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初心者のための投資術

馬渕 磨理子さんコラム - 第2回

投資の鉄則は「長期」「分散」「低コスト」

今年から新NISAが始まったこともあり、一般の方の投資への関心がかつてないほど高まっています。前回のコラムでは、新NISAの仕組みやメリット、活用するうえでの注意点をお伝えしました。新NISAはこれから投資を始める人が使わないという選択肢はない、メリットの多い制度です。そこで今回は、新NISAを使ってこれから投資を始める人のために、初心者が気をつけるべきポイントや注意点をお伝えします。

投資で損失を出さないためには、ほったらかしで長期保有するのが一番

投資の鉄則は「長期」「分散」「低コスト」の三つです。投資初心者の場合、この三つを絶対に守っていただきたいと思います。投資で資産形成を目指すうえでは、いかにリスクを抑えるかが大事。そのうえで重要なキーワードが「長期」「分散」「低コスト」なのです。

最初の「長期」とは、投資はできる限り長い時間をかけて行うべきだということです。投資は時間を味方につけることが大事だとよく言われます。それは株式というものは、短期間で見ると上下に激しく値動きするものの、長いスパンで見ると基本的には右肩上がりで上昇していくものだからです。バブル後、暴落して長期低迷していた日経平均株価も、30年かかったとはいえバブル以降の高値を更新し、長期的には右肩上がりの曲線を描いています。

利回りも長期で見たほうが安定しています。例えば今、オルカンと呼ばれる全世界の株式に投資するインデックスファンドが人気です。オルカンとは投資信託の銘柄名「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の略称で、全世界(日本を含む先進国・新興国)の株式を主要投資対象としています。オルカンが目標としている世界株指数ACWIは過去20年で約9%の利回りを出しています。ところが数年単位で見れば、これより利回りが高いこともあれば、低いこともあります。売却のタイミングによっては元本割れする可能性もあるでしょう。金融庁のデータでも、投資を3年以下でやめている人はたいてい損失を出しています。そう考えると、一般の方が資産形成のために投資をする場合は、株価の上下に一喜一憂せず、ほったらかしで長期間保有しているのが一番なのです。

分散投資でリスクを抑えるうえでは、初心者には全世界株式がおすすめ

続いて「分散」とは、一つのものに投資するのではなく、なるべくさまざまなものに資金を分けて投資することです。例えば100万円をA社に投資した場合と、A社を含む10社に10万円ずつ投資した場合。仮にA社の株価が半分になると、A社のみに投資した場合は50万円の損失です。いっぽう10社に10万円ずつ投資していた場合は5万円の損失で済みます。A社以外の投資先の株価が上昇していれば、その損失を上回る利益を出すこともできるでしょう。

このような分散効果の高い投資商品として今、人気なのが前述したオルカンです。例えばオルカンは、全世界2,772銘柄に投資しています(2024年4月30日時点)。この商品はその名の通りアメリカ、ヨーロッパ、日本、東南アジアの企業などに幅広く投資しています。いっぽうアメリカ企業のみ503銘柄から構成されるS&P500と連動するインデックスファンドは、アメリカの景気や金融政策、物価動向によって大きく上昇したり、下落したりする傾向があります。場合によっては全世界株式より利益がでる可能性もありますが、それ以上に損失を出す可能性もあるでしょう。

私は初心者には、まずは分散効果が高いオルカンから始めることをおすすめしています。そのうえでもう少し分散効果でリスクに備えたり、リターンを期待したりするなら、半分の資金を日経平均に連動するインデックスファンドに投資してもいいでしょう。ご存じのように日本の株価は今年の2月にバブル期の最高値を超え、史上最高値を記録しました。その後、揺り戻しは起きていますが、3月には日銀がマイナス金利政策を解除し、日本経済への期待は世界的に高まっています。いっぽうで日本企業の株価はまだ割安感があります。再び日本がデフレに戻りでもしない限り、日本株をポートフォリオに入れておくことには意味があります。

