通話
無料

電話

お急ぎの方は、まずお電話ください。

0120-816-316

9:00~21:00(年末年始を除く)

キャンペーン実施中

加速するデジタル化の光と闇

堤 未果さんコラム - 第1回

デジタル庁に不可欠なたった2つのものとは?

今、デジタルテクノロジーが猛スピードで人間の文明を変化させています。日本政府も、社会全体のデジタル化を急いでいますが、新しい技術は便利な反面、特に行政の導入は影響が大きいのでデメリットの方も注意しなければなりません。そこを無視して拙速に進めてしまうと、国の安全保障が脅かされたり、私たちの暮らしに悪い影響が出てしまうからです。日本にはデジタル化の良い面についての情報が溢れているので、リスク面についても理解を広げるべく、各国の取材をベースに『デジタル・ファシズム』という本にまとめました。このコラムではそんな海外の事例も紹介しながら、日本がデジタル化によって良き未来を作る際の、重要ポイントをお伝えします。

セキュリティと公共性が求められる行政のデジタル化

日本では2021年9月にデジタル庁が発足され、国全体のデジタル化を推進しています。

他国の事例を取材しながら非常に印象的だったのは、「行政のデジタル化の成功を左右するのは、テクノロジーを使うことによってどんな社会を目指すのか」というビジョンだということです。デジタル化はあくまでも手段であり、設計する側の描くその先のイメージには、社会の価値観が反映されるからです。

日本はそのビジョンや方向性が明確に見えません。いまだに役所などでよく使われているFAXや印鑑が「時代遅れ」だ「ガラパゴスだ」などと言われますが、「日本は遅れている。早く世界に追いつかなくては」と、焦ってデジタル化を進めている印象があります。

行政がデジタル化を推進する上で、最も気をつけなくてはならないのがセキュリティの問題でしょう。世界は今、「21世紀の石油」と言われる「個人データ」の争奪戦を繰り広げ、サイバー攻撃マップを見ると、毎日どこかが攻撃されているのがわかります。

国や行政システムはセキュリティが生命線、どこの国でも政府と国会議員には「デジタル安全保障」に対する危機意識がなければなりません。

便利でスピードが速くても、国や国民の大事なデータを守れなければ本末転倒だからです。

また、デジタルに関する技術は民間企業の方が進んでいますから、ここの舵取りも慎重さが求められます。アメリカでは人材の7割が事業者側、3割がITベンダー側ですが、政府にIT専門家がいないなど人材不足が深刻な日本は7割がITベンダー側のため、丸投げになってしまう。過去に、官公庁が外注した下請けを通して外国に個人情報が流出した事件も起きています。21世紀の戦争が仮想空間で起きている事実を重く捉え、政府はデータが外国に流れるルートを徹底して塞ぐ措置をとりながら、その間国内の人材育成にしっかり予算を投じなければなりません。「スパイ防止法」など、司法の整備も不可欠でしょう。

もう一つ、行政のデジタル化で忘れてはならないことは、これが「公共サービス」であるということです。民間のビジネスであれば利便性とスピードを最優先し、顧客に快適なサービスを届けながら利益最大化に注力すればいいでしょう。しかし公共サービスは本来の目的が違います。不平等や不正を防ぎ、全ての国民にサービスが平等に行き渡るようにしなければなりません。ライフラインのインフラであれ、教育や福祉であれ、時には採算が取れなくても事業を進めなくてはいけないタイミングもあるでしょう。

「公共の精神」を後回しにすると、どんな事態が起こるでしょう?

アメリカでは、福祉サービスを効率や生産性重視のビジネス的発想でデジタル化した結果、本来必要な人が切り捨てられ、届くべきサービスを受けられなくなってしまいました。

デジタルを行政サービスの中核に置くのではなく、あくまでも「公共利益の最大化」の補完的手段である、という認識を持つことが大事です。

日本はデジタル先進国の失敗から学ぶチャンスがある

一方、行政の公共性を大事にしながらデジタル化を上手く進めているのが台湾です。台湾は、コロナ禍でITが得意な市民の協力でオンライン上に作成した「全国マスク在庫マップ」の成功など、デジタル先進国として注目されました。でもフタを開けてみると、政府は決してやみくもに最新デジタルツールを導入することはしていません。むしろ、カメラ付き携帯電話と二次元バーコードなど、既にあるツールを上手に使って効果的な感染対策を実施したのです。私は台湾のデジタル化を主導するオードリー・タン大臣と対談したのですが、デジタルに誰よりも詳しい天才大臣のイメージとは裏腹に、個人情報やプライバシー保護、憲法や現行法の尊重などを非常に重視しておられました。ネット回線を国民の権利と位置づける一方で、ハンコ文化に配慮するなど、あくまでも「公共サービス」として進めているので、デジタルとアナログのバランスがとてもよいのです。

