ワーホリ保険
2018.08.28
海外の医療保険事情~アメリカ編~
貧血で220万円!?補償額の上限に注意!
医療費が非常に高額となることでよく知られているアメリカですが、いったいどのくらい高額なのでしょうか。また、アメリカの公的医療保険は、65歳以上の高齢者や障害者、低所得者のみを対象とするものであり、現役世代は民間の医療保険にて備えるのが一般的です。高額な医療費がかかり、現地の公的医療保険への加入が難しいアメリカに長期滞在する際、どのように備えればよいのかをお伝えします。
初診料で150ドル以上!? アメリカの医療費事情
アメリカの医療費は非常に高額です。外務省ホームページによると、特にニューヨーク市マンハッタン区の医療費は同区外の2倍から3倍といわれているとのことで、以下の事例が紹介されています。
※以下、()内は1ドル110円とした場合の日本円に換算した金額
- 一般の初診料:150ドル~300ドル(16,500円~33,000円)
- 専門医の初診料:200ドル~500ドル(22,000円~55,000円)
- 入院: 数千ドル(数十万円)/1日当たりの室料
また実際の事例として、急性虫垂炎で入院し手術後腹膜炎を併発し8日間入院したケースで7万ドル(770万円)、上腕骨骨折による1日入院・手術で1万5千ドル(165万円)、貧血による入院(2日入院、保存療法施行)で2万ドル(220万円)、自然気胸の治療方法であるドレナージ処置で手術はなく6日間入院した場合で8万ドル(880万円)という高額請求例があげられています。
同じく外務省ホームページによると、ハワイ州のホノルルでは救急車が有料と記されています。救急車内の処置レベルによって料金に差がありますが、2014年には移送だけで375ドル(41,250円)、高度の救急処置が必要な場合には450ドル(49,500円)と高額です。
上記のように、アメリカの医療費は世界的にも非常に高額であり、4,000万人以上といわれる無保険者と、医療費の負担による破産が社会問題となっていました。そこでオバマ政権時代の2010年3月に、全国民に医療保険加入を義務付けることなどが盛り込まれた「オバマケア(医療保険制度改革法)」が制定され、2014年1月に適用が始まりました。オバマケアにより無保険者が少し減るなど一定の効果を生みましたが、現トランプ政権は、保険金支払増加による保険料高騰などデメリットを指摘し、オバマケアを廃止する動きがあります(現時点では廃止には至っていません)。アメリカに長期滞在する可能性がある人は、現地の医療保険制度の動向について目が離せません。
アメリカに滞在する際、医療費への備えがいかに重要か、上記事例からおわかりいただけるかと思います。いったいどう備えればよいでしょう。
高額医療費に備える方法は大きく2つ
アメリカに滞在する際、高額医療費へ備える手段は主に2つ。1つは現地の民間医療保険に加入する(勤めている会社が団体加入するケースもある)、そしてもう1つは、日本にて海外旅行保険や留学保険、ワーキング・ホリデー保険、海外駐在保険等に加入してから渡航することです。ここでは、日本の医療保険と少し仕組みが異なるアメリカの民間医療保険について、ポイントを2つお伝えします。
ポイント1:医療保険プランは主にHMOとPPOとPOSの3つ
アメリカの主な医療保険プランには、HMO、PPO、POSという3つのタイプがあり、これらのタイプから選んで加入します(勤務先の団体加入の場合は選べないこともある)。3つのタイプのちがいは以下のとおりです。
表1:アメリカの医療保険タイプのちがい
※スクロールで表がスライドします。
資料:執筆者作成
HMOの特徴は、まずかかりつけ医を決め、別の科などの専門医にかかりたい場合でも、必ずかかりつけ医を通さなければならないことです。一方PPOは、ネットワーク外の医療機関も選ぶことができますが、一般的にHMOに比べると自己負担額が高くなります。POSはHMOのオプション的な位置付けで自由度が高められたものであり、ネットワーク外の医療サービスを利用する場合にはかかりつけ医からの紹介が必要な場合がありますが、ネットワーク外の医療機関も選べるプランです(自己負担額は高くなる)。
ポイント2:保険会社が契約している医療機関で受診しないと保障されない
