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岸田政権がとるべき、対米対中戦略

三浦 瑠麗さんコラム - 第2回

米中対立の起源

米中対立の直接的な起源は、トランプ政権下ではじまった米中貿易戦争に求められます。とはいえ、米国はそれまでの間に水面下で中国に対する違和感や脅威感を徐々に醸成してきたのも事実。トランプ前大統領が米中対立時代への移行にあたって重要な役割を担ったことは間違いありませんが、彼の当初の思惑を越えて対立が過熱したところにも注目すべきでしょう。米中対立がひとりの大統領の決断のみによって引き起こされたものではないという理由は、トランプの登場ではじめてはっきりと言語化された「中国の脅威」が、紛うかたのない真実だったからです。2015年、オバマ政権末期に習近平国家主席が訪米したとき、オバマ大統領が習近平を意図的に冷遇したという話や、サイバー攻撃など安全保障の根幹にかかわるような事態が併せて報じられていたにもかかわらず、報道のトーンの中心は相変わらず中国をビジネス相手として見るものでした。異質な国とはいっても、中国との関係は経済的に米国を潤す。西海岸でどれだけ大口の契約をまとめて帰るのかが関心の中心にあったわけです。

つまり、米国はこれまで中国に対する脅威認識はあったものの、押したり引いたりしてアプローチをつづけ、中長期的な変革を期待するという路線は変わりませんでした。その路線が根底から転換したのは、いわば経済戦争の戦端の火ぶたを切ることで退路を断ち、現状維持をやめたからということにすぎません。

トランプ政権時代、米国には米中対立を加速するにあたって二つの立場がありました。トランプ氏自身は短期的なディールを意識し、中国から妥協や改革を引き出すとともに、選挙前にアピールしたい労働者や農業従事者向けの人気取りの政策として、貿易赤字の削減を訴えていました。しかし、「新冷戦」派は、中国の台頭を押さえつけるというところまでを目標に含めているのが特徴です。相互依存関係を維持するのではなく弱めることを企図し、自分たちの得る経済的利得の総量ではなく相対的優位に着目する立場は、まさに安全保障のゼロサムゲームの発想です。米中貿易戦争の過程で米国経済や世界経済にどんなに甚大な影響を与えようとも、より大きな文脈である覇権競争に即した戦略こそ優先すべきだという考えが生まれたわけです。

しかし、誰も大統領の意向は無視できませんし、理論的には合目的的でも、自国経済に対して本質的なダメージを与えるのには二の足を踏む。その結果、「戦争」と呼ぶにはなんとも中途半端な米中貿易戦争が展開されます。攻勢を強めて中国の警戒心を早期に引き出した割には、大きなダメージを与えられませんでした。2019年には米中の貿易が低下する一方、EUとの貿易が増え、2020年には中国の最大貿易相手はEUとなります。そこで、今後の米中対立の行方は、米国がどれだけ同盟国や友邦を巻き込み、従わせて中国包囲網を築く気があるかに依存することになりました。同時に、同盟国や友邦の側がどれだけその要求を受け入れるか、ということですね。

バイデン大統領はこの点、トランプ大統領とは違って同盟国を巻き込む手腕に長けていると見られていました。冷戦中も、米国が一番力を発揮したのは、敵国をやり込めることではなく同盟国を従わせることです。逆に、日本としては、多国間協調を重視するバイデン政権に安心感を覚える一方で、米国からどのような要求が突き付けられるのか、どのように対応すればよいのかについて決して楽観できない部分があるということです。

さて、米中の経済摩擦が深刻化していく中で懸念されるのは、米中の摩擦が経済分野を飛び越えて、人びとの恐怖心や差別心に根差した政治的、あるいは社会的な分野へと波及してしまうことです。国民一般の素朴な感覚の中に恐怖心がある場合には、それを利用しようとする政治勢力が必ず出てきます。そして、その種の政治的運動によって恐怖心はさらに増幅します。

とはいえ、現時点では、まだ本格的な対中恐怖症が米国社会に根付く可能性はそれほど高くないと思っています。米中関係が「冷戦」という性格になりきれていないからです。

一番目の理由は、米ソ関係とは異なり、米中は経済的に深く依存しあっているから。中国は自衛手段として米国市場依存を見直し、他の先進国市場へと軸足を移していますが、米中貿易の相対的重要性が減ったからといって、冷戦期のようなブロック経済に移行するとは思えません。

二番目の理由は、民衆レベルで中国への恐怖心が高まっていないから。冷戦中には「赤狩り」が起きましたし、現在でも中国人の留学生を一部締め出す動きはあるものの、かつてのソ連に対するほどの恐怖心とはいえません。かつての共産主義に対する恐怖心とは、共産革命が起きること、共産主義者による武装テロが起きることへの恐怖であり、現実の国家であるソ連と、自国内におけるテロや治安への恐怖が混同された部分が大きかった。いまも、米国内ではイスラム原理主義によるテロの方が、国民の内心レベルでは大きな脅威として認識されているはずです。

しかし、「相手に勝てないかもしれない」「相手の政治体制や経済の方が勝っているかもしれない」と思うようになると、世論は極端な反応を示すようになります。その点に鑑みると、中国の急速な成長やコロナ禍の対応をめぐって、西側先進諸国が自信喪失ともいえる精神状態に陥ったことは二重の意味で望ましくない。徒な恐怖は相手の脅威を冷静に見定めるにあたって邪魔にもなりえますし、また自信喪失は予言が自己成就するように自らの力を弱めてしまう可能性があるからです。

米国が中国に接近したときには、中国はいまだ改革開放もしていない異質な共産主義国家でした。しかし、いまの米国国内の反中イデオロギーを見ていると、政治体制の違いにのみ即した話ではなく、経済分野で「自分たちは負けているかもしれない」という感覚に根差している風が窺えます。ここが米ソ冷戦期と根本的に違う点なのです。中国に対する敵愾心(てきがいしん)や脅威感の核心には、中国の経済体制の方が経済成長や未来投資の上で優れているのかもしれないという、資本主義への信頼の揺らぎがある。自らが内に引きこもってしまうかたちでの対抗手段は、国力を弱めこそすれ、強めてくれはしません。ではどうしたらよいのか。最終回の次回は、バイデン政権の対中政策の分析を通して日本がとるべき構えを考えます。

PROFILE

三浦 瑠麗

三浦 瑠麗(ミウラ ルリ)

国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表

1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。

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