また、急速なデジタル化で一度失敗し、その後設計をし直して上手くいったのが、旧ソ連の崩壊によって生まれたエストニアです。デジタル化で貧困からの起死回生を図り、GDPを約300%も拡大することに成功、今や国民の99%がデジタルIDを持ち、行政サービスはほぼ全てオンラインで行える、まさに最先端のシステムですね。ただ、初めの頃はセキュリティが不十分だったためにロシアからのサイバー攻撃を受け、大変な目に遭っています。そこで政府は、その反省から海外にデータ大使館を置くなどセキュリティを徹底させ、政府や企業に対しても個人情報を勝手に使えないよう、強力な規制をすることで改善させました。

党の維持という明確なゴールに対して、それを強化する方向でデジタル化が進められている中国では、アリババのような巨大IT企業の活動も検索エンジンも、全て政府によって規制されています。西側諸国では考えられない、人権やプライバシーを無視したデジタル管理体制が批判を浴びる一方で、トップダウンの政治体制ゆえに、非常に効率的かつ最速でデジタル化が進んでいる国と言えるでしょう。

このように、デジタル化はあくまで手段であり、使い方次第で結果は180度変わります。目指す未来のビジョンを明確にする。その上で、世界中で行われているデジタル化の成功例、失敗例を丁寧に検証し、取り込めるところを上手く取り込んでいけばよいと思います。そういった意味で、デジタル化が遅れている日本は有利かもしれません。海外に追いつこうと焦りすぎず、日本の未来にとって最善のデジタル化を目指して欲しいと思います。

デジタル化に伴って、自分で個人情報を守る意識が何よりも重要となる

この本を出して以来、本当に多くの問い合わせを頂いていますが、こんな質問がありました。「GAMAMのような巨大テック企業が独占しているのだから、所詮政府や個人にできることなどないのでは?」そんなことはありません。

島国に住む私たち日本人は、安全保障や個人の権利にどうしても鈍感ですが、デジタルの世界は、瞬時に世界中がつながりますから、セキュリティの甘い国があれば、あっという間に餌食になってしまう。一方、他国から何度も侵略され、主権を奪われ、その度に命がけで戦い、自分たちの力で主権を奪い返してきた歴史があるヨーロッパでは、GAMAMに対しても権利を盾にどんどん規制をかけています。ITシステムは特に、最悪の事態を想定した「性悪説」で設計する必要があることは周知の事実ですから、日本も行政のデジタル化を進める官庁や企業だけでなく、私たち一人一人がそれを意識してくことが大事です。

今、自治体ベースで行政のデジタル化が進んでおり、今後マイナンバーに健康保険証や運転免許証をはじめ、あらゆる個人情報がデータとして集約されていきます。行政サービスがワンストップになるのはよいことですが、その分個人情報の漏洩リスクも高まることを忘れてはなりません。自分の住む町の自治体が個人情報をどのように扱い、どのようなセキュリティ対策をしているのか?ぜひ一度調べてみて下さい。

今はSNSやアプリを通して、毎日のように私たちの個人情報がどんどんネット上に流れています。現時点では、一度流出した個人情報は、二度と削除することはできません。

大切な資産である個人情報は国や行政、企業におまかせにせず、個人に紐づく情報は、自分の大切な資産だという意識を持って、ぜひご自身やご家族を守って頂きたいと思います。

PROFILE

堤 未果

堤 未果(ツツミ ミカ)

国際ジャーナリスト

東京都生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける傍ら、テレビ・ラジオ・新聞など多くのメディアで活躍中。2006年に『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社)で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞の受賞を始め、中央公論新書大賞、日本エッセイスト・クラブ賞などを受賞。多数の著書は海外でも翻訳されている。近著に『日本が売られる』(幻冬舎)、『デジタル・ファシズム』(NHK出版)ほか多数。

  • ※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立した執筆者の見解です。
  • ※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。
  • 2024年版 最も選ばれた保険ランキング
  • パパっと比較して、じっくり検討。ネット生保もカンタン比較!
×
閉じる ×

総合窓口

9:00~21:00(年末年始を除く)

相談予約専用窓口

9:00~21:00(年末年始を除く)