アメリカの医療保険は、どの医療機関で受診しても保障されるわけではありません。表1のようにどのタイプでも、ネットワーク内にある医療機関でないと全く保障されないか、または自己負担額が高くなります。保険会社のホームページ等に、受診できる医療機関を検索できるサービスが用意されていることもあります。
このように、アメリカの民間医療保険にて備える場合には、タイプによって自由に医療機関を選べないことや、選べるタイプでも自己負担額が高くなることがあるなどのちがいがあるため、支払う保険料と受けられるサービスのバランスをよく調べる必要があります。
救援費用が付いている保険を選びましょう
滞在期間が5年以内の留学やワーキング・ホリデーなどの場合は、長期補償が可能な海外旅行保険やワーキング・ホリデー保険で備えることが可能です。アメリカの民間医療保険との大きなちがいは、治療費用に対する補償の大きさです。アメリカの民間医療保険ではどのタイプで加入しても、一定の自己負担額は生じてしまいますが、海外旅行保険等であれば、数千万円から無制限まで備えられるので、医療費が高額となる可能性が高いアメリカで特に必要となる補償が大きくて安心です。
また、アメリカで病気やケガをした場合に、日本から家族が救援に駆けつけることや、医療搬送されるケースもあり、その場合も非常に高額となります。こうした救援費用についても補償されるのが海外旅行保険や留学、ワーキング・ホリデー保険です。アメリカでの病気や事故により、海外旅行保険等から治療・救援費用が支払われた保険金額の事例をみてみましょう。
表2:アメリカにおける治療費用・救援者費用が発生した事例(保険金支払事例)
事故状況 | 支払保険金額 |
---|---|
空港内で意識を失い救急車で搬送。感染性心内膜炎と診断され15日間入院。家族が駆けつける。医師・看護師が付き添い医療搬送。 | 2,295万円 |
出発便の機内で体調不良となり、現地到着後、労作性呼吸困難と診断され3日以上続けて入院することとなったため、日本から家族が救援者として現地へ駆けつけた。 | 約1,130万円 |
急性心筋梗塞のため現地で緊急入院。同行していた家族が付き添い、日本からも家族が現地へ駆けつけた。退院後、現地で10日間療養後帰国。 | 約1,160万円 |
ホテルに戻る途中の路肩で足を滑らせ転倒し救急車で搬送。足関節果部骨折と診断され3日間入院・手術。家族が駆けつける。 | 487万円 |
体のだるさを訴え受診。くも膜下出血と診断され19日間入院・手術。家族が駆けつける。 | 2,528万円 |
資料:エイチ・エス損害保険およびジェイアイ傷害火災保険ホームページをもとに執筆者作成
前述のように、家族の救援や医療搬送がなくても数百万円の治療費がかかることがありますが、表2にあるように、家族が駆けつける場合には交通費や宿泊費などの救援費用も加わり、より費用がかさむことがわかります。こうした可能性がある場合には、現地の民間医療保険よりも海外旅行保険等で治療費用と救援費用をしっかり備えておく方が安心ですね。また、治療や救援費用の補償額はあまり少ないと高額な医療費等をまかなえません。保険会社によってはケガ・病気などの際の治療・救援費用の支払限度額を無制限で契約することが可能ですので、よく調べて検討しましょう。
アメリカの高額な医療費事情と複雑な医療保険制度、日本で加入する海外旅行保険等とのちがいを知り、選べる場合であれば、ご自身の不安なことは何か、また、支払う保険料と受けられるサービスとのバランスなどを考慮して、より自分に合う方法を選びたいですね。
- 監修者 柳澤 美由紀 やなぎさわ みゆき
- CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 関西大学社会学部卒。大学時代に心理学を学び、リクルートグループに入社。求人広告制作業務に携わった後、1997年ファイナンシャルプランナー(FP)に転身する。
相談件数は800件以上。家計の見直し、保険相談、資産づくり(お金を増やす仕組みづくり)が得意で、ライフプランシミュレーションや実行支援も行っている。
家計アイデア工房 代表
- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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