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ロボット研究を通し、人間とは何かを考える

石黒 浩さんコラム - 第3回

人間の可能性を広げる“仮想化実世界”

このコラムでは、私がロボット研究を始めた理由を皮切りに、人間そっくりな遠隔操作アンドロイドの研究によって分かったこと、現在進行形で力を入れているCGアバターの社会実装などについてお伝えしてきました。今後、アバターは社会のさまざまなシーンで利用されるようになり、やがてロボットと人間が共生する社会が訪れるだろうと私は考えています。このコラムの最終回では、私が思い描いているロボットと人間が共生する未来の社会のビジョンをお伝えします。

人間の可能性を広げるために、仮想化実世界へ向かっていく

私は遠隔操作が可能なCGアバターを使うことで、誰もがいつでもどこでも自由に働ける社会を実現したいと考えています。私がプロジェクトマネージャーを務める内閣府の「ムーンショット」という研究プロジェクトでも、2050年までに「人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」という目標を掲げています。しかし、私は2050年よりも早くこのような社会が実現すると考えています。

私はCGアバターが活躍する世界を、「仮想化実世界」と呼んでいます。インターネットは、多くの仮想世界をつくりあげました。そこでは、人は匿名性を持った多様な人格で活動をしています。今の若い人たちはこのようなメリットを上手に使い、SNSなどで複数のアカウントを使いながら、コミュニティに参加しています。

実世界では、私たちは生身の体を持って生きているため、何か大きな失敗をすると簡単に取り返すことはできません。しかし、ネットの世界では一度失敗しても、新しいアカウントやキャラクターでやり直しをすることができます。本来の自分とは異なるキャラクターで、リアルでなかなかできない挑戦にもチャレンジできます。多様な自分を顕在化させながら、活動ができるのです。

ただ、現状では仮想世界だけで十分な経済活動が行われているわけでもなく、仮想世界に閉じたまま人が生きていくこともできません。そこでCGアバターを使うことで、実世界においてもネットの仮想空間と同じように、異なるキャラクターになって働いたり、活動したりできるようにする。そうなれば多くの人が失敗を恐れず、いろいろなことに挑戦できるようになります。このように仮想化実世界では、人間の可能性を広げながら、新たな自分を創造できるのです。今後、CGアバターの活用とともに、仮想化実世界が広がっていくことを期待しています。

人間の本質はコミュニケーションにこそある

私は“人間とは何か”との問題意識のもと、ロボット研究を進めてきました。そして、長年の研究のなかで気づいたのが“人間の本質はコミュニケーションにこそある”ということです。

今後、社会にAIやITが実装され、あらゆるものが機械化・自動化されていくはずです。人間がこれまで行ってきた肉体労働や知的労働の多くは、機械に置き換わっていくでしょう。それでも、コミュニケーションをとることだけは、人間に最後まで残されると思います。人間は他者とのコミュニケーションによって刺激を受け、学び、生きる意味を見出す生き物です。よって、今後はアバターやロボット技術も、人間のコミュニケーションをより洗練させていく方向に進化していくでしょう。

例えば私たちの研究チームでは、アバターによって人間の表現力を高める研究をしています。人間は、身振り手振りを効果的に使って何かを表現することはさほど得意ではありません。人間の手は、もともとものをつかむことなどを目的とした道具として進化したもので、表現の手段として進化したものではないからです。ただ、アバターを使うことで、通常では人間がかなりのトレーニングをしないとできない所作を簡単に行えるのです。実際、私のアバターは身振り手振りを上手に使い、私より見事なプレゼンを行っています。

また、私が演出家の平田オリザ先生と手がけたロボットやアンドロイドによる演劇は、多くの観客を感動させています。2010年のあいちトリエンナーレで初披露したアンドロイド演劇『さようなら』は、世界中から招かれて各地で公演しています。2014年に制作公開したカフカの小説をもとにした演劇『変身』もフランスをはじめ、世界で高く評価されています。

これらの公演での観客の反応を見て思ったのは、人はロボットやアンドロイドの演技にも、人間らしい心を感じること、ときには人間による演技以上に心を揺さぶられるということです。このような人を感動させるロボットの演技は“そもそも心とは何なのか”といった根源的な問いを私たちに突きつけます。いずれにしろ未来では、アバターやロボットが出演する演劇や映画、舞台が今よりも当たり前のものになっているかもしれません。

人類の理想を科学技術によって実現していくために

演劇の領域に限らず、私は今後、人間とロボットの境界はどんどんなくなっていくと考えています。ただ、私が思い描いている未来の社会は、単にロボットがたくさん活躍しているだけの社会ではありません。ロボットとの関わりによって、人間への理解が深まり、人間の可能性がますます広がっていくような社会です。

ところで、そもそも“人間”とは何なのでしょうか?この人類にとっての永遠のテーマに正解などありません。私たち一人ひとりが生きながら、常に模索し続けていくものなのだと思います。ただ少なくとも、人間は科学技術に基づく文明を築いていることが、動物と大きく異なる点です。そう考えると人間とは、“動物と技術をかけ合わせたもの”と言えなくもありません。

実際、私たちの現在の暮らしは、科学技術なしには成り立ちません。私たちは眼鏡や衣服で身体機能を、車や飛行機で運動機能を、ITやメディアによって知的機能やコミュニケーション機能を拡張させています。人類は生物としての進化だけでなく、科学技術によって進化してきたとも言えます。今後もロボット技術やAIなどの科学技術と融合しながら、人類は「いのち」の可能性を広げていくことでしょう。

私がテーマ事業プロデューサーを務める大阪・関西万博では、そのように人間がロボットなどの技術と融合して進化していく未来の世界を描きます。50年先の病院や学校がどうなっているのかなどといったことを、具体的なシーンで表現します。さらに、1,000年、10,000年、10万年経ったときに、どのように人間が進化しているのか。そのような壮大なスケールでのビジョンもお見せします。アバターでバーチャル万博を体験したり、物理的なアバター(ロボット)でリアル会場に参加したりすることもできる予定です。未来の人間とロボットの共生社会、「新しいいのち」のあり方を実感していただける絶好の機会となりますので、ぜひ楽しみにしていてください。

大阪・関西万博で提示するのは、私たちのチームが思い描く未来の社会です。社会に生きる一人ひとりの思いが積み重なって未来が実現します。そして理想の未来を思い描き、それに向かって行動できることも、人間の大きな役割です。みなさん一人ひとりが理想のロボットと人間の共生社会を思い描くことが、より良い未来につながるのであれば、うれしい限りです。

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PROFILE

石黒 浩

石黒 浩(イシグロ ヒロシ)

ロボット工学者、大阪大学教授

1963年滋賀県生まれ。ロボット工学者、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻(栄誉教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)、遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年大阪文化賞受賞、2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年立石賞受賞。哲学者の鷲田清一氏との共著『生きるってなんやろか?』のほか、『アンドロイドは人間になれるか』、『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』、『ロボットと人間 人とは何か』など多数。

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