馬渕 磨理子さんコラム - 第1回
新NISAの仕組みとメリットとは?
今年から新NISAが始まり、投資熱の高まりとともに、メディアでもよく取り上げられています。「新NISAを使って投資をすると何やら得らしい……」といった程度のことはわかっていても、その仕組みやメリット・デメリット、活用法をきちんと把握している人はそれほど多くないようです。そこでこのコラムでは新NISAの仕組みや、よくある誤解を説明したうえで、初心者がこれから投資を始めるうえでのポイントや注意点をお伝えしたいと思います。
一生涯、非課税期間が続き、お得な新NISAを活用しない手はない
昨年から今年にかけて話題になっている新NISAは、国が国民の資産形成を支援するためにつくった思い切った制度です。とても恩恵の大きい制度なので、これから投資を始める方が新NISAを使わない、という選択肢はないと思います。
NISAの最大のメリットは、投資によって得た利益にかかる税金が非課税になることです。通常は投資運用によって利益が出ると、その利益の約20%を税金として納めなくてはなりません。しかし、NISA口座による取引の場合は、その約20%が非課税となるのです。非課税となった約20%はそのまま新たな投資に回すことができます。その分、投資元本が増えるわけですから、より資産形成をしやすくなるというわけです。
このように、もともとメリットが大きかったNISAをさらに改善し、大幅に利用しやすくしたのが新NISAです。一番のメリットは、これまで「つみたてNISA」が20年間、「一般NISA」が5年間と定められていた非課税期間が撤廃され、無期限となったことです。従来のNISAには非課税期間があったため、終了期間が近づくと「売却して利益を確定するのか」「そのまま保有し続けるのか」という判断を迫られました。新NISAでは非課税期限がないため、その判断が不要となります。投資枠の範囲であれば、生涯にわたって非課税の恩恵を受けた長期運用が可能になります。
また、従来のNISAは「つみたてNISA」と「一般NISA」の二つの制度があり、どちらか一方しか使えませんでした。新NISAはこの二つが一つの制度に統合されたかたちになっており、併用できます。そのため、長期的に老後資金を貯めたい資金は「つみたて投資枠」を使い、短期的に利益を狙いたい資金は「成長投資枠」を使うといったかたちで、柔軟な運用ができるようになりました。
年間投資枠も従来の「つみたてNISA」が40万円、一般NISAが120万円だったのに対し、新NISAでは「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」が240万円と拡充され、この両方を合わせた360万円まで運用できます。生涯投資上限も「つみたてNISA」800万円、「一般NISA」600万円だったのが、新NISAでは合わせて1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)と大幅に増えました。
さらに今までは非課税枠をすべて使い切ると、それ以降は追加の投資はできませんでした。ところが新NISAでは、非課税枠を使い切っても口座内の資産を売却すれば翌年以降に非課税枠が復活します。このように新NISAは非常に使いやすく、恩恵の大きい制度です。
成長投資枠とあわせて360万円まで、インデックスファンドの積み立て投資は可能
新NISAは使いやすくなったいっぽう、従来の「つみたてNISA」と「一般NISA」を統合したような設計になっているため、複雑になった感はあります。以前なら「つみたてNISA」を選択した人には、インデックスファンドを買うくらいしか選択肢がありませんでした。しかし新NISAには成長投資枠があり、選択肢や自由度が広いため、初心者が悩む場面は増える可能性があります。
新NISAの「つみたて投資枠」は、信託報酬と言われる手数料が法令の上限は0.75%となっていますが、ほとんどのファンドが0.5%以下です。なかには0.05%程度のファンドも存在します。国が手数料を低く抑える方針で、定めた基準を満たす投資信託やETFしか「つみたて投資枠」のファンドに選定されません。いっぽう「成長投資枠」ではトヨタやソニーなどの個別株やREITなども買うことができます。ただ、その名称から誤解されがちなのが、オールカントリー(全世界株式)などのインデックスファンドの積み立て投資は、「つみたて投資枠」の120万円分しかできないと考えている人が多いことです。
実はインデックスファンドの積み立て投資は、「成長投資枠」の240万を使っても行うことができます。「成長投資枠」で買える投資商品のなかには、オールカントリーやS&P500などのインデックスファンドも含まれているからです。つまり新NISAでは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を合わせた360万円まで、インデックスファンドの積み立て投資ができるのです。
ちなみに「つみたて投資枠」で買える投資商品は、どこの金融機関でもほとんど変わりません。いっぽう「成長投資枠」で購入できる投資商品は、金融機関によって大きく異なります。新NISAでは一つの口座しかもつことができないので、最初から「成長投資枠」の活用を考えている方は、その金融機関がどのような商品を扱っているかを事前に確認してから口座を開設したほうがよいでしょう。
若いうちから始めるほど有利だが、50代、60代からでも遅くはない
新NISAは国民の長期的な資産形成を支援するためにつくられた制度なので、若いうちから始めたほうが圧倒的に有利です。例えば、人気のオールカントリーは最近の20年間の平均では約9%の利回りを実現しています。仮に利回り7%で試算しても、20代の人が毎月5,273円積み立てると、65歳のときには2,000万円の資産が形成されています。毎月5,000円ほどなら、収入の少ない20代の人でも頑張って節約すれば積み立て可能でしょう。40歳からでも毎月2万4,689円を積み立てれば、65歳のときには2,000万円になっています。
このように積み立て投資は若いときから始めたほうが有利ですが、人生100年時代と言われる今や、50代や60代から始めてもけっして遅くはないと思います。先ほどの試算に基づけば、50歳の人でも毎月、2万4,689円を積み立てれば、75歳のときには2,000万円貯まることになるからです。実際に私のYouTubeチャンネルの視聴者のなかにも、年金受給者や50代でNISAを活用した積み立て投資を始めている方が多くいらっしゃいます。
最後にNISAとiDeCoの違いについても触れておきます。ともに運用益が非課税になるところは一緒ですが、NISAが投資であるのに対し、iDeCoは基本的に年金です。よってiDeCoは60歳以降にならないと資産を引き出すことができないので注意が必要です。ただiDeCoならではの大きなメリットとして、投資した金額が全額所得控除になります。節税メリットを享受できる人や、公的年金が乏しい自営業者にはメリットが大きい制度です。
一般のビジネスパーソンの場合は、まずはいつでも現金化できる新NISAから始め、ある程度年をとり、余力があればiDeCoも検討する、ということでもよいのではないでしょうか。いずれにしろ非課税のメリットが大きく、さまざまなスタイルで活用できる新NISAを、ご自身の資産形成にぜひ上手に役立てていただきたいと思います。
PROFILE
馬渕 磨理子(マブチ マリコ)
一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事、経済アナリスト
1984年滋賀県生まれ。京都大学公共政策大学院修士課程を修了後、トレーダーとして法人の資産運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、イー・ギャランティ株式会社社外取締役やハリウッド大学院大学客員准教授などを担いながら、一般社団法人日本金融経済研究所の代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。フジテレビ「Live News α」、読売テレビ「ウェークアップ」にレギュラー出演中。NHK「日曜討論」、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」など討論番組にも活動の幅を広げる。著書には『黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)など多数。
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