ちなみに分散効果を期待してオルカンとS&P500を半々買うことにはあまり意味がありません。オルカンの60%はアメリカ株なので、この二つをともに買うとアメリカ株の比率が高くなり、アメリカの景気動向に対するリスク回避にはならないからです。

投資する時間を分散すること、手数料の安い商品を選ぶことも大事

分散投資においては、投資商品を買う時間を分散するという発想も大事です。株価やインデックスファンドの価額は常に変動しています。安いときに買って、高いときに売れれば一番なのですが、それはプロの投資家でも難しいのが現実です。そこで例えば100万円を一度に投資するより、10回に分けて投資する。そうすることで株価や価額の変動がならされ、リスクを抑えられるのです。そういった意味でも、毎月一定額を自動的に購入する積み立て投資は時間的分散効果が大きくておすすめです。

また投資初心者が見逃しがちで、実はとても重要なのが「低コスト」、つまり手数料です。投資信託のなかには、手数料(信託報酬)として年間3%もとられるものがあります。このような投資商品を選ぶと、その投資信託が5%の利回りを出しても、2%しかリターンを得られません。このような投資をしている限り、いつまでたっても資産形成はできません。

もともと日本にはこのような信託報酬の高い投資商品が多く、それが一般の方がなかなか資産形成できない要因になっていました。そこで金融庁がNISAで手数料の安い投資信託を推奨するようになり、金融機関も信託報酬が安い投資商品を続々と出すようになりました。新NISA「つみたて投資枠」の対象インデックスファンドは、0.05%~0.1%台くらいに信託報酬が抑えられた商品が多いので安心です。

一般の人が個別株で儲けるのは難しい。挑戦するなら失っても困らない資金で

これまで説明してきた通り、「長期」「分散」「低コスト」を重視して初心者がなるべくリスクを抑え、資産形成するなら、オルカンの積み立て投資をしてほったらかしにしておくのが一番です。でもせっかく投資をするのに、それだけでは面白くない。個別銘柄にも挑戦したい。そう思っている人のために最後に、個別株への投資についても少し触れておきます。

最初にお伝えしたいのは、個別銘柄でリターンをあげるのは一般の方にはとても難しいということです。よってある程度、投資に慣れ、勉強もしたうえで、くれぐれも失っても困らない資金で投資することをおすすめします。

個別銘柄に投資するうえでの基礎知識として、まず知っておくべきことは株価がどうやって決まるかです。株価は基本的に企業の実力である利益と、投資家の期待値であるPERの掛け算で決まります。株価は純粋に業績だけで決まるわけではありません。市場やマーケットからその会社がどう見られているかが株価に反映されるのです。例えば、ある会社の1株あたり利益が300円だったとします。これがこの会社の業績であり、実力です。そのうえでこの会社に対する投資家の期待値、PERが10倍であれば、株価は3,000円になるのです。

いずれにしろ初心者が個別株で稼ぐには、会社や製品、業績などを徹底的に分析する必要があります。そのうえで投資家や市場がその会社をどう見ているか、どれくらい期待しているかを知る必要があります。初心者は旧マザーズなどの聞いたことがない会社より、トヨタやソニー、日立といった誰もが知っている企業への投資から始めたほうがよいでしょう。また最初は売却益を狙うのではなく、配当目的で値動きの少ない大型株を長期保有することから初めてもいいでしょう。

PROFILE

馬渕 磨理子

馬渕 磨理子(マブチ マリコ)

一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事、経済アナリスト

1984年滋賀県生まれ。京都大学公共政策大学院修士課程を修了後、トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、イー・ギャランティ株式会社社外取締役やハリウッド大学院大学客員准教授などを担いながら、一般社団法人日本金融経済研究所の代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。フジテレビ「Live News α」、読売テレビ「ウェークアップ」にレギュラー出演中。NHK「日曜討論」、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」など討論番組にも活動の幅を広げる。著書には『黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)など多数。

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