甲状腺乳頭がんの治療とお金
甲状腺がんを含めた甲状腺の病気は、男性より女性に多くみられます。
また甲状腺がんは、発症数を部位別に大腸(結腸および直腸)がん、前立腺がん、乳がん、胃がんと比較すると、男女ともに少ない傾向にあります。
甲状腺がんにもいくつか種類がありますが、そのなかで最も多く、甲状腺がんの約9割を占めているのが「甲状腺乳頭がん」です。
胃がんや大腸がんとくらべると日頃あまり耳にすることがない甲状腺乳頭がんですが、罹患した場合、「どんな治療をするのか」、また「お金はどのくらいかかるのか」をみていきましょう。
甲状腺乳頭がんとは?
多くの甲状腺がんは、自覚症状はほとんどなく、健康診断などで発見されることがあります。
甲状腺乳頭がんの進行は極めてゆっくりで、リンパ節への転移がみられるものの治療後の経過はよいとされています。患者は比較的若い40歳代~50歳代の女性が多いです。
がんと診断されてからの5年相対生存率は、甲状腺がん全体で女性94.9%・男性89.5%、10年相対生存率は女性94.8%・男性87.1%と高い生存率になっています(※)。
甲状腺がんの約9割を占める甲状腺乳頭がんも同様の傾向と考えてよいでしょう。生命にかかわることはまれですが、一部の甲状腺乳頭がんでは悪性度(広がりやすさ、増えやすさ)の高いがんに種類が変わることがあり、高齢で発症するほどその確率は高くなりやすいといわれています。
※5年相対生存率は「全国がん罹患モニタリング集計 2006~2008年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター,2016)」10年相対生存率は「Long-term survival and conditional survival of cancer patients in Japan using population-based cancer registry data. Ito Y, Miyashiro I, Ito H, Hosono S, Chihara D, Nakata-Yamada K, Nakayama M, Matsuzaka M, Hattori M, Sugiyama H, Oze I, Tanaka R, Nomura E, Nishino Y, Matsuda T, Ioka A, Tsukuma H, Nakayama T; the J-CANSIS Research Group. Cancer Science 2014; 105: 1480-6.」から引用。
治療前に必要な検査で病期を確定
甲状腺がんの診察は問診と視診・触診です。触診などの診察だけでは腫瘍が良性か悪性か判断できないことが多いため、超音波やCTなどの画像検査や細胞を採取する病理検査などが行われます。
また、甲状腺がんはがんの種類、進行の程度により治療法が異なるため、組織型や病期(ステージ)を正確に把握することが重要となります。病期を詳しく知ることでこれからの治療の目安が大まかに予測できるので、診断や治療法について十分に納得した上で、治療を進めましょう。
どんな治療をするのか?
基本の治療は手術でがん病巣の切除を行います。がんの広がり具合などによって甲状腺の切除範囲を一部か全部かに決め、周りのリンパ節の切除も行います。あわせてがん細胞が増えるのを抑える放射線治療の内照射を行うことがあります。入院日数は厚生労働省の「平成26年患者調査」によると、甲状腺がん全体で平均16.5日です。
その他、状況に応じてホルモン療法や化学療法を行うことがあります。
治療が終わった後は、定期的に体調の変化や再発がないか確認するため通院します。再発の可能性は10年あるいは20年と長期にわたるので、長期的な経過観察が必要となります。一般的には手術後1年間~2年間は1カ月~3カ月ごとに、手術後3年までは半年ごとの通院となります。
治療費はどのくらい?
