藤沢 久美さんコラム - 第4回
オンライン学習で変わる世界の教育
世界で議論される未来の教育
毎年1月にスイスで、世界の首脳やトップ約1000社の企業経営者が集まって、その1年間の世界のあり方を議論するダボス会議が開催されています。議論されるテーマは様々ですが、近年「教育」をテーマにする議論が、盛り上がっているような気がしています。こうした世界の人々が集まって教育について議論する場合、そこには大きく3つのテーマがあります。ひとつは「途上国や新興国における教育」、もうひとつは「女性への教育」、そして「21世紀の未来の教育」です。
今回のコラムでは、その中でも未来の教育について触れたいと思います。ダボス会議で議論されている未来の教育のあり方は、大勢が集まって1人の先生から授業を受けるという20世紀型スタイルが、間もなく主流でなくなることを前提として議論されています。学校の教室で、紙の教科書を見ながら先生の話を聞く教育のあり方は、だんだんと時代に合わなくなり、個別学習が中心になると予測されています。もちろん大勢で集まって学ぶ機会はなくなりませんが、映像などのデジタル機器によるコンテンツの活用や生徒自身が行動しながら学ぶスタイルへと変わるだろうと予測されています。
こうした予測の背景は、IT技術が進んだからという理由だけではありません。企業が世界各地にオフィスを構えるグローバル化へと発展していくなか、求める人材が変わってきたからです。言われたことをきちんとこなすだけの人材ではなく、育った環境とは異なる環境に身を置き、異なる価値観を持つ人たちと関係をつくりながら、その地域に必要な事業を創り上げていくクリエイティブな能力を持った人材を求めるようになったからです。つまり、企業経営者からも従来の教育スタイルでは、こうした人材を育成するのは難しいという議論が高まっているのです。
世界のトップ大学が動き出した
企業の人材ニーズによって学校教育が変わっていくことに、違和感を感じる方がおられるかもしれませんが、これは現実です。国内外の大学関係者は、常に卒業生の就職先を気にしています。なぜなら、その就職先しだいでその大学の人気ランキングが変動するからです。優良企業へ就職する学生が多い大学は受験生も多くなりますから、結果として、大学は優良企業が求める人材を育てるためのカリキュラムを導入することになりがちです。
これは、保護者の方々も同じではないでしょうか。どの大学に子供を入学させれば、将来良い就職先に恵まれるかを考えておられると思います。
では、世界のトップ企業が採用したい人材が、21世紀に入り顕著に変化してきた今、世界のトップ大学はどんな取り組みを始めているのでしょうか?
既にご存知の方も多いかもしれませんが2012年に米国では、相次いでトップ大学が「edX(エドエックス)」「Coursera(コーセラ)」「Udacity(ユーダシティ)」という大規模なオンライン講座の提供サービスに参加し始めています。これらのサービスは、誰もが世界中から無料で講座を受けることができ、コースを終了すると履修証明書が発行される仕組みになっています。
コーセラやエドエックスなどのサービスが生まれる前から各国の大学は、授業をオンラインで公開していましたが、履修証明書が発行されるようになったのは、これまでにない画期的な変化と言えます。
米国のハーバード大学とMIT(マサチューセッツ工科大学)が参加しているサービス、エドエックスについて、日本では京都大学が今年の5月に参加することを発表し、2014年から「生命の化学」という講義を公開する予定です。
スタンフォード大学が中心となって立ち上げたサービス、コーセラについては、今年2月現在で参加を表明している大学を含めて62校が参加、200以上のコースをオンラインで無料配信しています。日本では、東京大学がこのサービスに参加し、今年の9月から「戦争と平和の条件」「ビッグバンからダークエネルギーまで」の2つの講座が配信される予定です。
15歳で、膵臓癌の早期発見方法を開発した少年
実は、世界のトップ大学が講義をオンラインで公開する前から、大学の研究論文や企業による最新情報は、インターネット上に公開されていました。こうした公開された論文もまた、誰でも入手し読むことができます。その結果、大学に行かなくても、その気にさえなれば誰もが最先端の知識に触れ、学ぶことができる時代が既にやってきていたのです。
今年2月にアメリカのTEDカンファレンスで、私が出会った高校生の少年は13歳の時、親しくしていたおじさんを膵臓癌で亡くしたことをきっかけに、膵臓癌を早く見つける検査方法を開発したいと思い立ち、インターネットなどを通じて、世界の研究論文などを参考に自ら研究し、15歳で膵臓癌の検査薬の開発に成功しました。その研究成果は現在、大手医薬品メーカーに採用され、現実の検査薬として世に出る準備が進んでいます。
こうした少年、少女は既に世界各地で生まれてきています。ネットで趣味の情報を集めるように興味を持った分野について調べ、考えることによって、年齢に関係なく社会を変える研究成果を上げる子供たちが生まれてきているのです。
最後にここで気づかなくてはいけないのは、こうした子供たちのほとんどが、英語を理解できるということです。英語をなぜ学ばなくてはいけないのか? それは、就職や入試のためではなく、世界の最先端の知に触れ、自らを磨くための最良の道具であるからなのです。
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PROFILE
藤沢 久美(フジサワ クミ)
シンクタンク・ソフィアバンク 代表
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。2003年社会起業家フォーラム設立、副代表。2007年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼務。NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通じて、これまでに1000社を超える全国の元気な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種メディアや講演を通じて発信している。
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