2015年高額療養費改正に備える 「医療費を節約する習慣」
みなさんは「高額療養費制度」をご存知ですか?家計の医療費負担が過度に重くならないように、医療費の自己負担に一定の歯止めをかける公的医療保険の仕組みです。この制度が2015年1月から改正になる予定で、年収約770万円以上と年収約370万円以下の場合に、1ヶ月あたりの自己負担額が変わります。所得が高い人にとって負担が増える改正が行われる前に、知っておきたい改正の主な内容と、医療費節約と備えのポイントについて紹介します。
70歳未満の高額療養費制度が改正になります
高額療養費制度は医療費(保険診療のみ。自由診療、先進医療の技術料、入院時食事療養費一部負担金、差額ベッド料は対象になりません)が高額になった場合に、一定の自己負担限度額を超えた部分が払い戻される制度です。公的医療保険に加入していれば、すべての年齢の人が使えます。加入者が70歳以上と70歳未満の場合で、1ヶ月の患者負担の計算式が異なっていますが、2015年1月に予定されている改正は70歳未満のみです。特徴は次の2つとなります。
- ① 年収約770万円以上の人は自己負担額が増えます(月10万円以上増えるケースもあり)
- ② 年収約370万円以下の人は負担が軽減されます
具体的には、表1の内容が表2の内容に改正されることになります。所得区分を3区分から5区分に細分化することで、自己負担限度額がきめ細かく設定されています。
月単位の上限額 | |
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上位所得者(年収約770万円以上) 健保:標準報酬月額53万円以上 国保:旧ただし書き所得600万円超 |
150,000円+(医療費-500,000円)×1% <4ヶ月目~:83,400円> |
一般所得者(上位所得者・低所得者以外) 3人世帯(給与所得者/夫婦子1人の場合:年収約210万~約770万円) |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% <4ヶ月目~:44,400円> |
低所得者(住民税非課税) | 35,400円 <4ヶ月目~:24,600円> |
月単位の上限額 | |
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年収約1,160万円以上 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
252,600円+(医療費-842,000円)×1% <4ヶ月目~:140,100円> |
年収約770万~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 |
167,400円+(医療費-558,000円)×1% <4ヶ月目~:93,000円> |
年収約370万~約770万円 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% <4ヶ月目~:44,400円> |
年収約370万円以下 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
57,600円 <4ヶ月目~:44,400円> |
低所得者(住民税非課税) | 35,400円 <4ヶ月目~:24,600円> |
※厚生労働省保険局保険課資料「高額療養費制度の見直しについて」(平成26年1月22日)をもとに執筆者作成
注意すべきなのは、現在上位所得者に該当する、年収約770万円以上の被保険者とその被扶養者が入院・手術をしたり、抗がん剤治療を受けたりするケースです。1ヶ月の医療費が50万円以下の場合、1ヶ月あたりの自己負担限度額が今よりも1万7,400円、年収約1,160万円以上の場合なら10万2,600円増えることになります。「貯金があるから、医療費負担が増えても乗り切れます!」と言い切れる人なら良いのですが、あるだけ使ってしまうタイプで貯金が少なめなら、医療保険等でいざという時に備えておく方が賢明です。
2013年度予算ベースの医療関連の社会保障給付費は、36兆円です。内閣府の試算によると、2015年度に39.5兆円、2020年度には46.9兆円にまで増大すると見込まれています。医療費の自己負担アップは、今回で収束するとは考えにくいかもしれません。いざという時の負担を軽減するリスクヘッジとして、医療費を抑える知恵を学び、家計負担の少ない範囲で保険を活用していきましょう。
医療費の節約に欠かせない「2つの質問」
健康診断等で病気が見つかり、医師から入院を促された場合に、必ず聞いてほしい2つの質問があります。
- ① 入院期間はどれくらいになりますか?
- ② (個室を促された場合)個室にしなければいけない理由を教えてください。
先に紹介した高額療養費制度は、「月初めから月末まで」に自己負担した医療費が一定金額を超えた場合、超過分を公的医療保険で負担する、というものです。つまり、月単位での計算となりますので、入院の時期についても必ず確認しましょう。
医師から「○日に入院できますか?」と聞かれた場合には、入院期間を確認し、手術等の結果によって入院期間が延長する可能性についても質問しておくと、さらに安心です。
個室に入院すると、通常差額ベッド料を支払うことになります。1日あたり1万円、2万円等の費用が請求され、しかも保険診療の対象とならないので、高額療養費制度が使えません。「相部屋はプライバシーが守られないので嫌!」「自分のイビキが気になるので個室にしたい」等の場合は、相応の費用負担を覚悟しておきましょう。
それとは別に、患者本人の意思ではなく、病院側から個室の利用を促されることがあります。その際は必ず理由を聞きましょう。表3に該当する場合、個室料を払わなくてすみます。急病等で緊急入院をしたり、抗がん剤治療で免疫が落ちていたりする等の理由で個室に入った場合は、表3の(2)に該当する可能性があります。表3に該当する理由により差額ベッド料の請求を受けた場合は、「厚生労働省の通達で、差額ベッド料を徴収してはいけないケースに該当するのではないですか?」と必ず聞いてみましょう。
- (1) 同意書による同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む。)
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(2) 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
(例)- ・ 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
- ・ 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
- ・ 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
- ・ 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
- ・ クロイツフェルト・ヤコブ病の患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
- (3) 病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
※資料:厚生労働省保険局通知(平成24年3月26日)
入院・手術、抗がん剤治療前に「限度額適用認定証」をもらっておこう
最後に、忘れてはならないのは「限度額適用認定証」の申請です。入院・手術、抗がん剤治療等で高額な医療費がかかると予測される場合は、治療を受ける前にご加入の公的医療保険で「限度額適用認定証」をもらっておきましょう。これを病院に提示しておけば、1ヶ月の病院の窓口での支払いが、高額療養費制度の自己負担限度額までとなります。
これをもらわずに入院すると、医療費の3割(69歳以下の場合)を病院の窓口で支払い、その後、高額療養費の申請を行うことになります。手続き後3ヶ月位で払い戻しを受けられますが、立て替え払いをしなければいけません。高額な費用を払うために、金利の高い時代の定期預金を解約したり、金利のかかるカードローン等でお金を借りたりするのはもったいないです。手続きをすれば誰でも入手できるものですので、入院前の準備として覚えておいてくださいね。
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コラム執筆者プロフィール
柳澤 美由紀(やなぎさわ みゆき) -
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
関西大学社会学部卒。大学時代に心理学を学び、リクルートグループに入社。求人広告制作業務に携わった後、1997年ファイナンシャルプランナー(FP)に転身する。
相談件数は800件以上。家計の見直し、保険相談、資産づくり(お金を増やす仕組みづくり)が得意で、ライフプランシミュレーションや実行支援も行っている。
家計アイデア工房 代表
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
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