治療にかかる費用の内容は表1のとおりです。
表1 治療にかかる主な費用
治療にかかる費用(保険診療) | 手術代・検査代・薬代・通院治療代など |
治療費以外の費用(保険診療外) | 入院中の食事代・個室など有料の部屋を希望した場合にかかる差額ベッド代・入院時の日用品代・本人や家族の通院交通費・お見舞いのお返し代など |
資料:執筆者作成
甲状腺がんの手術にともなう入院費用については、概算で20万円~30万円程度としている病院があります(高額療養費制度適用前)。
治療にかかる費用(保険診療)の支払いについては「高額療養費制度」があります。高額療養費制度は医療費の自己負担額が重くならないようひと月の上限額を超えた分の医療費が支給される制度であり、毎月の上限額は年齢と所得に応じて決められています。
表2 高額療養費制度・69歳以下の方の上限額(平成29年8月から平成30年7月診療分まで)
年収の適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | 多数回該当の場合※ |
---|---|---|
年収約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
年収約770万~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370万~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
~年収約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
※過去12カ月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がります。
資料:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」をもとに執筆者作成
甲状腺乳頭がんの治療では、手術や検査・薬などの費用は高額療養費制度の対象となると考えられます。表2とご自身の年収から、万一罹患した場合に必要となる金額の目安をつけましょう。その他保険診療ではまかなうことができない費用も含めて、「貯蓄で準備する」あるいは「がん保険に加入する」など、家計全体のバランスを考えて対策を準備しておくことをおすすめします。
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コラム執筆者プロフィール
加藤 葉子 (カトウ ヨウコ) - 女性とシングルマザーのお金の専門家
- 離婚を機にお金の勉強を始め、3年間で子どもの教育費を貯める。自身のブログ「女性とシングルマザーのお金の話」に全国の女性から切実なお金の相談が寄せられ、NHKのWEBコラム執筆を機に独立。3年間で1,500件以上の相談を受けている。現在は、女性ファイナンシャルプランナーのための実務講座やオンライン講座を配信中。
マイライフエフピー代表
ファイナンシャルプランナー 加藤 葉子
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
掲載日:2020年2月14日
甲状腺乳頭がんの手術後
甲状腺乳頭がんの手術治療後は、合併症を抑制する甲状腺ホルモン薬の投与と、がん再発リスクを抑えるために放射線治療が行われる場合があります。
術後の合併症は、甲状腺の切除範囲が大きいほど発症の恐れがあり、甲状腺機能の低下による疲労感や食欲不振、反回神経(声帯を動かしている神経)の麻痺による声のかすれなどの症状が出るようです。
そのため、全摘術・亜全摘術(約2/3以上の甲状腺を切除)などを行った場合は、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬を投与し、甲状腺ホルモンを補うことがあります。
術後に行う放射線治療は、がん再発リスクを抑えるために、手術で取りきれなかった腫瘍組織を除去するために行います。
内照射(放射性ヨード内用療法)による治療と、外照射による治療があります。
どちらも副作用があり、内照射は炎症により食事中に痛む、口が乾くなどの症状が、外照射は口内炎、咽頭炎、吐き気などの症状が起こることがあります。
甲状腺乳頭がんの再発の可能性について
甲状腺がんの多くは甲状腺乳頭がんであることから、甲状腺乳頭がん治療後の再発の可能性として、全国がんセンター協議会公表の院内がん登録により算出された、「甲状腺がんの病期別5年相対生存率・10年相対生存率」を参考にみてみましょう。
表3 甲状腺がんの病期別5年相対生存率(2008年から2010年診断症例)
症例数 | 相対生存率(%) | |
---|---|---|
I 期 | 951 | 100.0 |
II期 | 234 | 98.7 |
III期 | 253 | 100.0 |
IV期 | 643 | 74.2 |
手術症例 | 2,007 | 96.3 |
全症例(※) | 2,256 | 92.8 |
※病期不明の症例を含む
資料:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」をもとに作成
表4 甲状腺がんの病期別10年相対生存率(2002年から2005年診断症例)
症例数 | 相対生存率(%) | |
---|---|---|
I 期 | 305 | 99.3 |
II期 | 174 | 100.0 |
III期 | 191 | 93.6 |
IV期 | 309 | 54.4 |
手術症例 | 965 | 88.0 |
全症例(※) | 1,056 | 84.3 |
※病期不明の症例を含む
資料:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」をもとに作成
生存率データは、5年相対生存率(2008年から2010年)がおよそ10年前、10年相対生存率(2002年から2005年)がおよそ15年前の診断・治療に基づいています。
現在の甲状腺乳頭がんの生存率は、医療の進歩によって、表の数値よりも向上していると考えられます。
ステージが進むにつれて生存率が下がるため、再発の可能性が考えられるでしょう。
医師や病院の指示・アドバイスに従い適切な治療・検査・療養を行ってください。
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