森永 康平さんコラム - 第3回
ますます大事になる金融リテラシー
このコラムでは現在の日本経済をめぐる重要なキーワードである、インフレと金利上昇をテーマに私の意見をお伝えしてきました。2024年3月に日本の株価はバブル期の最高値を超え、いよいよ日銀もマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げることを決めました。今年は、まさに日本がデフレ経済を脱却できるかどうかの重要な岐路になるでしょう。最終回は、そんな時代に個人はどのようにお金と向き合っていくべきか、といった話をさせていただきます。
今年こそ社会全体のマインドセットを変えるべき
今年の2月22日、日経平均株価がバブル期の最高値を超え、3月4日には初の4万円台を突破しました。その後、多少の下落はあったものの、日本の株価はかつてない高値にあります。その要因は、円安によって大企業の業績が非常に良いこと。日本がついにデフレ経済を脱却できるのではないかといった投資家の期待が高まっていること。日本企業が投資家に好まれやすい資本効率を意識した経営に変化しつつあること。中国経済の悪化や1月から新NISAが始まったことで、日本の株式市場に流れ込む資金量が増えたことなどがあげられます。
急激な株価上昇を「バブルではないか」と不安視する人もいます。しかし、日本は失われた30年と言われる長期経済低迷のすえ、ようやく34年前の株価水準に戻ったにすぎません。この間、世界では株価指数が何倍にも上昇している国がたくさんあります。かつてほどの割安感はなくなったとはいえ、日本の株式はまだまだバブルと不安視するほどの状況ではないでしょう。
また今年の春闘では、大企業の多くが労働組合の要求に満額回答をし、昨年を上回る賃上げを実施。日銀も、マイナス金利政策を解除しました。ただ、私自身はこれまでのコラムでもお伝えした通り、日本が何より避けなくてはならないのはデフレに戻ることであり、そのためには金融緩和からの転換も慎重に進めるべきという考えに変わりはありません。
いずれにしろ今年は長年、苦しめられてきたデフレから、日本が脱却できるかどうかの重要な分岐点です。そのうえで重要なのが、社会全体のマインドです。投資なくして経済成長はありません。これから日本は良くなっていくと信じ、未来に希望をもち、社会全体で大胆な投資を迅速に行っていくことが、何より大事だと考えています。
インフレ時の資産防衛には株式投資も有効
ここからはすでに始まりつつある、インフレ時代の個人の資産防衛術についてお伝えします。インフレとは、要は現金の価値が下がることです。デフレ時代のように現金をそのまま預貯金していては、物価上昇分だけその価値は目減りしていきます。
例えば、これから毎年2%ずつインフレが続くとします。すると、銀行口座に入れている100万円は、毎年2%ずつ価値を減らしていくのです。資産価値の下落を防ぐには、現金をインフレに強い金や不動産などの実物資産、株式などに移転する必要があります。預貯金をほっておいてもよかったデフレ時代からは発想を変え、これからは個人も投資や資産運用を前向きに考える必要があるでしょう。
近年、政府も「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、個人が投資しやすい環境整備に乗り出しています。その一つが、今年の1月から始まった新NISAです。通常、株式の売却で利益を得ると、その約20%を税金として収める必要があります。NISAはこの税金が非課税となる制度で、新NISAはその使い勝手をさらに良くしたものです。メリットが大きいので、これから投資を始める人が活用しない手はないでしょう。
とはいえ、投資とは何かしらのリスクを取ることで、リターンを期待する行為です。絶対に儲かるという保証はありません。ときには元本を失う可能性もあります。基本的には余裕資金、失っても生活に支障がない金額で行うべきです。またリスクを抑えるうえで大事なことは、なるべく分散して投資することと、長期の運用を心がけることです。
そういった意味でも初心者には、まずはインデックスファンドの積立投資から始めることをおすすめします。日経平均やS&P500(米国を代表する500企業の株価指数)に連動したインデックスファンドは、それだけでたくさんの企業に分散投資しているのと同じ効果がありますよ。積立投資は、購入時期を分散するといった意味で、リスクを抑えることにつながります。一度、積立投資の設定をしてしまえば、その後は特に投資に対してリソースを割く必要もありませんから、多くの投資家にとって最適解といえる投資法でしょう。
住宅ローンを変動にするか、固定にするかは損得勘定で考えない
インフレ時代には基本的に金利も上昇傾向になります。金利の上昇によって、家計で一番影響を受けるのが住宅ローンです。現在、住宅ローンを利用している人の7割ほどは変動金利を選んでいます。日銀が金融緩和政策を解除した今、短期金利が上昇すれば、住宅ローンの変動金利も上がり、毎月の支払い負担額が増える可能性があります。場合によっては、変動金利で借りていた住宅ローンを、早めに固定金利に切り替えることを検討する必要もあるでしょう。
またこれから住宅ローンを組む人は、固定金利を選ぶ人が増えるかもしれません。ところで、よく「変動金利と固定金利のどちらがよいですか?」との質問をいただきます。それは「どちらが得か?」を気にしているわけですが、私はそもそも「どちらが得か?」という観点だけで変動か固定かを決めるべきではないと思っています。
変動と固定のどちらが得かは、その後の経済情勢や金利の変動次第なので、誰にも正確に予測はできません。むしろ大事なのは、ご自身の資産管理の考え方です。毎月、出ていくお金の額を固定させたい、または固定させざるをえない人は固定金利を選ぶしかありません。逆に毎月出ていくお金が変動しても問題がなく、当面の出費を抑えたいと考える人は、変動金利を選べばよいのです。
いずれにしろインフレ時代は、金融や投資に関する知識、お金との上手なつきあい方がますます重要になってきます。最近になって日本の高校でもようやく金融教育が始まりました。私自身、金融教育の会社を経営していますが、正しい金融リテラシーをもち、お金と上手につきあえる方が増えることを願っています。長い目で見れば、それが日本経済の再生や底上げに大きくつながることは間違いありません。
PROFILE
森永 康平(モリナガ コウヘイ)
経済アナリスト、株式会社マネネCEO
1985年埼玉県生まれ。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。著書は『親子ゼニ問答』(KADOKAWA)、『スタグフレーションの時代』(宝島社)など多数。
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