支援ですが、2010年から派遣が始まったアブドラ国王留学プログラム(King Abdullah Scholarship Program)によって、留学した男女学生は、現在47,000人に上っています。グローバル企業にサウジアラビアへ進出してもらい雇用機会を生んでもらうには、サウジアラビアの人々がグローバルな意識や知識を持っていることが不可欠です。企業がどの国に進出し、子会社を作るかという時のポイントの一つは、その国でビジネスができるかということが最大要件ですが、もう一つは、その国に優秀な人材がいるかという点も大きな要件となるからです。
大学で英語を話せるようにする仕組み
留学支援をするためには、まず英語教育が必要となりますが、サウジアラビアの国立大学や私立大学などを訪問すると、先生も生徒も英語を話せる人ばかりで驚きます。国立大学や私立大学と書くと、「それは優秀な人が行く学校だから当然だ」と思われる方もいるかもしれませんが、日本のトップ大学である東京大学や京都大学などに訪問しても、残念ながら英語を話せる先生や生徒を探すのは簡単ではありません。しかし、サウジアラビアのこうした大学では、とりあえず誰に英語で話しかけても、きちんとした応えが返ってきます。
どのように英語教育をしているのかをある大学で聞いてみたところ、入学時点では英語力をあまり大きく要求せず、その他も含め試験によって全般的な学力を審査して合否を決定し、英語ができる学生はすぐに1年生として講義が始まり、英語力が不足している人は1年間英語の訓練をしてから、1年生としての大学生活をスタートさせる仕組みになっているのだそうです。
なぜ英語を必須とするのか?と問えば、英語を理解することができれば、世界のトップクラスといわれる人たちから直接講義を受けることができるからだと学長の方がおっしゃっておりました。その証拠に、その大学では世界のノーベル賞受賞者や著名人たちが、次々に講義にやって来て、学生たちは通訳を介することなく質疑をし、知識や知恵を吸収していました。
英語教育をしながら自国の文化を守る小学校の教育
こうした英語教育は大学だけではありません。私立の小学校でも英語教育に力を入れているところがあります。私が訪問した際にもそこに通う小学生たちは将来の夢や学校について、私の質問に対して流暢な英語で答えてくれました。しかし、小学生から英語教育をすることには、自国の文化を損なう懸念を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。サウジアラビアの教育機関でもそのことは十分に理解されているようで、私が訪問したリヤドスクールの先生によると、学校教育では必ず授業の30%は、アラビア語の授業とイスラム教の授業を行うことが義務づけられているとのことでした。しっかりと国の価値観や国の言語を身につけて、その上に英語などの能力を身に付けていくということを徹底しているのです。
今回は、サウジアラビアの留学支援のお話だけになってしまいましたので、女性の教育機会の増大については、次回ご紹介したいと思います。
バックナンバー
PROFILE
藤沢 久美(フジサワ クミ)
シンクタンク・ソフィアバンク 代表
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。2003年社会起業家フォーラム設立、副代表。2007年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼務。NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通じて、これまでに1000社を超える全国の元気な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種メディアや講演を通じて発信している。
- ※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
- ※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。