保険料の一括払
昨今の低金利の影響で銀行にお金を預けていてもなかなか利息がつきません。少しでも効率良く資産運用する方法はないかと生命保険を選ばれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。効率良く資産運用をするには、保険料を抑えて同じ保障を得る、または保険料を抑えることによって解約返戻率を上げる、などが考えられます。保険料を抑える方法の1つとして保険料を「一時払」する方法があります。これは、契約時に保険期間全体の保険料を1回で払い込む方法です。ほかに、一時払と混同しがちな「全期前納」という払込方法など、保険料の払込方法はいくつかあります。では、これらの払込方法の違いや活用方法などをみていきましょう。
なお、タイトルの「一括払」は月払の保険料を数回分まとめて払い込むことだけを指すことがありますが、ここではまとめて支払うことを一括払としています。
保険料の払込方法は選択することが可能です
(1)保険料の払込方法の違い
生命保険や医療保険の保険料は、契約時に払込方法を選択することが可能で、契約の途中で変更することもできます。ただし、保険会社や保険商品によっては払込方法を選択・変更できないこともありますので注意が必要です。また、一般的に月払よりも半年払などまとめて払い込むほど保険料はお手頃になります。
【表】保険料の払込方法と回数
払込方法(※) | 払い込む回数 |
---|---|
月払 | 毎月払い込む |
半年払 | 半年に1回払い込む |
年払 | 年に1回払い込む |
一時払 | 契約時に全保険期間分の保険料を1回でまとめて払い込む |
一括払 | 月払の保険料を数回分まとめて払い込む |
前納 | 半年払や年払の保険料を数回分まとめて払い込む |
全期前納 | 将来の保険料を全保険期間分1回でまとめて払い込む |
※保険会社や契約を締結した時期によって名称が異なる場合があります。
資料:執筆者作成
(2)払い込んだ保険料の取り扱い
保険料をまとめて払い込む方法に半年払、年払、一時払、一括払、前納、全期前納などがあります。これらの払込方法を選択した場合、払い込んだ保険料の取り扱いに違いがあります。
一時払は保険期間全体の保険料を1回で払い終えてしまうのに対し、半年払、年払、一括払、前納、全期前納で払い込まれた保険料は保険会社に預けた状態になり、もともとの払込期日がくる都度、保険料にあてられます。
【図1】払い込んだ保険料の取り扱いの違い(イメージ)
資料:執筆者作成
一時払と全期前納の特徴
一時払と全期前納は、どちらも保険期間全体の保険料を1回で払い込みます。では、それぞれの特徴はどんなものがあるのでしょうか。
(1)死亡時や解約時の保険料の返還に違いがある
死亡や解約で保険契約が消滅した場合や保険料払込免除になった場合、一時払と全期前納では払い込んだ保険料の取り扱いは大きく違ってきます。
一時払では、保険契約消滅後や保険料払込免除になった場合、保険料は返還されませんが、全期前納では、保険契約消滅後や保険料払込免除になった場合、まだ経過していない期間の保険料相当額が返還されます。これは、全期前納した保険料はもともとの払込期日が到来するまで保険会社に預けていたものとして取り扱われるため、保険契約が消滅等した時点でまだ預けた未経過期間分の保険料が残っていた場合返還されるものです。この取り扱いは半年払、年払も同じです(平成22年4月以降の契約に限ります)。
(2)生命保険料控除では全期前納がお得
例えば、平成24年1月1日以降に加入した死亡保障のみの生命保険ならば、所得税では年間最大40,000円、住民税では年間最大28,000円の所得控除を受けることが可能です。一時払の場合は、この控除は保険料を払い込んだ年だけしか受けられないのに対し、全期前納では、保険料に充当される都度、毎年受けることができます。
一時払の生命保険(死亡保障)を検討するなら
(1)必ず余裕のある資金で
一時払の生命保険は、一般的に一度に多額の保険料を納めることになります。契約後一定期間を経過せず解約してしまうと、解約返戻金は払い込んだ保険料より少なくなってしまいます。住宅ローンの返済や教育費などライフプランを考えた上で必ず余裕のある資金で契約をしましょう。また、保険期間が長期にわたって物価が上昇した場合、受け取れる保険金や解約返戻金の価値が下がってしまうリスクもあります。
(2)自分にあった保険商品をみつけましょう
一時払の生命保険には米ドルや豪ドルなどの通貨選択型のものや、円建てでも契約後10年間などの「第1保険期間」に災害以外の原因で亡くなった場合、死亡給付金として一時払保険料相当分が給付され、第1保険期間満了日の翌日からはじまる「第2保険期間」から死亡保険金を受け取れる、初期死亡保険金を抑制した商品もあります。外貨建ての保険商品には為替変動リスクが、「初期死亡保険金抑制型」の保険商品には長期間加入しないと一時払いした保険料を上回る死亡保険金が受け取れないなど、期間のリスクがある商品もあるため注意が必要です。
【図2】初期死亡保険金抑制型の一時払終身保険の仕組み(イメージ)
資料:執筆者作成
(3)相続対策に一時払終身保険
自分に万一のことがあった場合、遺族に相続税の負担が生じるかもしれないと心配な方は、一時払の生命保険を相続税対策として活用することもできます。
契約者の死亡により死亡保険金を受け取った相続人は、非課税枠「500万円×法定相続人の数」(※)を活用できるため、預貯金をそのまま受け取った場合より相続税が軽減されます。例えば法定相続人が3人いる場合、1,500万円までの死亡保険金であれば相続税がかかりません。また、一時払の生命保険には、職業告知や健康状態の告知のみで加入できたり、80歳代でも加入できたりと加入条件が緩やかになっている商品があることも相続税対策に有効な理由の1つです。
※契約者と被保険者が同一で死亡保険金受取人が相続人だった場合に限ります。
全期前納の活用方法
資金に余裕はあるけれど、一時払は抵抗があるという方は全期前納ができないか確認しましょう。前納すると保険料の割り引きが受けられるため、毎回保険料を支払うよりも保険料の節約効果があります。また、保険料に充当される都度、毎年生命保険料控除を受けられること、解約時には解約返戻金と未経過分の保険料が戻ることがメリットになります。
医療保険を一括払いする前に
病気・ケガによる医療費の負担により、貯蓄を取り崩すなどの家計への大きなダメージを避けるために医療保険への加入をお考えの方も多いでしょう。終身保障の医療保険の場合、保険料を一括払いする(まとめて払う)ことで、収入が減少すると考えられる老後に保険料の心配をすることなく保障を受けることができます。しかし、医療保険は、入院日数が短くなる傾向に合わせて入院1日目からの保障が重視されるようになるなど、医療の進歩とともに必要な保障が変化する可能性があります。また、高額療養費制度を利用することで医療費にかかる費用が抑えられるため、一括払で貯蓄を減らして支障がないか慎重に判断しましょう。
-
コラム執筆者プロフィール
世良 亜由美 (セラ アユミ) - 宅地建物取引士/AFP/終活アドバイザー
- 会計事務所にて経理のプロとして実務と記帳の指導や経営者の相談業務などを行う。その中で、家庭にも相談できる相手が必要ではないかと考えファイナンシャルプランナーの資格を取得。現在は家計のプロとして主婦目線で家計バランスのアドバイスや起業女性の相談を行う。
つなぐFPオフィス代表
ファイナンシャルプランナー 世良 亜由美
※この記載内容は、当社とは直接関係のない独立したファイナンシャルプランナーの見解です。
※掲載されている情報は、最新の商品・法律・税制等とは異なる場合がありますのでご注意ください。