自動車保険
2018.08.07
認知症の運転者が事故を起こしたとき、自動車保険はでるの?
高速道路の逆走、店舗への突っ込み、立体駐車場からの転落など、高齢者ドライバーによる自動車事故のニュースが後を絶ちません。超高齢社会が進む中、高齢者ドライバーは増加する見込みです。また、高齢者ドライバーのなかには認知機能が低下している方も散見されます。認知症患者が事故を起こした場合、自動車保険ではどこまで補償されるのでしょうか?
高齢者ドライバーはますます増えていく!
WHO(世界保健機関)や国際連合では、総人口に占める65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」、14%超で「高齢社会」、21%超で「超高齢社会」と定義しています。内閣府「平成30年版高齢社会白書」によると、日本では1970年に「高齢化社会」、1994年に「高齢社会」になりました。そして2007年には総人口に占める65歳以上の人口割合が21%を超え「超高齢社会」に突入しています。なお、2036年には3人にひとりが高齢者になると予想されています。
そんな超高齢社会の日本では、高齢者ドライバーによる自動車死亡事故も増えています。
警察庁「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言(2017年6月30日)」によると、平成18年から平成28年の10年間で、死亡事故件数は減少しているにもかかわらず、高齢運転者による死亡事故の割合は増加しています。
表1:死亡事故件数と高齢者・認知機能低下者
※スクロールで表がスライドします。
資料:警察庁「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言(2017年6月30日)」をもとに執筆者作成
今後さらに進む「超高齢社会」のなか、認知機能が低下している高齢者の人数は、さらに増えていくことが予想されます。
認知症の運転者が事故を起こした場合、自動車保険の補償対象となるの?
では、増加傾向にある認知症患者による自動車事故ですが、自動車保険の補償の対象となるのでしょうか?
損害保険各社のカスタマーセンターに問い合わせをしたところ、認知症患者の事故に対する対応が同じではなく、大きく6つのパターンがあることがわかりました。
- <パターン1>
- 運転免許の更新ができていれば、相手側への損害賠償についても、自分自身のケガや自動車に対しても、補償の対象となる
- <パターン2>
- 認知症だからといって補償の対象外となることはないが、事故の状況によっては保険金の支払いができないことがある
- <パターン3>
- 相手側への損害賠償については被害者保護の観点から補償の対象とするが、自身のケガや自動車に対しては補償の対象とならない
- <パターン4>
- 相手側への損害賠償については被害者保護の観点から補償の対象とするが、自身のケガや自動車に対しては事故当時の運転者の状態によってケースバイケースとなる
- <パターン5>
-
- ・「認知症だが自動車の運転は可能」と医師に診断された場合は、相手側への損害賠償についても、自分自身のケガや自動車に対しても、補償の対象となる
- ・「認知症により自動車の運転は不可」と医師に診断されたにもかかわらず運転し事故を起こした場合には、相手側への損害賠償については被害者保護の観点から補償の対象とするが、自身のケガや自動車に対しては補償の対象とならない
- ・医師の診断を受けていない場合にはケースバイケース
- <パターン6>
- 事故時に心神喪失状態の場合に補償はされないが、個別性が高いため絶対とはいえない
- 保険会社により、かなり扱いが異なりますね。相手への補償に関しては対象となることが多いようですが、状況によっては保険金の支払いとならないこともあります。認知症と診断されれば運転免許証を自主返納するのはもちろんですが、運転中ひやりとすることが増えた時点で運転しないで暮らしていく方法を検討してみてください。
- では、認知機能が低下している場合、運転免許の更新はできるのでしょうか?
高齢者の運転免許更新は、若者と同じ?
認知機能も体の機能も衰えが見えてくる年齢になっても、運転免許証の有効期間は若いころと同じなのでしょうか?
表2:運転免許証有効期間
免許証の区分 | 帯の色 | 有効期間 | ||
---|---|---|---|---|
70歳以下 | 71歳 | 72歳以上 | ||
優良運転者 | ゴールド | 5年 | 4年 | 3年 |
一般運転者 | ブルー | |||
違反運転者 | ブルー | 3年 | 3年 | |
初回更新者 | ブルー | |||
新規取得者 | グリーン |
資料:執筆者作成
70歳を超えての更新では、優良運転者であっても有効期間は短くなり、こまめな更新手続きが必要になるのですね。
では、更新手続きはどう違うのでしょう。
75歳以上の方は免許更新前に認知機能検査を受けることが義務付けられています。
(1)記憶力・判断力にほぼ問題なしという判定結果の場合は、高齢者講習を受講し、免許の更新手続きをすることになります。
(2)記憶力・判断力が低くなっているという判定結果の場合は、臨時適性検査を受け、医師の診断書を提出することになります。
- ・認知症でなければ高齢者講習を受講し、免許の更新手続きをする
- ・認知症と診断されれば、免許証の停止・取り消しとなる
年齢を重ねると、どうしても体の反応が鈍くなってきます。記憶力・判断力・反射神経が鈍ってきたと感じたら、免許証を自主返納されることをおすすめします。しかし、衰えを認めたくない、生活するにあたって不便になるなど、なかなか自主返納のすすめに応じない方もいらっしゃるようです。執筆者も近親者に返納をすすめながらも応じてもらえず、高齢者講習や免許更新手続きに付き添った経験があります。自主返納したときには、心からほっとしました。悲惨な事故を減らすためにも、不安を感じたら免許証を自主返納するようにしたいものです。
- 監修者 柳澤 美由紀 やなぎさわ みゆき
- CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 関西大学社会学部卒。大学時代に心理学を学び、リクルートグループに入社。求人広告制作業務に携わった後、1997年ファイナンシャルプランナー(FP)に転身する。
相談件数は800件以上。家計の見直し、保険相談、資産づくり(お金を増やす仕組みづくり)が得意で、ライフプランシミュレーションや実行支援も行っている。
家計アイデア工房 代表
- ※ この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
- ※ 掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。