藤沢 久美さんコラム - 第3回
活躍のチャンスがあるから勉強する?
結婚式・披露宴も男女別々!
前回のコラムでご紹介したとおり、サウジアラビアは中東の中でも最も厳しいイスラム教国です。イスラム教では、公の場所で男女が一緒にいることは禁じられています。そのため、結婚式・披露宴も男女別々です。男性のお客様は花婿をお祝いし、女性のお客様は別室で花嫁をお祝いします。結婚式ですら男女別々の環境ですから、当然、職場も男女別々で、学校でも一つの教室で男女が一緒に授業を受けることはできませんし、男性の先生が女子学生のいる教室で授業を行うこともできません。こうしたことからも、サウジアラビアでは女性の教育機会は男性に比べて低い状況が続いていました。
しかし、そんなサウジアラビアがこのところ急速に変化しているのです。女性たちの進学率が年々増え、知識を得た女性たちが働く機会も増えています。
女性に社会の扉が開かれたからこそ学びたい
昨年、私はサウジアラビアの女子大学を3校訪問したのですが、そのどの大学でも驚いたのは、日本の女子大で感じる「勉強はするけれど、いずれは家庭に入る女子たちの学び舎」という雰囲気をみじんも感じられないことでした。ある大学では女子大生たちに人気の学科が、電気工学やコンピューターサイエンス、建築などの理系分野であり、女子大生たちは明確に自分が将来就きたい職業のイメージを持っていて、そのプロフェッショナルになる勉強のために大学に来ていました。
そんな女子大生たちに、「なぜそんなに働きたいの?」と質問をしてみました。彼女たちの答えは、「今サウジアラビアでは、女性が社会で働くという新たなチャンスの扉が開かれたのです。この開かれた扉から飛び出さない理由はありません」というものでした。
女性は家庭にいる存在であった、サウジアラビアの常識が変わり始めたのです。女性も働くことができる、社会で役割を担うことができる、そんな大きな変化は若い女性たちにとって大きな希望なのです。
男女別々の職場だからこそ女性が育つ?
ここで少し脱線して、サウジアラビアの仕事環境のお話をしておきたいと思います。先にご紹介したように、サウジアラビアでは職場も男女別々です。実は、この環境はいい面もあります。なぜなら、職場の中に男性のサポートをするという意識を持った女性が一人もいないからです。職場にいるのは全員が女性ですから、性別の違いを意識することは全くないのです。つまり、サウジアラビアの働く女性たちは、最初から女性だけの職場や女性だけの会社に身をおいているため、男性に対する職業的な甘えを一切持つことなくその文化を創ってきているのです。ですから今、高等教育を受けた女性たちも、大企業で一般職になるというイメージではなく、自分の知識と知恵で活躍するというのが当たり前という気持ちで勉強しているのです。
責任ある仕事をするという覚悟があるからこそ、女子大生たちの学びに対する真剣さはより高くなるのだということをつくづく感じました。
女性が家庭も仕事も得られる環境
また、サウジアラビアの女子大学でさらに驚いたことは、子育て中の女子大生の存在です。サウジアラビアの女性たちは、今でも親が決めた相手と結婚するケースもあり、大学在学中に結婚し出産する女性もいます。しかし、それが決してハンディになるわけではありません。そもそも、サウジアラビアでは女性は家にいる習慣があっても、家事全般はハウスキーパーを雇うのが一般的ですから、子供が生まれたからといって、学業をやめるという選択にはならないのです。日本では、女性が抑圧された国というイメージがあるサウジアラビアですが、今の現実は全く逆で、女性たちが学び働くというチャンスをつかむための環境が整った国なのです。
誰もが働くための教育システム
では、すべての女性たちが今までご紹介したような大学に進学しているのかといえば、そうではありません。家計の問題など様々な理由で進学をしない女性たちのためには、国営や私営の職業訓練学校があります。多くの訓練学校で教えているのが、デザインや縫製などの服飾関係やメイク、ヘアケア、エステなどの美容関連、アシスタント業務や経理業務などのオフィス事務です。日本でいえば専門学校といったところでしょうか。
最近では職業訓練だけではなく、起業の仕方を教え、資金援助も含めた起業支援をする学校も出てきています。
女性の雇用機会増大が、教育機会増大の鍵
サウジアラビアの女性たちは、今希望にあふれています。日本の国会議員に当たる諮問評議会の評議員は、昨年まで全員が男性でしたが、今年から160人中30人が女性評議員となりましたし、女性弁護士も今年初めて誕生しました。女性の雇用機会を増やすことが、実は女性の教育に対する意識を大きく変えていくということをサウジアラビアで実感しました。 高い教育の機会が与えられていても、活躍する場がなければその教育への投資は残念ながら社会へ還元されません。女性の教育の機会と女性の社会進出の機会は、一つの問題です。そして、これは言い換えれば男性も同じです。これから企業がどのような人材を求めるのかによって、子供たちが受けるべき教育も変わってきます。
では、日本の企業はどんな人材を求めているのでしょうか? お子様をお持ちのお母様は、企業の変化や社会の変化、そして世界の変化に目を配り、子供たちに与えるべき教育機会を選択していくこともまた、とても大切な役割なのではないでしょうか。
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PROFILE
藤沢 久美(フジサワ クミ)
シンクタンク・ソフィアバンク 代表
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。2003年社会起業家フォーラム設立、副代表。2007年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼務。NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通じて、これまでに1000社を超える全国の元気な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種メディアや講演を通じて発信している。
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